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本編
18.舞踏会
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夜な夜な見る夢にエステファニアが悩まされていようと、そんなことは関係なく世界は回る。
今日は、国王主催の舞踏会だった。
国王主催の舞踏会は年に四回ほどで、国王、王妃、シモン、リアナの誕生月に開催される。
普段、ロブレの社交の場にはあまり出たがらないエステファニアだが、国王主催となればそうもいかない。
しかも今日はシモンの誕生月に開催される舞踏会の日で、もちろん、彼を祝うためのものだからだ。
妻として、参加しないわけにはいかない。
張り切った侍女たちに飾り立てられたエステファニアは、シモンと共に会場に入った。
拍手で迎えられ、人々は二人のことについて囁き合う。
今日のエステファニアは深緑色のドレスに、アメシストのアクセサリーを身に着けていた。シモンの瞳をイメージして用意されていたものだ。
シモンは白地に金の刺繍が施されたジュストコールを着ていて、そのきらきらとした様は平民たちが想像する王子そのものだろう。
容姿やその雰囲気だけで評価すれば、シモンはエステファニアの暑苦しい兄たちよりも高貴に見えた。
ちなみにやわらかい雰囲気のシモンと筋骨隆々な兄のどちらのタイプが男性として人気かといえば、少なくとも帝国では後者の方が好まれるだろうか。
エステファニアが理想としていた男性も、がっしりめだった。
国王とシモンの挨拶で、舞踏会が始まった。
シモンとエステファニアは主役として、会場の中心で踊り始める。
前回はここまで打ち解けていなかったので義務感だけで踊っていたが、今回はなかなか楽しめた。
以前より体が軽かったし、息も合った。
二人とも慣れているので、今までも苦労しながら踊っていたわけではないが、それでも、今の方が自然と相手の動きに合わせられている感じがする。
一緒に奏でたことのある曲が流れると、目配せをして笑い合ったりなんかもした。
三曲続けて踊ると流石に疲れて、二人は飲み物を飲んで休憩した。
しかし、ずっと休んでばかりもいられない。
二人は待っていた人々と挨拶を交わし、歓談した。
主役であり夫のシモンが主に相手をするが、エステファニアも黙っているわけにはいかない。
気乗りはしないまでも、帝国の皇女だ。社交術は叩き込まれていて、笑顔を浮かべて出席者たちと交流した。
「少し、外で休憩しませんか?」
一通りの主要な出席者と話したあと、シモンが言った。
エステファニアも一息つきたかったので頷いて、一緒にバルコニーに出る。
二人で出て行った夫婦の邪魔をしようとする者はいないだろう。
酒を飲んで火照った頬を、冷たい夜風が撫でる。
エステファニアが解放感に深い息を吐いて手すりに手をつくと、隣に立ったシモンが言った。
「今日もまた、一段とお美しいです」
「ふふ、先ほども聞きましたわよ」
会場に向かうときにも、今日のエステファニアを見たシモンが開口一番に言ったのだ。
しつこいとも思うが、褒められて悪い気はしない。
「わたくしの色も、身に付けてくださって」
シモンが、エステファニアの耳飾りを指先で揺らした。
アメシストのことを言っているのだろう。
それは分かるのだが、突然近くなった距離に肩が跳ねた。
今まで二人の間に引いてあった線の中に、一歩踏み込まれたような気がしたのだ。
「……侍女たちが用意していたので」
「昨年も用意があったはずですが、つけなかったでしょう」
「ええ、まあ……。あの頃は、わたくしも意地を張っておりましたから」
再び耳飾りを撫でられる。
エステファニアがふいと首を振ると、シモンは手を下ろした。
「……酔っていらっしゃいます?」
首を傾げてシモンを見上げた。
シモンは張り付いたような笑みのまま、エステファニアをじっと見つめる。
今までだったら勝手にエステファニアの身に付けているものに触れなかっただろうし、もし触れたとしても、それに反応したエステファニアを見ればすぐにやめていたはずだ。
今までもシモンが酒を飲んでいる姿は何度も見てきたが、酒に弱い印象はまったくなかった。
けれど、今日はどうも様子がおかしい。
