白き結婚という条件で新興国の王太子に嫁いだのですが、眠っている間に妊娠させられていました

天草つづみ

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本編

13.皇女と王太子の休日

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 翌日、シモンは仕事がないからと、いつもより遅く起きたらしい。日がそれなりに高くなった時間に起こされ、エステファニアは欠伸をした。
 帝国では毎日このくらいに起きていていた。シモンに合わせて日の出と共に起きるこちらでの生活は、実は無理をしていたのだ。
 やはりこのくらいの起床が自分には合っていると思ったエステファニアは、ベッドを下りて言った。

「明日からは、起こしてくださらなくて結構ですわ。わたくし、本当はこのくらいの時間まで寝てたいんですの」
「っ……分かりました」

 驚いたのか少し返事は遅かったが、シモンは頷いた。

 そのあと食事と支度をしてから、エステファニアは王城の庭に行った。
 入り口でシモンが待っていて、エステファニアに気付くと速足で迎えに来る。

「お待たせしてしまったかしら?」
「いいえ、まったく。今日も、とてもお美しいですね」
「ふふ、ありがとう」

 シモンと庭に出るのだと話すと、侍女たちが張り切ってしまったのだ。いつも以上に支度に時間をかけられ、化粧の出来も良い。

「ご挨拶させていただいてもよろしいですか?」

 シモンが跪いたので、エステファニアは手を差し出した。
 初めて会った時のように幸せそうな笑みを浮かべながら恭しくキスをするシモンに、くすくすと笑う。
 相変わらずの、拍手を送りたくなるような表情管理だ。

――まだ、諦めていないんですのね。

 エステファニアを落として子を成す作戦は、まだ諦めてはいないらしい。
 まあ、こうして健気にアピールする分には、許してやっても良いだろう。

「では、こちらに」

 差し出されたシモンの手を取って、庭に出た。
 庭の花々は今の流行よりも古い配置だが、よく手入れされていて、エステファニアを楽しませてくれた。
 特に、降り注ぐ太陽の光に照らされたひまわりは大層美しい。エステファニアはひまわりが好きなのだが、帝国に匹敵するくらいによく咲いている。

「ひまわりがお好きなのですか?」
「ええ」

 エステファニアの目の色が変わったことに気付いたのだろう。
 シモンが歩みを止めたので、エステファニアはひまわりたちをじっと見つめた。
 隣に立つシモンが、ゆっくりと話し出す。

「……良かったです。ひまわりは、帝国の国花でしょう。きっとお好きなのではないかと思って、特に力を入れさせました」
「まあ、そうだったんですの。今までこの子たちを知らなかったのが惜しいですわ」
「いくらでも、見に来てください。あなた様のために咲かせたようなものですから」

 その言葉にシモンの顔を見上げると、照れたように笑っていた。
 彼の言っていることが本当ならば、縁談の話が来てすぐに手配していなければ、間に合わなかっただろう。
 それだけ、王国は――シモンは、エステファニアに気に入ってもらおうと真剣だったのだ。
 なんだか胸がむずむずとして、ふいと視線を逸らした。

「……次の、お花を見たいですわ」
「はい、分かりました」

 シモンがゆっくりと歩き出し、エステファニアはその後をついていった。



 二人は庭を一通り見たあと、城の中に戻った。
 シモンに案内されて入ったのはテーブルと椅子やソファがある普通の部屋で、ハープとヴァイオリンが用意されていた。
 まずはソファに座って、侍女が淹れた紅茶と軽食を楽しむ。

「ヴァイオリンは……もしかしてあなたが?」
「ええ。小さい頃から嗜んでおりました。もしよろしければ、ご一緒に弾けたらと」

 エステファニアはぱちぱちと瞬きをしてから、笑って頷いた。

「ええ、どうぞよろしくお願いします」

 お茶を済ませると、シモンはヴァイオリンを手に取り、エステファニアはハープの弦を何度か弾いて確認した。

「曲はどうしましょう」
「これなんてどうかしら」

 エステファニアは、帝国の音楽家の有名な曲の一節を奏でた。ほとんどの国で親しまれている、神の恵みに感謝をする曲だ。

「ああ、はい。大丈夫です」

 シモンが頷いたので、二人は目線で合図を送り、共に弾き始めた。
 互いの力量を窺いながら、奏でていく。
 おそらく、二人とも同じレベルーー趣味の中で、上手い方だった。

 ふと思いついたエステファニアが悪戯に指を早めると、シモンはすぐそれに合わせてきた。
 そのままどんどんリズムが早くなっていき、エステファニアが急に手を緩めてゆっくりと弾けば、シモンもそれに合わせる。
 まるで、追いかけっこでもしているようだった。
 そんな変則的な弾き方を繰り返し、曲が終わる頃には二人とも疲れて息が荒くなっていた。

「ふふ。お上手なんですね。兄たちも楽器を嗜んでいたのですけれど、大人になってからはあまりやらなかったので……なんだか新鮮でしたわ」

 子供の頃は、リズムが走る兄たちに合わせようと必死にやっていたものだ。
 懐かしい気持ちになっていると、シモンは笑いながら言った。

「まさか、エステファニア様がこんな遊び心のある方だとは、思いませんでした。もっとこう、優雅に奏でられる方だと思っていましたので……ああもちろん、変な意味ではなく……。あなた様の新しい一面を知れたようで、楽しかったです」
「まあ、まるでわたくしがお転婆みたいに。普段はちゃんと大人しく、優雅に弾いておりますのよ?」
「ああ、やはりそうですよね」

 くすくすと笑い合って、二人は昼食を食べるために一旦終わらせた。
 食事のあとは真面目に何曲か奏でて、初めて二人で過ごす休日を終えた。
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