19 / 130
19.湖の見える町
しおりを挟む「ほらっ! セクト、早く! もっと急ぐわよ!」
「……る、ルシア、もうちょっとゆっくり……」
「ダメ!」
「う……」
俺はルシアに強引に連れられる形で湖畔の町アルテリスへと向かっていた。そこにある冒険者ギルドに行って、登録してもらうためだ。
固有能力を取得した者であれば、誰でも冒険者として登録できるんだ。崖から落とされる前は、俺とラキルとカチュアの三人でそこに行こうとしてたんだっけな。
アルテリスの町自体、聞いたことはあっても訪れたことはなかったので、無理矢理行くことになったとはいえ結構楽しみだった。
俺は大体故郷のイラルサの村周辺で活動してて、遠出をしたことはほとんどなかったからな。小さい頃に家族で王都まで観光に行ったことがあるらしいが、まったく記憶にない。
正直、俺は今気分がとても良かった。
でも、自分は中級者パーティー『インフィニティブルー』の新人なわけで、水汲みを放棄した挙句、こんなことをしてていいのかとも思ったが、ルシアによれば新人だからこそ連れて行くべきだし、それはカルバネたちの役割でもあったのでバニルが伝書鳩で既に伝えていたとか。
あいつらがそれを言い出す気配は微塵もなかっただけに、レギュラー組と補欠組の意思の疎通がいかに絶望的なのかがよくわかる。
「――ほら、着いたわ!」
「……あれが、アルテリスの町……」
鬱蒼とした森を駆け抜けるとそこは小高い丘で、そこから光り輝く湖と町を見下ろすことができた。急に別世界に迷い込んだかのようだ。
「どう? 綺麗でしょ?」
「……うん」
「そこは、男の子なら、君も綺麗だよって言うところでしょ!」
「……き、君も綺麗だよ」
「は、恥ずかしいこと言わないでよ!」
「……」
じゃあどうすりゃいいんだよ……。
「さー、行きましょ!」
「ちょ、ちょっと!」
「それえぇ!」
ルシアが俺の左手を引っ張って猛然と走っていくので、こっちはついていくのに必死だった。
しかも何気にちらちらと空色のパンツが見えるので、今の俺は色んな意味で顔が赤くなってるに違いない。さらに町の入り口に向かってショートカットする形で斜面を駆け下りてるもんだから、どんどんスピードアップして両足が絡まるんじゃないかと心配になるレベルだった。
「と、止まらないわ!」
「え!?」
「う、うわああぁぁっ」
「きゃああぁぁっ!」
俺たちは勢い余って入口の向こうの湖のほとりへと転がっていった。
「――う……」
目を開けると、俺は煌めく湖のすぐ脇にいることがわかった。どうやら少しの間気絶してたらしい。しかも、もう少しで湖に落ちるところだったんだな。危ない……。
「……あ……」
俺の眼下には横になったルシアがいて、俺をじっと見上げていた。
「セクト……」
「る、ルシア……」
ルシアに操られてるような感覚は一切なかった。俺は自分の意思で彼女の唇と自分の唇を合わせてしまった。
「「……」」
自分の心臓が高鳴りすぎて、相手に聞こえるんじゃないかと心配になる。ルシアもそうなんだろうか。
「……お、俺、歯とか結構欠けちゃってるけど……」
「そ、そんなの気にしないわよ」
「……」
確かにルシアは可愛いけど、本当に好きかどうかもわからない相手と、しかも初めてのキスをしてしまうなんて……。俺って自分でも大人しいやつだと思ってたのに、意外と積極的なところもあるんだな。新発見だ。
「もう終わり? お、男の子ならもっとがっつきなさいよ!」
「……無茶言うなよ」
「意気地なし!」
「……」
俺にこれ以上どうしろと……。
「さ、とっととギルドに行くわよ!」
「あっ……」
またルシアに手を引っ張られる。
それにしても、なんで俺なんかがこんなにモテてるんだろう? 歯を幾つも折られてるだけじゃなく、右目に加えて右手もないのに。
もしかしたら、それでお人よし感が薄れてるからなのかもな。あとは、固有能力の件もあるからだろう。今まで村の学校とかじゃまったくモテなかっただけに、どうしても素直には受け入れられなかった。
59
お気に入りに追加
1,702
あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる