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探検隊だよ、20分だけの
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少年は小学校5年生の夏がほぼ雨になっていたことにショックを覚えた。夜7時から始まるアニメを見る前の退屈なニュースの時間。お母さんと一緒にわけもわからないニュースを見ていると「ばいうぜんせん」なるものが日本に近づいてくるのでずっと雨と言い放ったお天気お姉さんのことを「なんだよぉ~」と文句を言ったりしていた。
年が一年下の妹も外で遊べないことに文句を垂れながらお楽しみのアニメを見る。小学校四年生の妹は外で遊べないという理由だけでへこたれているわけだが少年はまた違ったところでへこたれる。少年は帰り道、友達と一緒に帰る。他愛もない話をする時もあるがほとんどは家まで帰る近道を発見することが1番の楽しみだった。
決まった帰り道じゃあなくて自分で帰り道を作っていく感じ。たまに薄暗いところを通ったりめちゃくちゃ怖い犬の前を通らないといけないという地獄もあるが少年はこの帰り道20分の探検隊を楽しみにしていたのだ。それも雨が降っているとできないではないか……。その夜はしょぼんとした様子で少年は眠りについた。
アラーム音で目を覚ました少年は外から聞こえてくる雨音に嫌気が差してしかめ面をする。理由なんて放課後が面白くなくなるってだけ。そうであるが少年の心はずぅっと曇り空だった。朝ごはんであるトーストにかぶりついてオレンジジュースを流し込む。甘酸っぱい柑橘系の果汁が少年の口に広がった。今日の放課後は何をしようか……と考えているとお母さんが台所で水仕事をしながら少年に話しかける。
「そういえば、あんたはよく傘をなくすけど今度は無くさないでよ? もう四本目なんだから。次なくしたら許さないからね?」
「わかってるよ、お母さん」
そう、少年はよく傘をなくす。雨の日というわけで傘を持って学校に行った場合、お昼ごろから晴れてくれる場合があるのだ。そうなれば放課後は少年の時間なのでウキウキしながら探検隊へと出かける。その時にどこかで傘をなくして家に帰ってくるのだ。
初めの方はすぐに代えを用意してくれたが2回目3回目となるとお母さんは「なんでなくすの!」と怒ったときがあったっけ? 少年は怒られるのが嫌なのでいつも「わかってるよ」とだけ返す。正直なところどこをわかってるのかは不明だ。そもそもどこでなくしてるのかさえ分からないのに反省の仕様がない。
どこかの柵を乗り越えた時か、藪の中に入っていった時か、分からないがそろそろ気をつけた方がいいな……。少年は11歳の頭の中にポコポコと注意事項を詰め込んでいった。
歯を磨いて服を整え、時間割は大丈夫かを確認した少年は「行ってきます」と学校を出る。いつもの登校班で傘を差し合いながら登校する中、少年はもし晴れたら今日はどの道で帰ろうか……と探検ルートを確認していた。案外小雨だから雨の中の探検もいいかも……と考える。
そのまま学校に到着して授業を受けたり、休み時間は廊下で走って先生に怒られたり、給食の牛乳残りジャンケンで一人勝ちして歓喜に溺れるなど小学生を満喫していく。朝起きたときのような曇り空な心はどこかに吹き飛んでいたが外が晴れることは決してなかった。
今日分の授業が終わって少年は帰宅しようとする。帰りは集団じゃあないので探検隊をするのは天気次第だ。外に出てみると案外小雨でなんと今日は探検隊ができる日であったことに少年はついてると思う。それに傘を必ず差して帰るのでなくす心配もない。いつも一緒に帰ってる友達はまっすぐ帰ると言ったので少年は一人で今日のルートへと歩いていった。
