パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

文字の大きさ
上 下
26 / 130

26.溶けていく心

しおりを挟む

「うっ……?」

 朝目覚めたとき、俺は自分が泣いているのに気付いた。

「畜生……」

 なんで泣くんだ。情けない。まさか、俺はまだバニルたちを信じてるのか。お人よしであり続けようというのか……。

 いい人であることに一体なんのメリットがあるっていうんだ? 利用され、ちょっとしたミスでなじられたり踏みにじられたり……みんなそうだ。いい人ほど心労で早く死んでしまう。何もかも失ったとき、初めて自分が愚かだったと知る。気付いたときにはもう取り返しがつかない。

 それでも、バニルたちの笑顔が全て偽りだったなんて思いたくはない。何かの間違いじゃないかとすら思ってしまう。それに、俺を含めて誰だって悪いところはあるはずだし、俺を利用しようとはしてたけど、その考えは間違いなんだと気付いて改心した可能性だってあるかもしれない……。

 そこで扉をノックする音がした。多分、カルバネだ。

「セクト、俺だ。入るぞ」

 やっぱりそうだ。カルバネ以外だと遠慮なく入ってくるし、ノックしてきた時点でそうだと思った。

「……なんだよその泣きっ面。まだ心を捨ててなかったのか」

「……」

 必死に涙を拭ったつもりだが、バレバレだったらしい。きっと俺の左目が赤くなってたんだろう。

「セクト……お前が心だと思ってるものはガラクタ同然なんだから早く捨ててしまえ。実際にあるのは心臓と脳みそだけだ。そう考えれば楽になれるぞ。人間なんざクソだ。特に綺麗事で身を守っているようなやつはな。お前の潰れた片目と片手もそう訴えてるだろう?」

「……」

 反論できない。でも、99%理解できるのに、残り1%の部分でどうしても拭いきれないものがあった。

「じっくり考えろとは言ったが、まだ迷いがあるようだな。それなら、今からバニルたちの宿舎に行け」

「……え?」

「それではっきりする。急にお前のほうから行くんだ。あいつらはお前が計画通り動かなかったことで明らかな動揺を見せるだろう。そこを見逃すな」

 カルバネがここまで自信たっぷりに言うってことは……やっぱりそういうことなんだろうな。確かに、直接自分の目で確かめたほうが色々と吹っ切れそうだ。

 その時点で、俺は躊躇なく心を捨てることができる。淡々と借りを返し終わったら、たった一人で人間を忌み嫌いながら、あるいは誰かを傷つけながら生きることができる。心さえ捨てれば、いつでもどこでもペンダントを外して暴れ回ることができるんだ。いずれは駆けつけてきた教会兵によって駆逐されるのだろうが、俺なんか長く生きても意味がないし問題ない。

「お、いい顔してきた。その調子だ。逆に笑ってやれ。やつらを、腹の底でな。お前らの考えてることなんざお見通しだって。使い捨ての駒はお前らのほうなんだってな」

 ぼやけた視界の中、カルバネの綻んだ口元が薄らと見えた。



「セクト、気を付けて行ってこいよお!」

「セクトさん、余所見して転ばないようにしてくださいよ!」

「……頑張れ……」

 アデロ、ピエール、ザッハの三人に笑顔で見送られて出発する。

 どういうわけか、俺に対して気持ち悪いくらい優しかった。これも俺がカルバネの提案に承諾したからだろうか。本当に調子のいいものだな。俺が虚ろな顔をしてるのもいいんだろう。まさに他人の不幸は蜜の味ってわけだ。

 そうだ……思い返してみれば13歳くらいの頃、俺はイラルサの学校で体中に靴跡をつけられて泣いていた蛇男のグレスを校舎の窓から見て、可哀想だと思いつつ実は安心していたんじゃないかと思う。自分はこいつよりは遥かにマシなんだって、内心見下していたんじゃないか。そうだ、結局は俺も屑だったんだ。

「……あ……」

 カルバネから渡された地図通り歩くと、バニルたちの宿舎はすぐに見えてきた。

 ここまで一切迷うことがなかったのも、俺が彼女たちの元で現実を知り、絶望するのを補欠組のみんなが期待して丹念に作成したからだ。そう思っても胸が痛まなくなってきているのは、きっと俺が心を失いかけてる証拠なんだろう……。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

処理中です...