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本編
19.告白
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エステファニアは、これは駄目そうね、と笑った。
「中に戻って、お水をいただきましょう。いつの間にそんなに飲んでいたのかしら」
踵を返したエステファニアの手を掴まれた。
眉を寄せて振り向くと、シモンの熱を帯びた瞳に射抜かれる。
初めて会ったあの日にも見た色だ、と思った。
「エステファニア様。……あなた様を、お慕いしております」
思わぬ言葉にエステファニアがぱちぱちと瞬きすると、シモンは続けた。
「ずっと……ずっと、好きだったんです。一目惚れでした。あなたの美しさに、魅了されて……。あなた様を大切にしたいと、思っておりました。ただ隣に立っていただければ、それで充分だと。ですが……期待、させていただいてもよろしいのでしょうか? エステファニア様……」
――これは……演技なのかしら? それとも素?
エステファニアは目を細めた。
シモンのことだ。酔っているようなこの言動が演技である可能性は、充分考えられた。
むしろ、今まで一度も酔ったところを見たことのない人間が、この日に限って、ここまでおかしくなるだろうか。
どちらにせよ……ここで頷くか、首を振るか。
シモンに心を動かされたと頷いてやる選択肢も、あるにはあるのだ。
それをしてやっても良いくらいにはシモンはエステファニアに尽くしていたし、彼のことを認めている。
ロブレ王家なんぞに、と思う気持ちは未だにあるが、しかし彼個人の素質を見れば、貴い身分の男としては申し分ない。
それに、そうすれば、毎晩疼くこの身体も落ち着くだろう。
あくまでエステファニアから言いだしたのではなく、シモンに縋られて仕方なく、という体裁も保てる。
しかし、これが演技だとしたら。
エステファニアは、シモンに手玉に取られた、ということになる。
ただヒラソル皇族の血を引いた子供を得たいシモンの口説きに、ほいほい釣られた女になってしまうのだ。
どちらの方が可能性が高いか。どちらの方が、嫌か。
エステファニアは考えを巡らせた。冷たい空気が、身体の熱を奪っていく。
まったく、こんな勝負を持ちかけてくるとは。
そんな隙を与えてしまったのだと思うと、エステファニアはむかむかしてきた。
たしかに、シモンのことは認めている。けれど本来ならば、こんな駆け引きすら許されない男だ。
アメシストのイヤリングをつけたのが悪かったのだろうか。
もう二人の関係は仕事のパートナー、あるいは友人として安定していたから、彼もそのままの良好な関係を望むのではないかと思ってしまった。
こんなアクセサリーひとつで、その距離と立場を見間違うような男だとは思っていなかった。
「手を離していただいても? わたくしは、そこまで許した覚えはありませんわ」
「……失礼しました」
手が離されたので、エステファニアは体ごとシモンの方を向いた。
「……神すらも、人の心は操れません。それは、わたくしも、あなたもです。あなたが何を想っていようと勝手ですが……わたくしに何かを求めても、それに応えることはないとだけ、お伝えしておきますわ」
「…………承知しました。ご無礼をお許しください」
「ふふ、一度だけですわよ。酔っていらっしゃるようですしね? 忘れて差し上げますわ」
釘を刺すと、シモンは一度拳をぎゅっと握った。
そしてそれを開いて、エステファニアに差し出す。
「寛大な御言葉に感謝いたします。……戻りましょうか」
「ええ」
エステファニアはシモンの手に自分のそれを重ね、会場内に戻っていった。
バルコニーでの出来事が何もなかったかのようにそつなく貴族たちの相手をするシモンを見て、やはりあれは演技だったのだろうと、エステファニアは結論づけた。
その日の夜も、何事もなかったかのように二人でハーブティーを飲んで眠った。
エステファニアはバルコニーでのことを全く気にしていないように振る舞うことで、牽制しているつもりだった。
「中に戻って、お水をいただきましょう。いつの間にそんなに飲んでいたのかしら」
踵を返したエステファニアの手を掴まれた。
眉を寄せて振り向くと、シモンの熱を帯びた瞳に射抜かれる。
初めて会ったあの日にも見た色だ、と思った。
「エステファニア様。……あなた様を、お慕いしております」
思わぬ言葉にエステファニアがぱちぱちと瞬きすると、シモンは続けた。
「ずっと……ずっと、好きだったんです。一目惚れでした。あなたの美しさに、魅了されて……。あなた様を大切にしたいと、思っておりました。ただ隣に立っていただければ、それで充分だと。ですが……期待、させていただいてもよろしいのでしょうか? エステファニア様……」
――これは……演技なのかしら? それとも素?
エステファニアは目を細めた。
シモンのことだ。酔っているようなこの言動が演技である可能性は、充分考えられた。
むしろ、今まで一度も酔ったところを見たことのない人間が、この日に限って、ここまでおかしくなるだろうか。
どちらにせよ……ここで頷くか、首を振るか。
シモンに心を動かされたと頷いてやる選択肢も、あるにはあるのだ。
それをしてやっても良いくらいにはシモンはエステファニアに尽くしていたし、彼のことを認めている。
ロブレ王家なんぞに、と思う気持ちは未だにあるが、しかし彼個人の素質を見れば、貴い身分の男としては申し分ない。
それに、そうすれば、毎晩疼くこの身体も落ち着くだろう。
あくまでエステファニアから言いだしたのではなく、シモンに縋られて仕方なく、という体裁も保てる。
しかし、これが演技だとしたら。
エステファニアは、シモンに手玉に取られた、ということになる。
ただヒラソル皇族の血を引いた子供を得たいシモンの口説きに、ほいほい釣られた女になってしまうのだ。
どちらの方が可能性が高いか。どちらの方が、嫌か。
エステファニアは考えを巡らせた。冷たい空気が、身体の熱を奪っていく。
まったく、こんな勝負を持ちかけてくるとは。
そんな隙を与えてしまったのだと思うと、エステファニアはむかむかしてきた。
たしかに、シモンのことは認めている。けれど本来ならば、こんな駆け引きすら許されない男だ。
アメシストのイヤリングをつけたのが悪かったのだろうか。
もう二人の関係は仕事のパートナー、あるいは友人として安定していたから、彼もそのままの良好な関係を望むのではないかと思ってしまった。
こんなアクセサリーひとつで、その距離と立場を見間違うような男だとは思っていなかった。
「手を離していただいても? わたくしは、そこまで許した覚えはありませんわ」
「……失礼しました」
手が離されたので、エステファニアは体ごとシモンの方を向いた。
「……神すらも、人の心は操れません。それは、わたくしも、あなたもです。あなたが何を想っていようと勝手ですが……わたくしに何かを求めても、それに応えることはないとだけ、お伝えしておきますわ」
「…………承知しました。ご無礼をお許しください」
「ふふ、一度だけですわよ。酔っていらっしゃるようですしね? 忘れて差し上げますわ」
釘を刺すと、シモンは一度拳をぎゅっと握った。
そしてそれを開いて、エステファニアに差し出す。
「寛大な御言葉に感謝いたします。……戻りましょうか」
「ええ」
エステファニアはシモンの手に自分のそれを重ね、会場内に戻っていった。
バルコニーでの出来事が何もなかったかのようにそつなく貴族たちの相手をするシモンを見て、やはりあれは演技だったのだろうと、エステファニアは結論づけた。
その日の夜も、何事もなかったかのように二人でハーブティーを飲んで眠った。
エステファニアはバルコニーでのことを全く気にしていないように振る舞うことで、牽制しているつもりだった。
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