学校付近の集合住宅の間を抜けてちょっとした脇道を通れば自分の家の近くの交差点に出る。これはついこの前発見したルートなのだった。何かと通路は狭いので少年の子供心をくすぐる帰り道である。少年は雨の中を自信満々に進んでいった。
学校近くの集合住宅の中には入っていいのか少年には分からなかったがなんとなく入っちゃいけないオーラを漂わせている。そんなところに一人で入っていくものだから少年の子供心は更にくすぐられた。トットッと足音を響かせながら狭い集合住宅の通路を駆けていく。ズボンが少し濡れそうになったが気にしない。
その通路を駆けて行くと穴の空いたフェンスがあり、そこをしゃがんで少年は通過した。ここを通過すれば集合住宅から脇道へと出る。その脇道を抜ければ交差点はすぐだ。雨でも結構楽しく探検できる。今日は傘をなくす心配もないな! と思っているとどこからか「ニャァ……」とか細い声がした。
誰もいないはずの脇道で少年の背筋がゾワッと寒くなる。まさか不審者!? と思っていると視線の先にボロボロの段ボール箱があったのが目に入った。その段ボール箱は雨水でかなりくすんでおり、何か大きな文字が書かれてるようだが滲んで見えなかった。そして段ボールの蓋を屋根に蹲っていたのは小さな子猫。少年はハッと息を飲んだ。
子猫、灰色の子猫である。とても小さくて本来輝いてるであろう茶色の目は雨水に打たれすぎたのかくすんでいた。少年は「捨てられてるの……?」と呟く。猫は「ニャァ」と答えるばかり。何も食べてないのかとても痩せ細ってるし、何より寒そうだった。
少年はちょうど給食のパンが残っていたので家で食べるためにもらっていたことを思い出し、丸々段ボール箱の中に入れた。持って帰るわけにはいかない。傘を無くさない代わりに猫を連れてきたらお母さんはどんな顔をするだろうか? そう考えると少年ができることはパンを与えることぐらいだった。
パンにかぶりつく猫。美味しそうに食べてるがこれだとしても猫は濡れてしまう。段ボールはすでにボロボロだ。少年は自分が傘を持っていることに気がついておこうとしたが朝のお母さんの言葉が脳裏に浮かんだ。そして美味しそうにパンを食べる猫を見る。
少年は「うぅ……」と唸った後に傘を持ってない左手をギュッと握って傘をゆっくりと猫のそばに置いた。これだと猫は濡れないし、目立つから誰かの目に入るかもしれない。少年はその一心で傘を置く。そしてパンを食べるのをやめて不思議そうに自分を見上げる猫を見て笑顔を作った。
「傘、あげるよ」
じゃあね、と少年は手を振って脇道を走り抜ける。家に帰ったらなんてお母さんに言おうか……猫を助けてあげたって言ったら分かってくれるよね? 大丈夫だよね? そう思いながら少年は交差点の信号を渡るのであった。
さて、偶然買い物帰りで少年が脇道から交差点を渡っているのを見た彼の母親は息子が突然通学路じゃない道から出てきたのを驚きつつも声をかけようと思ったが買い物袋を下げた自分に気が付かずに走り抜けてしまったので少し立ち止まっていた。
息子が傘を持っていなかったことに不思議に思いながら脇道を覗くと奥の方に何故か息子の傘が見える。恐る恐る近づいてみるとそこにはボロボロの段ボールに捨てられた子猫がパンを必死に食べているという状況だった。傘なしでこの脇道から飛び出してきて今、その傘をこの猫のそばに置いている……。母親はクスリと笑ってカバンからタオルを取り出し、猫を優しく包み込んだ。
この子は私たちの家族にしよう。自然とそう思えた。息子がペットが欲しいと言っていたことを思い出したのもあるが知らないところで思いやりのあることをしていた彼に感動したからというのもある。猫は不思議そうに抱きかかえてくれる母親を見ていた。
「次なくしたら許さないって言ってたのに……あの子ったら」
