27 / 130
27.心を映す光景
しおりを挟む「ふんふんふーん――」
「――やあ、スピカ」
「あっ……!」
レギュラー組の宿舎の広い庭で鼻歌交じりに掃除していたスピカだったが、歩み寄ろうとする俺のほうを見た途端、派手に尻餅をついてしまった。
この過敏な反応……やっぱりカルバネの言う通りなのか。俺はただの実験体であり捨て駒同然だというのか。パンツが見えてしまってるのに隠そうとしないのは以前と一緒だが……。
「セクトさん……ど、どうされたんです?」
「ちょっとな。遊びにきた」
「そ、そうなんですねぇ。例のお部屋に案内したいところですが、今はリーダーの方がお休み中で入れないんです……」
ああ、あの男か。昼の刻なのにまだ寝てるのか……。
「大丈夫。暇潰しに様子を見にきただけだから。みんなの顔を見たらすぐ帰るよ」
「こ、困ります!」
狼狽した様子で立ち上がるスピカ。
「……困る?」
「はい……」
やっぱり困るよなあ。突然、仲間じゃなくて俺みたいな使い捨て予定の人柱がやってきたんだから。そりゃ相手も心の準備ができてないんだから、こんな腫物を扱うような反応にもなるだろう。
「みなさんがお留守の間、セクトさんといちゃつくなんて……わたくしには幸せすぎます……」
「……」
顔を赤らめてまごつきながら話すスピカに、俺は心底感心していた。さすがにレギュラー組の一人だけある。もう冷静さを取り戻してマニュアル通りに動き出したか。
「バニルたちはなんでいないんだ?」
「アルテリスのほうにお買い物に行きましたあ」
「……買い物か」
「はいー。今日の当番はバニルさんなのですが、ルシアさんとミルウさんも一緒についていったので、わたくしだけお留守番なんですよぉ……」
「そうなんだな」
あいつら、急に現れた俺を前にしてどんな顔をするのか今から楽しみだ。一様に顔を引きつらせるかもな。それなら思い残すこともなくなりそうだ。
「あのっ、中にお入りください!」
……お、人柱の受け入れ態勢がようやく整ったか。
「わたくしのお部屋へどうぞ……と言いたいところですが、みなさんに怒られちゃうので客室のほうにご案内しますねー」
「うん。頼むよ」
俺は即座に笑顔を作り、素直にうなずいてみせた。疑ってかかると相手も本性を見せ辛いだろうしな。
「……」
俺は宿舎内に足を踏み入れ、スピカの後ろをついていく。
見慣れてるはずの景色なのにやたらと新鮮味があったのは、きっと俺の心の中がガラリと狭いものに変わってしまったからだろう。そのせいかまったく余裕はないが、妙に緊張感があって色んな場所に視線をとられるためか、余計に周りが違うものに見えているのかもしれない。
ありとあらゆる場所に小さな穴が開いててそこから誰かに監視されてるような、そんな窮屈な気分になってくる。
「ふんふんふーん♪」
「うっ……」
スピカの唐突な鼻歌で俺の肩がびくっとなった。
「どうしましたぁ?」
「い、いや、なんでもない」
「はーい。ふんふんふんっ」
廊下を歩く際の軽やかな足取りといい、彼女はやたらと楽しそうで演技には到底見えない。これはあれか。想定外のことに最初は驚いたものの、相変わらず騙されてるバカな俺に安心して、今ではさながら動くオモチャを手にした小さな子供の心境といったところだろうか。
しかもバニルたちがいない間独り占めできるから、より興奮度も増してるのかもしれない。このタイミングでスピカの正面に回ればほぼ確実に凶悪な微笑みが見られるだろうが、我慢だ。
バカにしやがって……お前たちの魂胆はお見通しなんだよ。みんな帰ってきて必死にその場を取り繕う中、俺は騙される振りをしながら心の中で大いに笑ってやろう。カルバネの言ったように……。
もちろん、それを前面に表すことは絶対にしない。もしそれをやってしまえば、俺がレギュラー陣に反抗する恐れがあるとして、人柱にされるより先に処分されてしまう恐れだってあるからだ。
それでも、俺は彼女たちに助けられたわけだから借りだけは何がなんでも返すつもりだ。今日限りで心を全て摘出しても、義理だけは果たすつもりなんだ。どんなに惨めでも、俺の人生の余韻として。
この宿舎を出る頃には、きっとまた違った景色が見られることだろう……。
41
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる