白き結婚という条件で新興国の王太子に嫁いだのですが、眠っている間に妊娠させられていました

天草つづみ

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 シモンは週に二日ほど側室の元へ行き、それ以外はエステファニアとの寝室で寝ていた。
 もっと側室のところへ行って欲しいと思うが、いずれできる子供をエステファニアとの子だと偽る以上、そうもいかないことも分かっていた。
 周囲には、あくまで本命はエステファニアだと思ってもらった方が都合が良い。
 エステファニアが寝室のソファで寝るのはもう当たり前のことになっていたが、やはりベッドでの睡眠を味わってしまうと、疲れが残って仕様がなかった。

 シモンが続けて三日もこちらの部屋で寝た夜、ついにエステファニアはベッドに入った。
 もうシモンも側室と楽しんでいるから性欲も発散されているだろうし、相も変わらずエステファニアの煽りにも反応しない精神力を保っている。
 九割ほどはもう、彼を警戒する必要はないだろうと思っていた。
 わざわざエステファニアに手を出して不興を買うような馬鹿でも、そこまで性欲にまみれてもいないだろうとの判断だ。

 とはいえやはり緊張したが、シモンがいつもどおりにハーブティーを飲んで眠ってしばらくしてから、エステファニアはそっと、シモンとは反対側の端で横になった。
 せっかくベッドに入っているのになかなか眠れなかったが、いつの間にか意識を失っていた。



「エステファニア様」

 シモンの声に、エステファニアは瞼を開けた。

「おはようございます、朝ですよ。カーテンを開けても?」
「……ええ」

 エステファニアが頷くと、ベッドが揺れた。シモンが下りたのだ。
 そして彼は、窓のカーテンを開けた。昇りはじめていた朝日が部屋を照らす。
 エステファニアは起き上がって、ベッドの上や自分の身を確認した。やはり、おかしいところはない。

「わたくしは軍の方の仕事があるので、これにて。今日は向こうの方で寝るので、ゆっくりお休みください」
「ええ、分かりましたわ」

 シモンが部屋を出て行くのを見送って、エステファニアは再びベッドに体を預けた。
 何事もなかったことと、やはり何も言わなかったシモンに安堵の息を吐く。

 この日を境に、エステファニアはシモンと同じベッドで寝るようになった。





「明日は、わたくしもエステファニア様も予定はありませんでしたよね」
「ええ、そうですわね」

 ある日の夜、いつものようにハーブティーを飲むシモンの向かいに座って刺繍をしていると、そう話しかけられた。
 シモンの予定は気にしていないが、少なくともエステファニアには仕事が入っていなかった。
 頷くと、シモンはティーカップをゆっくりと置く。

「もしよろしければ、明日は二人で過ごしませんか? 庭を散策したり……エステファニア様はハープが得意だとお聞きしましたので、それを楽しむのはどうでしょう。こちらにきてから、触っていなかったでしょう?」

 それは、魅力的な誘いだった。
 今のエステファニアの余暇の過ごし方といったら、自室でできるようなことしかなかったからだ。
 別に城や庭を歩いたり何かするのを制限されてはいないのだが、出歩くと、城内にいる貴族たちに話しかけられるのだ。
 エステファニアに取り入りたいということは容易に想像できるし、貴族としては正しい行いだとは思うが、煩わしくて仕様がなかった。
 ロブレの貴族たちと話したところで、どうも面白くない。
 田舎臭さが目につくし、話題も、なんというかエステファニアが楽しめる知識を持っている者が少ないのだ。
 芸術も学問も最先端だった帝国の人々と比べてしまうのも酷だとは思うが、実際つまらないのだから仕様がない。

 けれどシモンがいれば夫婦の時間を邪魔するような者はいないだろうし、もし話しかけられたとしてもシモンに任せておけば良い。
 それにシモンは、ロブレにおいてはやはりもっとも尊い王族の血だ。
 王族とはいえ、歴史の浅い王家だと見下す気持ちはある。
 だが彼を帝国貴族の中でもやっていけそうだと評価していることから分かるとおり、結局はこの国で一番エステファニアと話が合う人間だった。

「ええ、いいですわよ。よろしくお願いしますわ」

 そう返事をすると、シモンはいつも浮かべている笑みを更に深くした。

「嬉しいです。では、わたくしは早めに寝ることにしますね」

 シモンはそう言うと立ち上がり、ベッドに入った。
 今ではエステファニアもあのベッドで寝ているが、流石に一緒に入ってはいない。シモンが眠りについてから、そっと潜り込むのだ。
 エステファニアはシモンの寝息が聞こえてくるまで、刺繍を続けた。
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