ボソリと呟いたその言葉にマイナスの感情は入ってなかった。動物病院は空いてるかしら? と考えながら母親は猫と共に家に帰る。脇道を抜けて交差点を出た頃には雲の間から日光が漏れているのを見てフフッと笑った。まるで自分たちを祝福してくれているようなスポットライトを浴びながら、母親は家に帰る。
年が一年下の妹も外で遊べないことに文句を垂れながらお楽しみのアニメを見る。小学校四年生の妹は外で遊べないという理由だけでへこたれているわけだが少年はまた違ったところでへこたれる。少年は帰り道、友達と一緒に帰る。他愛もない話をする時もあるがほとんどは家まで帰る近道を発見することが1番の楽しみだった。
決まった帰り道じゃあなくて自分で帰り道を作っていく感じ。たまに薄暗いところを通ったりめちゃくちゃ怖い犬の前を通らないといけないという地獄もあるが少年はこの帰り道20分の探検隊を楽しみにしていたのだ。それも雨が降っているとできないではないか……。その夜はしょぼんとした様子で少年は眠りについた。
アラーム音で目を覚ました少年は外から聞こえてくる雨音に嫌気が差してしかめ面をする。理由なんて放課後が面白くなくなるってだけ。そうであるが少年の心はずぅっと曇り空だった。朝ごはんであるトーストにかぶりついてオレンジジュースを流し込む。甘酸っぱい柑橘系の果汁が少年の口に広がった。今日の放課後は何をしようか……と考えているとお母さんが台所で水仕事をしながら少年に話しかける。
「そういえば、あんたはよく傘をなくすけど今度は無くさないでよ? もう四本目なんだから。次なくしたら許さないからね?」
「わかってるよ、お母さん」
そう、少年はよく傘をなくす。雨の日というわけで傘を持って学校に行った場合、お昼ごろから晴れてくれる場合があるのだ。そうなれば放課後は少年の時間なのでウキウキしながら探検隊へと出かける。その時にどこかで傘をなくして家に帰ってくるのだ。
初めの方はすぐに代えを用意してくれたが2回目3回目となるとお母さんは「なんでなくすの!」と怒ったときがあったっけ? 少年は怒られるのが嫌なのでいつも「わかってるよ」とだけ返す。正直なところどこをわかってるのかは不明だ。そもそもどこでなくしてるのかさえ分からないのに反省の仕様がない。
どこかの柵を乗り越えた時か、藪の中に入っていった時か、分からないがそろそろ気をつけた方がいいな……。少年は11歳の頭の中にポコポコと注意事項を詰め込んでいった。
歯を磨いて服を整え、時間割は大丈夫かを確認した少年は「行ってきます」と学校を出る。いつもの登校班で傘を差し合いながら登校する中、少年はもし晴れたら今日はどの道で帰ろうか……と探検ルートを確認していた。案外小雨だから雨の中の探検もいいかも……と考える。
そのまま学校に到着して授業を受けたり、休み時間は廊下で走って先生に怒られたり、給食の牛乳残りジャンケンで一人勝ちして歓喜に溺れるなど小学生を満喫していく。朝起きたときのような曇り空な心はどこかに吹き飛んでいたが外が晴れることは決してなかった。
今日分の授業が終わって少年は帰宅しようとする。帰りは集団じゃあないので探検隊をするのは天気次第だ。外に出てみると案外小雨でなんと今日は探検隊ができる日であったことに少年はついてると思う。それに傘を必ず差して帰るのでなくす心配もない。いつも一緒に帰ってる友達はまっすぐ帰ると言ったので少年は一人で今日のルートへと歩いていった。
学校付近の集合住宅の間を抜けてちょっとした脇道を通れば自分の家の近くの交差点に出る。これはついこの前発見したルートなのだった。何かと通路は狭いので少年の子供心をくすぐる帰り道である。少年は雨の中を自信満々に進んでいった。
学校近くの集合住宅の中には入っていいのか少年には分からなかったがなんとなく入っちゃいけないオーラを漂わせている。そんなところに一人で入っていくものだから少年の子供心は更にくすぐられた。トットッと足音を響かせながら狭い集合住宅の通路を駆けていく。ズボンが少し濡れそうになったが気にしない。
