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本編
34.夫の裏切り(1)
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エステファニアは意識を取り戻すと、すぐに他の医者も呼ぶよう言いつけた。
あの男はやぶ医者だ。
宮廷医の癖に、子供ができる行為をしていない自分を、妊娠したと診断するなんて。
一度内診されればもう二度も三度も変わらないと、他にも何人かの医者に診てもらった。
しかし皆内診をすると、懐妊していると診断した。
その日の夜、エステファニアは眠れなかった。
吐き気で寝るどころではないのもあるし、世界がおかしくなってしまったようで、気味が悪かった。
だって性行為もせずに妊娠するだなんて、神話の話だ。
エステファニアには、神の子を受胎したと喜ぶような純真さはない。
全ての医師が誤診したと疑うよりは、何者かによってその身が穢されていたと考える方が自然だった。
エステファニア自身にそんな覚えがない以上、意識がない状態で、それは行われたのだ。
そしてそれができるのは、ただ一人だけだった。
夫であるシモンだ。
エステファニアは夜に夫婦の寝室で眠るか、自室で昼寝をするくらいしか、意識をなくす機会はない。
そしてそのどちらも、侍従と護衛が扉の前を固めているし、どちらの部屋の窓も地上から高いところにあり鍵をかけているため、そこからの侵入はまずありえない。
自室で眠っているときは誰も入れぬように言いつけてあるし、エステファニアが眠っている間に夫婦の寝室に居ることや入ることを許されるのは、シモンと侍女のみだ。
シモンが、エステファニアの眠っている間に、種を植え付けた。
それは、ひどい裏切りだった。
二人は身体を交えないというのが、この結婚の条件だったのに。
いや、それ以上に……エステファニアは、シモンと共にベッドに入るほど、彼を信頼していたのだ。
エステファニアなりに友人のように大切に思っていたし、彼はそんな馬鹿なことをしない、理性的で、為政者として申し分のない人物だと思っていた。
なのに……なのに、こんな暴挙を。
今思えば、あの淫夢も、本当にあったことなのだろう。
あのように、意識のない身体を弄ばれていたのだ。
それに悦んで蜜を垂らしていた自分を、殺してやりたいくらいだった。
様々な負の感情が渦巻いていて、エステファニア自身にも、自分が怒っているのか、悲しいのか、悔しいのか、分からなかった。
シーツを握りしめて、はらはらと涙を零す。
一番分からないのが、シモンへの怒りや、それを見抜けなかった悔しさよりも、落胆の気持ちが大きい事だった。
彼は、自分が思っているような男ではなかった。
国同士の約束を破り、女の身を勝手に暴くような、そんな人だった。
シモンと庭のひまわりを見たことや、一緒に楽器を奏でたこと。
ハーブティーを飲みながら会話を楽しんだこと。
舞踏会での告白や、時折送られた熱い眼差しや、優しさを思い出す。
けれどそれは、全てまやかしだった。
エステファニアの警戒を解くためだけのものだったのだ。
彼は妻の意思を無視して体を犯し、子供を産ませようとする外道だった。
愛はなくとも……夫婦としての情がなくとも、エステファニアは、幸せな結婚をできたと思っていたのだ。
エステファニアの義姉はみな美しい人なのに、皇子である兄たちには相手にされていなかった。
それは夜もそうだし、日常生活でもそうだった。
ただ公務を共にするだけで、二人の間に信頼や連帯感というものは何もないように見えた。
けれどエステファニアは、シモンと、そういったものは築けていると思っていたのだ。
ロブレで親しい人もいないエステファニアにとって、シモンとのそういった繋がりが心のよりどころだった。
けれどそれは元々存在していないものだったし、シモンにとっては取るに足らないものだったのだ。
だから、こうして壊されてしまった。
あまりのショックに、怒りに身を任せて、奴をどうにかしてやろうとする気力すら湧かなかった。