「……そうかもしれません。酔っているというか……浮かれているのでしょうね。ここ最近の……特に今夜のあなた様は、いつにも増して美しく、かわいらしいので……」
今日は、国王主催の舞踏会だった。
国王主催の舞踏会は年に四回ほどで、国王、王妃、シモン、リアナの誕生月に開催される。
普段、ロブレの社交の場にはあまり出たがらないエステファニアだが、国王主催となればそうもいかない。
しかも今日はシモンの誕生月に開催される舞踏会の日で、もちろん、彼を祝うためのものだからだ。
妻として、参加しないわけにはいかない。
張り切った侍女たちに飾り立てられたエステファニアは、シモンと共に会場に入った。
拍手で迎えられ、人々は二人のことについて囁き合う。
今日のエステファニアは深緑色のドレスに、アメシストのアクセサリーを身に着けていた。シモンの瞳をイメージして用意されていたものだ。
シモンは白地に金の刺繍が施されたジュストコールを着ていて、そのきらきらとした様は平民たちが想像する王子そのものだろう。
容姿やその雰囲気だけで評価すれば、シモンはエステファニアの暑苦しい兄たちよりも高貴に見えた。
ちなみにやわらかい雰囲気のシモンと筋骨隆々な兄のどちらのタイプが男性として人気かといえば、少なくとも帝国では後者の方が好まれるだろうか。
エステファニアが理想としていた男性も、がっしりめだった。
国王とシモンの挨拶で、舞踏会が始まった。
シモンとエステファニアは主役として、会場の中心で踊り始める。
前回はここまで打ち解けていなかったので義務感だけで踊っていたが、今回はなかなか楽しめた。
以前より体が軽かったし、息も合った。
二人とも慣れているので、今までも苦労しながら踊っていたわけではないが、それでも、今の方が自然と相手の動きに合わせられている感じがする。
一緒に奏でたことのある曲が流れると、目配せをして笑い合ったりなんかもした。
三曲続けて踊ると流石に疲れて、二人は飲み物を飲んで休憩した。
しかし、ずっと休んでばかりもいられない。
二人は待っていた人々と挨拶を交わし、歓談した。
主役であり夫のシモンが主に相手をするが、エステファニアも黙っているわけにはいかない。
気乗りはしないまでも、帝国の皇女だ。社交術は叩き込まれていて、笑顔を浮かべて出席者たちと交流した。
「少し、外で休憩しませんか?」
一通りの主要な出席者と話したあと、シモンが言った。
エステファニアも一息つきたかったので頷いて、一緒にバルコニーに出る。
二人で出て行った夫婦の邪魔をしようとする者はいないだろう。
酒を飲んで火照った頬を、冷たい夜風が撫でる。
エステファニアが解放感に深い息を吐いて手すりに手をつくと、隣に立ったシモンが言った。
「今日もまた、一段とお美しいです」
「ふふ、先ほども聞きましたわよ」
会場に向かうときにも、今日のエステファニアを見たシモンが開口一番に言ったのだ。
しつこいとも思うが、褒められて悪い気はしない。
「わたくしの色も、身に付けてくださって」
シモンが、エステファニアの耳飾りを指先で揺らした。
アメシストのことを言っているのだろう。
それは分かるのだが、突然近くなった距離に肩が跳ねた。
今まで二人の間に引いてあった線の中に、一歩踏み込まれたような気がしたのだ。
「……侍女たちが用意していたので」
「昨年も用意があったはずですが、つけなかったでしょう」
「ええ、まあ……。あの頃は、わたくしも意地を張っておりましたから」
再び耳飾りを撫でられる。
エステファニアがふいと首を振ると、シモンは手を下ろした。
「……酔っていらっしゃいます?」
首を傾げてシモンを見上げた。
シモンは張り付いたような笑みのまま、エステファニアをじっと見つめる。
今までだったら勝手にエステファニアの身に付けているものに触れなかっただろうし、もし触れたとしても、それに反応したエステファニアを見ればすぐにやめていたはずだ。
今までもシモンが酒を飲んでいる姿は何度も見てきたが、酒に弱い印象はまったくなかった。
けれど、今日はどうも様子がおかしい。
「……そうかもしれません。酔っているというか……浮かれているのでしょうね。ここ最近の……特に今夜のあなた様は、いつにも増して美しく、かわいらしいので……」
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