パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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27.心を映す光景

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「ふんふんふーん――」

「――やあ、スピカ」

「あっ……!」

 レギュラー組の宿舎の広い庭で鼻歌交じりに掃除していたスピカだったが、歩み寄ろうとする俺のほうを見た途端、派手に尻餅をついてしまった。

 この過敏な反応……やっぱりカルバネの言う通りなのか。俺はただの実験体であり捨て駒同然だというのか。パンツが見えてしまってるのに隠そうとしないのは以前と一緒だが……。

「セクトさん……ど、どうされたんです?」

「ちょっとな。遊びにきた」

「そ、そうなんですねぇ。例のお部屋に案内したいところですが、今はリーダーの方がお休み中で入れないんです……」

 ああ、あの男か。昼の刻なのにまだ寝てるのか……。

「大丈夫。暇潰しに様子を見にきただけだから。みんなの顔を見たらすぐ帰るよ」

「こ、困ります!」

 狼狽した様子で立ち上がるスピカ。

「……困る?」

「はい……」

 やっぱり困るよなあ。突然、仲間じゃなくて俺みたいな使い捨て予定の人柱がやってきたんだから。そりゃ相手も心の準備ができてないんだから、こんな腫物を扱うような反応にもなるだろう。

「みなさんがお留守の間、セクトさんといちゃつくなんて……わたくしには幸せすぎます……」

「……」

 顔を赤らめてまごつきながら話すスピカに、俺は心底感心していた。さすがにレギュラー組の一人だけある。もう冷静さを取り戻してマニュアル通りに動き出したか。

「バニルたちはなんでいないんだ?」

「アルテリスのほうにお買い物に行きましたあ」

「……買い物か」

「はいー。今日の当番はバニルさんなのですが、ルシアさんとミルウさんも一緒についていったので、わたくしだけお留守番なんですよぉ……」

「そうなんだな」

 あいつら、急に現れた俺を前にしてどんな顔をするのか今から楽しみだ。一様に顔を引きつらせるかもな。それなら思い残すこともなくなりそうだ。

「あのっ、中にお入りください!」

 ……お、人柱の受け入れ態勢がようやく整ったか。

「わたくしのお部屋へどうぞ……と言いたいところですが、みなさんに怒られちゃうので客室のほうにご案内しますねー」

「うん。頼むよ」

 俺は即座に笑顔を作り、素直にうなずいてみせた。疑ってかかると相手も本性を見せ辛いだろうしな。



「……」

 俺は宿舎内に足を踏み入れ、スピカの後ろをついていく。

 見慣れてるはずの景色なのにやたらと新鮮味があったのは、きっと俺の心の中がガラリと狭いものに変わってしまったからだろう。そのせいかまったく余裕はないが、妙に緊張感があって色んな場所に視線をとられるためか、余計に周りが違うものに見えているのかもしれない。

 ありとあらゆる場所に小さな穴が開いててそこから誰かに監視されてるような、そんな窮屈な気分になってくる。

「ふんふんふーん♪」

「うっ……」

 スピカの唐突な鼻歌で俺の肩がびくっとなった。

「どうしましたぁ?」

「い、いや、なんでもない」

「はーい。ふんふんふんっ」

 廊下を歩く際の軽やかな足取りといい、彼女はやたらと楽しそうで演技には到底見えない。これはあれか。想定外のことに最初は驚いたものの、相変わらず騙されてるバカな俺に安心して、今ではさながら動くオモチャを手にした小さな子供の心境といったところだろうか。

 しかもバニルたちがいない間独り占めできるから、より興奮度も増してるのかもしれない。このタイミングでスピカの正面に回ればほぼ確実に凶悪な微笑みが見られるだろうが、我慢だ。

 バカにしやがって……お前たちの魂胆はお見通しなんだよ。みんな帰ってきて必死にその場を取り繕う中、俺は騙される振りをしながら心の中で大いに笑ってやろう。カルバネの言ったように……。

 もちろん、それを前面に表すことは絶対にしない。もしそれをやってしまえば、俺がレギュラー陣に反抗する恐れがあるとして、人柱にされるより先に処分されてしまう恐れだってあるからだ。

 それでも、俺は彼女たちに助けられたわけだから借りだけは何がなんでも返すつもりだ。今日限りで心を全て摘出しても、義理だけは果たすつもりなんだ。どんなに惨めでも、俺の人生の余韻として。

 この宿舎を出る頃には、きっとまた違った景色が見られることだろう……。
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