エステファニアは、しくしくと枕を濡らしながら一夜を明かした。
あの男はやぶ医者だ。
宮廷医の癖に、子供ができる行為をしていない自分を、妊娠したと診断するなんて。
一度内診されればもう二度も三度も変わらないと、他にも何人かの医者に診てもらった。
しかし皆内診をすると、懐妊していると診断した。
その日の夜、エステファニアは眠れなかった。
吐き気で寝るどころではないのもあるし、世界がおかしくなってしまったようで、気味が悪かった。
だって性行為もせずに妊娠するだなんて、神話の話だ。
エステファニアには、神の子を受胎したと喜ぶような純真さはない。
全ての医師が誤診したと疑うよりは、何者かによってその身が穢されていたと考える方が自然だった。
エステファニア自身にそんな覚えがない以上、意識がない状態で、それは行われたのだ。
そしてそれができるのは、ただ一人だけだった。
夫であるシモンだ。
エステファニアは夜に夫婦の寝室で眠るか、自室で昼寝をするくらいしか、意識をなくす機会はない。
そしてそのどちらも、侍従と護衛が扉の前を固めているし、どちらの部屋の窓も地上から高いところにあり鍵をかけているため、そこからの侵入はまずありえない。
自室で眠っているときは誰も入れぬように言いつけてあるし、エステファニアが眠っている間に夫婦の寝室に居ることや入ることを許されるのは、シモンと侍女のみだ。
シモンが、エステファニアの眠っている間に、種を植え付けた。
それは、ひどい裏切りだった。
二人は身体を交えないというのが、この結婚の条件だったのに。
いや、それ以上に……エステファニアは、シモンと共にベッドに入るほど、彼を信頼していたのだ。
エステファニアなりに友人のように大切に思っていたし、彼はそんな馬鹿なことをしない、理性的で、為政者として申し分のない人物だと思っていた。
なのに……なのに、こんな暴挙を。
今思えば、あの淫夢も、本当にあったことなのだろう。
あのように、意識のない身体を弄ばれていたのだ。
それに悦んで蜜を垂らしていた自分を、殺してやりたいくらいだった。
様々な負の感情が渦巻いていて、エステファニア自身にも、自分が怒っているのか、悲しいのか、悔しいのか、分からなかった。
シーツを握りしめて、はらはらと涙を零す。
一番分からないのが、シモンへの怒りや、それを見抜けなかった悔しさよりも、落胆の気持ちが大きい事だった。
彼は、自分が思っているような男ではなかった。
国同士の約束を破り、女の身を勝手に暴くような、そんな人だった。
シモンと庭のひまわりを見たことや、一緒に楽器を奏でたこと。
ハーブティーを飲みながら会話を楽しんだこと。
舞踏会での告白や、時折送られた熱い眼差しや、優しさを思い出す。
けれどそれは、全てまやかしだった。
エステファニアの警戒を解くためだけのものだったのだ。
彼は妻の意思を無視して体を犯し、子供を産ませようとする外道だった。
愛はなくとも……夫婦としての情がなくとも、エステファニアは、幸せな結婚をできたと思っていたのだ。
エステファニアの義姉はみな美しい人なのに、皇子である兄たちには相手にされていなかった。
それは夜もそうだし、日常生活でもそうだった。
ただ公務を共にするだけで、二人の間に信頼や連帯感というものは何もないように見えた。
けれどエステファニアは、シモンと、そういったものは築けていると思っていたのだ。
ロブレで親しい人もいないエステファニアにとって、シモンとのそういった繋がりが心のよりどころだった。
けれどそれは元々存在していないものだったし、シモンにとっては取るに足らないものだったのだ。
だから、こうして壊されてしまった。
あまりのショックに、怒りに身を任せて、奴をどうにかしてやろうとする気力すら湧かなかった。
エステファニアは、しくしくと枕を濡らしながら一夜を明かした。
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