22 / 130
22.赤の世界
しおりを挟む「窪みにどの指で触れるかで、見たい情報が切り替えられるのよ」
「へえ……」
ルシアによると、石板で見られる情報は親指であれば、固有能力に加えて基本スキルや派生スキルで、人差し指だと現在の装備やアイテム、所持金等、中指だと自身の冒険者ランクや名前、種族、性別、心身の状態や能力等の細かいステータス、薬指だと卒業した学校や剣術、体術における資格、取得技量、攻略したダンジョン等、小指は所属パーティーと現在位置、受けた依頼の進行具合、季節や時刻等を表すという。
こうした情報が入りきらなかった場合、もう一度同じ指で窪みに触れれば表示されるのだそうだ。しばらく放置すれば石板には何も表示されなくなり、盗み見の防止にもなるという。
試しにまず親指でその部分に触れてみたら、バニルの言う通り【変換】という固有能力とその説明だけ表示されていて、もちろんランクは何も覚えてないので底辺のFだった。
バニルによると、稀に基本スキルを習得した時点で、熟練度とか関係なくFランクから一気にSランクになる幸運な冒険者もいるらしいが、一体どれだけ凄い効果なんだろうな。
次に人差し指を当てると、着ている服やズボンの種類まで表示された。封印のペンダントの文字が特に目立つ。所持金はもちろんゼロ……って、あれ?
「……ルシア、俺の所持金が1000ゴーストもあるんだけど、石板が間違ってるんだよね?」
「あ、あたしがプレゼントしたのよ! 受け取りなさいよね!」
「あ、そうだったのか。ありがとう……」
どこに入れられたのかと思って自分の服をまさぐったら、ズボンのポケットに入っていた。多分、いつの間にかルシアに操られて受け取り、自分で入れたんだろう。これでまた借りが増えちゃったな。頑張らないと……。
「……凄い情報量……」
「でしょー」
今度は中指を当てて自分のステータスを覗いてみたんだが、本当に細かく載ってて驚かされる。
身長とか体重まであって、おそらくほかに登録した冒険者たちと比較したものだろうが、数値の横にランクまで表示されていた。最下位がFでSSSが頂点のようだ。ちなみに俺は中背中肉だからか身長も体重もCだった。
続いて薬指で触れてみると、故郷の村イラルサの学校の卒業についてまで記されていた。
そこには7歳から15歳くらいまで在籍してたが、正直あまりいい思い出はない。よくラキルとつるんでたせいかいじめられるようなことはあまりなかったが、思えばあの頃から俺は陰で笑われてたんだろう。オモチャのセクトとして……。
「ちょっと、セクト、どうしたの。顔が赤いわよ?」
「……い、いや。なんでもないよ」
前のめりになったルシアが覗き込んできて、俺は透かさず石板を抱くようにして隠した。彼女が不満そうに頬杖を突くのを見届けて、最後に小指で触れてみると、所属パーティー『インフィニティブルー』と表示されていた。ランクはなんとBだ。
「あれ……」
「どうしたの?」
「いや、なんかやり取りをした覚えもないのにもうパーティーに所属したことになってるんだなって」
「そんなの当然よ。パーティーの一員として受け入れる姿勢させ見せれば、十人の定員オーバーじゃなきゃ認識されるわ」
「そうなのか――」
「――ふむふむ、なるほどー」
「なるほどですねぇ」
「にゃるほどぉ」
「あ……」
聞き覚えのある声がしたと思って振り返ると、フードを被った三人が俺の背後に立っていて、逃げるように隅のテーブルのほうへと小走りに去っていった。確かに今の声、バニル、スピカ、ミルウのものだったような。
「もー、あいつらあたしに負けたくせにデートの邪魔をする気ね!」
「……」
ルシアが顔を赤くして怒ってるしもう確定だな……。
「――おい、お前らそこどけよ」
「どきなってんだよ」
「え?」
突然やってきた男女の二人組が俺たちを威嚇してきた。
男のほうはとても短い緑色の髪、肌の上に直接着た黒いベスト、青い炎のペンダントが特徴で、もう一人も胸元が靴紐状になった開放的な服装をしていて、紫色のサイドポニーが豊かな谷間を抉る色っぽい女だった。
なんなんだ。ここはこいつらの縄張りか?
「な、何よ――……あ……」
後ろを向いたルシアの声には、驚きの成分がかなり含まれていると感じた。知っているやつらなのかもしれない。いかにもならず者といった感じだが、ルベックのような迫力は伝わってこなかった。
「おい、聞こえなかったのか」
「そこはあたいらの場所だよ。痛い思いしたくなかったらさっさとどきな……って、ワドル、こいつらあれだよ」
「あれじゃわからねえよネリス」
「ほら、耳貸しな!」
なんだ? 女のほうが男に耳打ちしたかと思うと、まもなく二人の顔に気持ち悪い笑みが浮かんだ。思いっ切り口をひん曲げて嘲笑しているのがわかる。
「なんだよ。よく見たらインブルの一人がいるじゃん」
「あははっ。インブルっていったらさ、衰えた元英雄さんの恩恵を受けてるだけのあの雑魚パーティーだよねえ」
「……」
インブルってなんのことかと思ったら、うちのパーティー『インフィニティブルー』を略してるっぽいな。そこそこ有名らしい。元英雄っていうのは多分リーダーのことなんだろう。
「あんたたち……黙ってればいい気になって……」
ルシアが涙目で声を震わせている。もしかしたら、彼女がギルドの前で緊張してたのって、こいつらに遭遇するかもしれないって思ってたからかもな……。
「なんだ? やんのか雑魚」
「やるんならあたいらが相手になるよ。そのお連れさんごと、ね」
「雑魚雑魚うるさいわよ。その雑魚に劣るC級パーティーのくせに……」
「……あ? おい、今なんつったよ」
「そこまで言うんなら、当然覚悟はできてるんだろうね?」
「……」
おいおい、あいつらの顔が見る見る赤くなってる。何かが起きそうな空気を察したのか周りから続々と人が集まってきたし、とても嫌な空気だ。あのときを思い出しそうになって、胸がズキズキと痛み始めた……。
49
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる