上 下
40 / 52
本編

39.皇女と王太子の攻防(1)※

しおりを挟む
「エステファニア様。そろそろ、また夫婦の寝室で寝るのはどうでしょう」

 産後半年ほど経った頃、シモンが言った。
 寝ているルイスを撫でていた手が止まる。

「それは…………」
「医師も、まったく問題ないと言っておりました」

 エステファニアは唇を噛んだ。
 やはり、そういうことだ。自分はこれから、シモンの相手をしなくてはいけないのか。
 散々勝手にされて妊娠までしたのだ。今更嫌がっても仕様がない気もするが、やはり、はいどうぞと頷くことはできない。

 けれど、エステファニアに拒否権はなかった。
 だから、頷くしかない。
 決して、過去の夢を思い出して体が疼いているからとか、そういうわけではない。本当は嫌だけれど、断れないから。

「…………分かりました」



 その日の晩、久しぶりに夫婦の寝室に行った。
 使っていなくとも綺麗にされていたようで、エステファニアが覚えている部屋のままだ。
 シモンがハーブティーを淹れて、エステファニアの前に置いた。

「……もしかして、これに何か入れたりしていました?」
「ええ。あなたのものには、睡眠薬を」
「…………」

 シモンの罪状がまた一つ増えた。

「では、これにも?」
「今回は入れていませんよ。飲んでも飲まなくても、どちらでも良いです」

 いっそ深い眠りに入って、夢だと思ったほうが良いのかもしれない。今回は薬を入れていないと言っていたが、入れてもらおうか。
 いや、やはり意識をなくしてこの身の全てをこの男に預けるというのは、危険ではないだろうか。
 何をされるのか分かったものではない。

 起きていると決めたので、ハーブティーも遠慮しておこう。彼の言っていることが本当かも分からないから。

「……飲みません」
「分かりました」

 シモンがエステファニアの分まで飲み始めたので、本当に今日は薬を入れていなかったのだろう。
 今夜初めて、意識がある状態でシモンに抱かれてしまう。

「さあ、エステファニア様」

 ハーブティーを飲み終わったシモンがベッドに上がった。
 エステファニアもごくりと唾を飲み込んで、ベッドに近づいた。そしてゆっくりと上がって、シモンの前に座る。

「起きているあなた様と触れ合えるだなんて……本当に、夢のようです」
「……そう」

 エステファニアは俯いた。
 シモンが抱き締めてくる。
 ぼんやりと覚えのある香りと感触に、やはりあの夢で自分を抱いていたのは彼なんだと実感した。
 シモンが、ナイトドレス越しにエステファニアの背中へと指を滑らせた。
 背筋がぞくぞくとして、声が漏れる。

「んっ……」
「あなた様も……いいえ、少なくともあなた様の体も、待ち遠しかったでしょう」

 エステファニアは首を振ったが、シモンは笑うだけだった。
 既に秘部が湿っていることを見透かされているようでカッと体が熱くなり、涙目になる。
 こんなのは、おかしい。
 相手は夫とはいえ、寝ている自分を強姦していた男だ。
 なのにそれに抱き締められて、身体が疼くなんて。

 エステファニアは、本当に、シモンが嫌なのだ。
 性交をしたくないという意思をまったく尊重せずに、寝ている間に自分を犯した男だ。しかも、何回も。
 そして、同意も得ずに妊娠させた。
 それでいて、エステファニアに好意があると言い張り、妻想いのまともな人間のような態度を取る。

 エステファニアには理解ができない人で、恐怖でしかなかった。
 彼は、自分とは違う物差しで生きている。
 何を考えているのかも、何をしてくるのかも分からない。
 恐ろしくて嫌なのに、けれど、身体は徐々に熱くなっていく。まるで、身と心が引き離されたようだ。
 そしてエステファニアをそうしたのも、目の前のこの男なのだ。

 シモンがエステファニアの頬に手を添えて、顔を近づけてきた。
 ぎゅっと目を瞑って身構える。
 唇にやわらかいものが触れ、何度か離れたり、また触れたりする。繊細なガラス細工に触れるような、そんな優しい触れ合いだった。
 大切に扱われているように感じてしまって、戸惑う。
 こんなことをしなくても、自分の思うままにエステファニアの体を使えば良いのに。
 ぺろりと下唇を舐められて、肩が跳ねた。
 シモンの舌が唇をなぞるたびに、ぞわぞわと、気持ち悪さと性感の狭間のような刺激が流れ出す。
 何度も唇の上を往復するだけで、中に入ろうとはしてこなかった。

 もしかしたら、エステファニアが自ら開けるのを待っているのかもしれない。
 だが、そんなことをするわけがない。
 口を開けろと言われればそれに逆らうことはできないが、自分から彼の意を汲んで何かをしようだなんて、まったく思えなかった。

 諦めたのか、シモンの顔が離れた。
 そして、エステファニアのナイトドレスを脱がしていく。
 そのまま、下着も脱がされた。
 シモンの突き刺さるような視線を感じて、それから逃れようとシーツに目を向ける。
 エステファニアの背中をシモンの手が支えて、ゆっくりと押し倒された。
 どくどくどく、と心臓が緊張で暴れ回る。

 やわやわと胸を揉まれた。
 それだけで、エステファニアの体に鮮明な性感が走る。

「っ、……ふ、……」

 ただ胸を揉まれているだけとは思えないほどだった。
 意識がある状態だからか、夢で味わっていたそれよりも、数段はっきりとして身体を襲う。
 乳房を揉まれるだけでこんななんて、この先はどうなってしまうのだろう。
 不安でエステファニアの瞳に涙が滲んだ。

 胸を揉んでいた手が止まり、指先が乳頭を撫でた。
 妊娠と授乳を経て以前よりも大きくなったそこの表面を、指の腹で撫でられる。

「っ……っ……!」

 エステファニアは声を出すまいと、必死に口を閉じていた。
 乳頭を触っていた指が離れると、今度は二本の指できゅっと摘まれた。
 そしてそのまま、乳首越しに指を擦り合わせるように動かされる。

「んんっ……! んっ……!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...