あの時の歌が聞こえる

関枚

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ほんの少し

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「コケコッコー!」
鶏舎の鶏が喚きはじめた。もう朝か、僕はのっそりと起き上がり大きなあくびをした。
隣を見るとホノカがモゾモゾと動いた後に半身をおきあがらせて目をグシグシとこする。
「あ、ヒカル君。おはよう」
「あぁ、起きろ起きろってウルセェ鳥だわおい」
圭が起き上がり鶏舎の方向へと体を向ける。
マイも「うミュ……」と謎の声をあげて起き上がった。
「あ?おはよう」
みんな起き上がってうーんと伸びをする。
僕も肩を回して伸びをする。
気持ちがいい。さわやかな風が部屋に流れ込んできて僕らを凪いでくれた。
「おや、起きたようだね」
ばあちゃんが部屋に入ってきた。
「おはよう」
「ヒカル、おはよう。みんなも」
「「「おはようございます」」」
「ご飯できてるから食べなさい」
僕らは居間に行くと和食が準備されていた。
ご飯とベーコンエッグと味噌汁とお茶だ。
「「「「いただきまーす」」」」
僕は朝ごはんはそれほど食べない人間なのだがばあちゃんの料理はパクパク食べてしまう。
「んん!味噌汁に鯖缶!意外とあう」
圭は鯖缶入り味噌汁が好評だったようだ。コクが深まるからな。
ベーコンは胡椒がよく聞いていてジューシーだし、卵は黄身が半熟なのでプルップルだ。
僕らは一心不乱に朝ごはんを食べた。美味しい。多人数で食べることって悪くないんだな。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「よく食べたね。今日は何をするんだい」
「えっと、鶏舎に行こうかと」
「そうかい、くれぐれもきおつけるんだよ」
「うん」
僕らは家を出て少し離れたところの飼育場に行った。
飼育場にはさまざまな鳴き声で飛び交っていた。
「こいつら、元気だなぁ」
圭は感心する。
「お、ヒカル」
父さんがいた。ここの仕事は父さんがしているらしい。
「あ、父さん」
「ちょうど牛小屋に行くんだ。ついて行ってみるかい?」
「行きます!」
圭はすっ飛んで父さんの後ろへと回った。
牛小屋はそれほど大きくなくて牛が計五頭いるのみだ。
「見ててね」
父さんは牛小屋に入る。
白と黒の斑模様の牛は父さんを見るたびに尻尾を振った。
「おはよう、今日もいい一日になれたらいいね」
父さんは小さい子供をあやすように背中をさすりニッコリと笑顔になった。
それを何度か行ってから父さんはまたとなりの牛に同じことをする。
「す、すげぇ」
圭が圧巻している。
「どうした?」
「いや、お前の父さん。動物の声が聞けるわけでもないのに、意思疎通が取れているんだよ」
にこやかに背中を撫でる父さんにそれに答える牛。僕にはわからない世界がそこにはあった。
「ほんの少しでも不安を感じさせたらダメなんだ。牛はずっと僕らを見てるからね」
全ての牛をなで終わり父さんはこちらを振り向いた。
「君たちの日常でもそうだろ?ほんの少しでも不安があればその先うまく行かなくなる。感じさせちゃあいけない。そのためには自分が優しくならないとダメなんだ」
久しぶりに聞いた父の諭す言葉。その言葉は僕の心を強く打った。
「自分が変われば周りもだんだんついてくる。これは嘘じゃない。本当だ」
父さんはみんなの目を一人一人見るように語った。
みんな必死に聞いている。そんな僕らに父さんはニコリと笑った。
「みんな素直でいい子だ」
なんだろう、なんか誇らしかった。僕らは照れてみんな俯いていた。
それから僕らは鶏舎にいく。
「よし、餌やりを手伝ってもらうか」
父さんは大量の乾燥させたトウモロコシを木の箱に入れて
「これを鶏に上げてやってくれ」