その通路を駆けて行くと穴の空いたフェンスがあり、そこをしゃがんで少年は通過した。ここを通過すれば集合住宅から脇道へと出る。その脇道を抜ければ交差点はすぐだ。雨でも結構楽しく探検できる。今日は傘をなくす心配もないな! と思っているとどこからか「ニャァ……」とか細い声がした。
誰もいないはずの脇道で少年の背筋がゾワッと寒くなる。まさか不審者!? と思っていると視線の先にボロボロの段ボール箱があったのが目に入った。その段ボール箱は雨水でかなりくすんでおり、何か大きな文字が書かれてるようだが滲んで見えなかった。そして段ボールの蓋を屋根に蹲っていたのは小さな子猫。少年はハッと息を飲んだ。
子猫、灰色の子猫である。とても小さくて本来輝いてるであろう茶色の目は雨水に打たれすぎたのかくすんでいた。少年は「捨てられてるの……?」と呟く。猫は「ニャァ」と答えるばかり。何も食べてないのかとても痩せ細ってるし、何より寒そうだった。
少年はちょうど給食のパンが残っていたので家で食べるためにもらっていたことを思い出し、丸々段ボール箱の中に入れた。持って帰るわけにはいかない。傘を無くさない代わりに猫を連れてきたらお母さんはどんな顔をするだろうか? そう考えると少年ができることはパンを与えることぐらいだった。
パンにかぶりつく猫。美味しそうに食べてるがこれだとしても猫は濡れてしまう。段ボールはすでにボロボロだ。少年は自分が傘を持っていることに気がついておこうとしたが朝のお母さんの言葉が脳裏に浮かんだ。そして美味しそうにパンを食べる猫を見る。
少年は「うぅ……」と唸った後に傘を持ってない左手をギュッと握って傘をゆっくりと猫のそばに置いた。これだと猫は濡れないし、目立つから誰かの目に入るかもしれない。少年はその一心で傘を置く。そしてパンを食べるのをやめて不思議そうに自分を見上げる猫を見て笑顔を作った。
「傘、あげるよ」
じゃあね、と少年は手を振って脇道を走り抜ける。家に帰ったらなんてお母さんに言おうか……猫を助けてあげたって言ったら分かってくれるよね? 大丈夫だよね? そう思いながら少年は交差点の信号を渡るのであった。
さて、偶然買い物帰りで少年が脇道から交差点を渡っているのを見た彼の母親は息子が突然通学路じゃない道から出てきたのを驚きつつも声をかけようと思ったが買い物袋を下げた自分に気が付かずに走り抜けてしまったので少し立ち止まっていた。
息子が傘を持っていなかったことに不思議に思いながら脇道を覗くと奥の方に何故か息子の傘が見える。恐る恐る近づいてみるとそこにはボロボロの段ボールに捨てられた子猫がパンを必死に食べているという状況だった。傘なしでこの脇道から飛び出してきて今、その傘をこの猫のそばに置いている……。母親はクスリと笑ってカバンからタオルを取り出し、猫を優しく包み込んだ。
この子は私たちの家族にしよう。自然とそう思えた。息子がペットが欲しいと言っていたことを思い出したのもあるが知らないところで思いやりのあることをしていた彼に感動したからというのもある。猫は不思議そうに抱きかかえてくれる母親を見ていた。
「次なくしたら許さないって言ってたのに……あの子ったら」
ボソリと呟いたその言葉にマイナスの感情は入ってなかった。動物病院は空いてるかしら? と考えながら母親は猫と共に家に帰る。脇道を抜けて交差点を出た頃には雲の間から日光が漏れているのを見てフフッと笑った。まるで自分たちを祝福してくれているようなスポットライトを浴びながら、母親は家に帰る。
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