パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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24.天国と地獄

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「ちょっと! どうして断るのよ!」

「……なんか特別扱いみたいだし、ただでさえあいつらに睨まれてるから」

 ルシアにこう告げて、自分が嫌になるのも確かだった。

 俺はどこまでお人よしであり続けるのか。人間なんてどれだけ綺麗事を吐こうが所詮は動物にすぎない。結局は感情で動く。なのにその本質から目を背けて、そんなにいい人、立派な人でありたいというのか。真面目に生きたってバカを見るだけなのに。

 ……けど、妙に落ち着くんだ。こっちのほうが本音に近いというか、自分がこうしたいと自然に思えた。

 狡賢さは快適に生きるために必要かもしれないが、自分を曲げて生き方を変えてまで幸せになろうとは思えない。彼女たちは不自然なまでに俺に優しくしてくれるが、それに対して努力もしてない自分が甘えるのは苦しい。何か違う気がするんだ。

「セクトをギルドに連れて行かなかったあいつらが悪いんでしょ!」

「ルシアの言う通りだよ、セクト……。だから、今日は私の部屋でゆっくりしてって。ね?」

「……」

「バニル!」

「いいでしょ。ルシアはずっとセクトを独り占めしてたんだから……」

「……ふ、二人とも、喧嘩はやめよう」

 そう言いつつ、俺の心は少し揺らいでいた。バニルは俺より年下っぽい感じなのに妙に色っぽいところがあるから困る。

「あの、セクトさん。わたくしとなら、部屋が散らかる心配はありませんよぉ」

「だろうね」

「ベッド以外はですが。はうぅ……」

「……」

 両手で顔を押さえるスピカ。頑張ったんだな。

「あふっ。セクトお兄ちゃん……ミルウとなら、毎日ヌードが見放題だよ!」

「……」

 今度はミルウの番か。反応し辛いからスルーで。

「セクトお兄ちゃんが言ったように、ミルウは良いお尻してるよ!」

「か、勘弁してくれ……」

「うふふっ!」

 彼女と一緒にいたら、俺までいつの間にか脱がされて既成事実を作られそうだ。

「大丈夫。向こうできっちりやってきて、またここに戻ってくるよ」

 曖昧な態度は却って人を傷つける。だから、俺はなるべく明るい顔と口調でみんなに返答した。

「……や、約束を破ったら覚悟しなさいよね! セクトが本当に男の子かどうか、確認してあげるんだから!」

「嘘ついたら、すんすんしちゃいますから」

「無理矢理奪っちゃうかもねぇ」

「ミルウのペットにするもん!」

「……そ、それじゃ……」

 俺は照れた顔をみんなに見られたくなくて背を向けた。からかわれてるんだろうが悪い気はしない。実力で彼女たちに認められるようにならないとな。



「――た、ただいま……」

 バニルたちに別れを告げ、俺は例のボロ宿舎に帰ってきたわけだが、なんともジメッとした空気と棘のある視線に身震いした。アデロ、ピエール、ザッハの三人が揃って玄関先に立ち、冷ややかな顔で俺を見下ろしていたのだ。

「ただいまじゃねーよカス。おめー、水を汲んでくるんじゃなかったのかよ!」

「あ……」

 アデロに言われて思い出す。そうだ。俺は湖に水を汲みにいくところだったんだ。

「あ、じゃないでしょう……! 忘れたとでも言うのですか? お間抜けさん」

「……愚か者……」

 ピエールとザッハに立て続けに責められるが、こっちにも言い分はある。

 間違った方向に俺を行かせて、森で迷わせてあわよくば消そうとしてたくせによく言う。ただ、ここで新入りの俺が言い訳なんかするのは許されなくて、低姿勢で謝らないといけないんだろう。理不尽でも黙って従わせるのがならず者のルールだからな。それに逆らえば大問題になりかねない。

「申し訳ありませんでした」

「ハア? 謝れば済む問題かよおめー!」

「アデロさん、ザッハさん、ここは制裁が必要じゃないですか?」

「……んだ。ボコる……」

 やたらと時間が長く感じた。庭まで引きずり出された俺は、アデロ、ピエール、ザッハの三人からひたすら殴る蹴るの暴行を受けていた。

「うごっ、がはぁ……!」

 痛みがトラウマを引き起こして更なる痛みを生み出す無限ループ。

「……」

 ……幾つもの手と足が俺の体に痛みを植え付けていくのをじっと眺めるだけの作業。頼む、早く終わってくれ。地獄よ、俺を解放してくれ……。

「――おいお前ら、もうよさないか」

 しばらくして聞こえてきたカルバネの声で、俺はようやく自分が人間であることを認識できた。それまでは、苦痛から逃れるべくひたすら無を貪るただの物質でしかなかったから。

「……ひゅ、ひゅうぅう……」

 肺が一部破れたんじゃないかってくらい、息をするだけ胸が痛む。

「セクト、お前も悪いんだぞ。昼の刻にバニルたちとギルドに行ってただろう。それをこいつらが目撃して嫉妬したんだ」

「……」

 なるほど。あの毒々しい視線の正体はそれだったのか……。

「そのことでお前に折り入って話がしたい」

「……は、話……?」

「そうだ。話だ……」

 なんとか頭を上げたとき、朧気に見えたカルバネの目が怪しく光るのがわかった。
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