パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し

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19.湖の見える町

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「ほらっ! セクト、早く! もっと急ぐわよ!」

「……る、ルシア、もうちょっとゆっくり……」

「ダメ!」

「う……」

 俺はルシアに強引に連れられる形で湖畔の町アルテリスへと向かっていた。そこにある冒険者ギルドに行って、登録してもらうためだ。

 固有能力を取得した者であれば、誰でも冒険者として登録できるんだ。崖から落とされる前は、俺とラキルとカチュアの三人でそこに行こうとしてたんだっけな。

 アルテリスの町自体、聞いたことはあっても訪れたことはなかったので、無理矢理行くことになったとはいえ結構楽しみだった。

 俺は大体故郷のイラルサの村周辺で活動してて、遠出をしたことはほとんどなかったからな。小さい頃に家族で王都まで観光に行ったことがあるらしいが、まったく記憶にない。

 正直、俺は今気分がとても良かった。

 でも、自分は中級者パーティー『インフィニティブルー』の新人なわけで、水汲みを放棄した挙句、こんなことをしてていいのかとも思ったが、ルシアによれば新人だからこそ連れて行くべきだし、それはカルバネたちの役割でもあったのでバニルが伝書鳩で既に伝えていたとか。

 あいつらがそれを言い出す気配は微塵もなかっただけに、レギュラー組と補欠組の意思の疎通がいかに絶望的なのかがよくわかる。

「――ほら、着いたわ!」

「……あれが、アルテリスの町……」

 鬱蒼とした森を駆け抜けるとそこは小高い丘で、そこから光り輝く湖と町を見下ろすことができた。急に別世界に迷い込んだかのようだ。

「どう? 綺麗でしょ?」

「……うん」

「そこは、男の子なら、君も綺麗だよって言うところでしょ!」

「……き、君も綺麗だよ」

「は、恥ずかしいこと言わないでよ!」

「……」

 じゃあどうすりゃいいんだよ……。

「さー、行きましょ!」

「ちょ、ちょっと!」

「それえぇ!」

 ルシアが俺の左手を引っ張って猛然と走っていくので、こっちはついていくのに必死だった。

 しかも何気にちらちらと空色のパンツが見えるので、今の俺は色んな意味で顔が赤くなってるに違いない。さらに町の入り口に向かってショートカットする形で斜面を駆け下りてるもんだから、どんどんスピードアップして両足が絡まるんじゃないかと心配になるレベルだった。

「と、止まらないわ!」

「え!?」

「う、うわああぁぁっ」

「きゃああぁぁっ!」

 俺たちは勢い余って入口の向こうの湖のほとりへと転がっていった。



「――う……」

 目を開けると、俺は煌めく湖のすぐ脇にいることがわかった。どうやら少しの間気絶してたらしい。しかも、もう少しで湖に落ちるところだったんだな。危ない……。

「……あ……」

 俺の眼下には横になったルシアがいて、俺をじっと見上げていた。

「セクト……」

「る、ルシア……」

 ルシアに操られてるような感覚は一切なかった。俺は自分の意思で彼女の唇と自分の唇を合わせてしまった。

「「……」」

 自分の心臓が高鳴りすぎて、相手に聞こえるんじゃないかと心配になる。ルシアもそうなんだろうか。

「……お、俺、歯とか結構欠けちゃってるけど……」

「そ、そんなの気にしないわよ」

「……」

 確かにルシアは可愛いけど、本当に好きかどうかもわからない相手と、しかも初めてのキスをしてしまうなんて……。俺って自分でも大人しいやつだと思ってたのに、意外と積極的なところもあるんだな。新発見だ。

「もう終わり? お、男の子ならもっとがっつきなさいよ!」

「……無茶言うなよ」

「意気地なし!」

「……」

 俺にこれ以上どうしろと……。

「さ、とっととギルドに行くわよ!」

「あっ……」

 またルシアに手を引っ張られる。

 それにしても、なんで俺なんかがこんなにモテてるんだろう? 歯を幾つも折られてるだけじゃなく、右目に加えて右手もないのに。

 もしかしたら、それでお人よし感が薄れてるからなのかもな。あとは、固有能力の件もあるからだろう。今まで村の学校とかじゃまったくモテなかっただけに、どうしても素直には受け入れられなかった。
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