「え?」
「怖がらなければ大丈夫だよ」
僕らは恐る恐る鶏舎に入る。
「コケッコ?」
一匹の鶏が僕らの存在にきずきパクリとトウモロコシを食べる。
それを気にたくさん群がってくる。
「うわああ!?」
「おい落ち着けよ、ヒカル」
「流石にビビるよね」
僕は隣で落ち着いて座る圭を見る。彼は木の箱を地面においてただ一言、
「ゆっくり食べろよ、誰もとりゃしないから」
鶏は落ち着きを取り戻してパクリと餌を飲み込んだ。
彼の声には何か安心させるような響きがあったのかもしれない。
僕が鶏だったらすんなりと安心していたはずだ。
僕らも餌をあげる。黙って必死に餌を食べる鶏は可愛いもんだ。
「鳴かなかったら鶏って可愛いのね」
「本当ね」
「お前ら変なこと言うなよ、ああ気にするなよ」
不安そうに顔を見上げた鶏を彼はポスンと手をおいて安心させた。
流石だな、能力を正しいことに使っている圭はふつうにかっこよかった。
次の小屋は馬小屋だ。
「ここには馬がいたのか?!」
「うん、二頭だけどね」
茶色の馬のサンと黒い馬のクロウ。晴れの日と曇りの日にそれぞれこの家にやってきたからこの名前になった。
初めてのお客さんを見て二頭は少し動揺していた。父さんがなだめようとしたのだがその前に圭が
「お前、サンって言うんだな。かっこいいぜ?」
サンの鼻に手を置いて微笑んだ。サンはハッとなにかを感じることがあったのだろうか、ブルリと震える。
「あたりだよ!どうして名前がわかったんだい?」
「え?いや勘ですよ」
父さんはそれだけ聞くとガラスがあるからと工房へ向かって行った。
「あぶね、バレるかと思ったぜ」
「人前で使うのはほどほどね」
「へーへい」
圭はそっと馬小屋に入った。そして体をゆっくりとさする。
「丈夫な体をしてるんだな。元々競走馬か?」
「流石だね、使えないから殺処分されそうなところを引き取ったんだって」
圭は黙って聞いてサンとクロウの背中の傷を発見する。
「これは……そうか、ムチの後か」
「使えないからって本当に殺しちゃうことがあるの?」
「うん、あくまでも人間側の都合でね」
ホノカとマイは馬の現実にハッと胸をつかれた。
「ほんの少しだけタイプじゃなかっただけなのにな。お前らだって早く走れるのにな」
圭は二頭の体をそっとさする。
「今まで辛かったろう?もうこんなことは忘れな。少しだけでもいいから。楽しい未来を思い浮かべろよ?ほら、草原で走れたら気持ちいいだろう?」
馬は尻尾を振っていた。
「え?俺の名前か?圭だよ、春日野圭」
彼はたしかに不器用だ。けどそんな不器用さに隠れ彼は自分よりも他人を優先するような優しさを持っていた。
彼が馬に対してにっこり笑っている姿はどこか懐かしいような感覚を覚えた。
どこでその顔をしていたのかは思い出せない。けどルークはそんな彼の優しさに心を動かされたんだ。
なんとしてでも周りを笑顔にしようとする彼が羨ましかったんだ。
「じゃあな、またくるぜ」
圭が馬小屋から出てきた頃はもう9時半だった。
「悪りぃ遅くなった」
「あんた、結構いいやつじゃん」
マイは圭のおでこを人差し指でグン!とおす。かなり力が入ってたらしくぐらりと彼の体が揺れた。
「な、なんだよ」
「あんたの性格私好きだなぁって」
マイは圭の目を覗き込むようにしてかがんだ。
「やめろよ、照れるだろ?」
顔を赤くして少しだけマイから目をそらす圭を見てマイはふふッと微笑んだ。
「ヒカル、今日はなにをするの?」
「え?今日……少し降ったら村があるからそこまで行ってみようか」
「いいねぇ!」
「アイスかなんか買おうぜ!」
今日も楽しい一日が始まる。
ほんの少しの心遣いで気持ちの持ちようで幸せってコントロールできるんだ。
僕の幸せが高まった気がした。
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