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本編
6.結婚と初夜(1)
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エステファニアがロブレ王国に来て一週間後、盛大な結婚式が行われた。
婚礼用のドレスはシルクでできていて、ロールカラーにプリンセスラインのものだった。非常に長いトレーンに細かい刺繍、たくさんの真珠が縫い付けられており、見ごたえのあるドレスだ。
サイズは結婚が決まった時点で王国に伝えていたのでエステファニアがロブレに来た頃には完成していて、少し直しただけだった。
デザインに細かく口を出せなかったのが惜しかったが、思っていたよりも満足のいく出来で、エステファニアの気分はとても良かった。
式の中で、流石に誓いのキスを省略することはできずにシモンと口付けを交わしてしまったが、まあ軽いキスくらいは仕様がないからいいか、と流せたほどだ。
結婚式自体はロブレの名門貴族にしか出席が許されなかったが、その後のパレードには多くの国民が集まった。
馬車に乗った二人が現れると歓声が上がり、手を振るとそれは更に大きくなる。
帝国での兄たちのパレードに比べると騒がしかったが、馬車の前に飛び出すような者は流石におらず、最低限の統率は取れていた。
おかげで気分を害することなく、素直に自分が歓迎されていると受け取ったエステファニアは、にこやかに手を振り続けた。
パレードが終わって、エステファニアはシモンの手を取って馬車を下りる。
地面に両足をつけると、シモンが感嘆の溜息を吐きながら言った。
「とても……とても、お美しいです、エステファニア様。あなた様の隣に立てるという栄誉をいただき、改めて感謝申し上げます」
「ふふ。ええ、どうかそのまま、その喜びを噛み締め続けてくださいませ」
言外にそれ以上は求めるなと伝えたが、シモンは動揺を見せなかった。
当たり前のように頷き、エステファニアを眩しそうに見つめる。
「もちろんでございます。隣に立っていただけるだけで、夢のようです。それ以上は望みません」
そう言ったシモンは、エステファニアの意図が通じていない様子でもないし、強がっている風でもなかった。
心からそう思っているのならばそれで文句はないが、本心はそうでなかったとしたら、ここまで自然に言えるものだろうか。
エステファニア自身に興味がなかったとしても、女にこうも言われてしまえば、多少なりとも腹を立てるのではないかと思うのだが。
ロブレごときの王太子だと思って侮っていたが、彼はなかなかやり手なのかもしれない。
エステファニアはシモンに感心すると同時に、警戒心を強めた。
パレードのあとには晩餐会があり、数々の貴族と顔を合わせた。
流石のリアナも今日はこの場に相応しいドレスを着ていて、話しをした貴族たちもそれなりだったので、以前のようにエステファニアが毒を吐くことはなかった。
しかし、帝国の貴族たちと比べるとどうも田舎臭かった。
彼らと比べるとシモンはまだ帝国でも通用しそうな感じで、初対面の頃こそシモンのこともかなり下に見ていたが、改めて考えると彼はまともな方なのかもしれない。
誰と何をしていても崩れない笑みなんかは国王よりもよっぽど考えが読めず、シモンの方が少なくとも交渉事の才能はありそうだった。
晩餐会が終わると、夫婦の寝室に案内された。
これからシモンと一晩同じ部屋で過ごすと思うと卒倒しそうだが、周りには夫婦の関係があると思わせるという話に頷いたのはエステファニアだ。
決めたことはやり遂げなければいけない。
ただ、シモンが手を出してくるようならすぐに股間を踏んずけてやると思いながら、侍女たちに体を洗われた。
薄手のナイトドレスを着て浴室から寝室に出る。
すでに支度を終わらせて寝衣に着替えたシモンが、ソファで紅茶を飲んでいた。
侍女たちが退室し、二人だけが寝室に残される。
「エステファニア様もお飲みになりますか? 落ち着きますよ」
「……いいえ、結構ですわ」
何かを盛られている可能性を考えて、エステファニアは首を振った。
ロブレ王家に嫁いだ身とはいえ、皇女に薬を盛るなど大問題になるから流石にやらないだろうが、警戒するに越したことはない。
薬まではいかなくとも、たとえば性的興奮が高まりやすい香りのする紅茶だったり、酒が混ぜられていたら流されてしまう可能性が僅かでもでてきてしまう。
とはいえベッドに入るのも嫌で、エステファニアはシモンの向かいのソファに座った。
婚礼用のドレスはシルクでできていて、ロールカラーにプリンセスラインのものだった。非常に長いトレーンに細かい刺繍、たくさんの真珠が縫い付けられており、見ごたえのあるドレスだ。
サイズは結婚が決まった時点で王国に伝えていたのでエステファニアがロブレに来た頃には完成していて、少し直しただけだった。
デザインに細かく口を出せなかったのが惜しかったが、思っていたよりも満足のいく出来で、エステファニアの気分はとても良かった。
式の中で、流石に誓いのキスを省略することはできずにシモンと口付けを交わしてしまったが、まあ軽いキスくらいは仕様がないからいいか、と流せたほどだ。
結婚式自体はロブレの名門貴族にしか出席が許されなかったが、その後のパレードには多くの国民が集まった。
馬車に乗った二人が現れると歓声が上がり、手を振るとそれは更に大きくなる。
帝国での兄たちのパレードに比べると騒がしかったが、馬車の前に飛び出すような者は流石におらず、最低限の統率は取れていた。
おかげで気分を害することなく、素直に自分が歓迎されていると受け取ったエステファニアは、にこやかに手を振り続けた。
パレードが終わって、エステファニアはシモンの手を取って馬車を下りる。
地面に両足をつけると、シモンが感嘆の溜息を吐きながら言った。
「とても……とても、お美しいです、エステファニア様。あなた様の隣に立てるという栄誉をいただき、改めて感謝申し上げます」
「ふふ。ええ、どうかそのまま、その喜びを噛み締め続けてくださいませ」
言外にそれ以上は求めるなと伝えたが、シモンは動揺を見せなかった。
当たり前のように頷き、エステファニアを眩しそうに見つめる。
「もちろんでございます。隣に立っていただけるだけで、夢のようです。それ以上は望みません」
そう言ったシモンは、エステファニアの意図が通じていない様子でもないし、強がっている風でもなかった。
心からそう思っているのならばそれで文句はないが、本心はそうでなかったとしたら、ここまで自然に言えるものだろうか。
エステファニア自身に興味がなかったとしても、女にこうも言われてしまえば、多少なりとも腹を立てるのではないかと思うのだが。
ロブレごときの王太子だと思って侮っていたが、彼はなかなかやり手なのかもしれない。
エステファニアはシモンに感心すると同時に、警戒心を強めた。
パレードのあとには晩餐会があり、数々の貴族と顔を合わせた。
流石のリアナも今日はこの場に相応しいドレスを着ていて、話しをした貴族たちもそれなりだったので、以前のようにエステファニアが毒を吐くことはなかった。
しかし、帝国の貴族たちと比べるとどうも田舎臭かった。
彼らと比べるとシモンはまだ帝国でも通用しそうな感じで、初対面の頃こそシモンのこともかなり下に見ていたが、改めて考えると彼はまともな方なのかもしれない。
誰と何をしていても崩れない笑みなんかは国王よりもよっぽど考えが読めず、シモンの方が少なくとも交渉事の才能はありそうだった。
晩餐会が終わると、夫婦の寝室に案内された。
これからシモンと一晩同じ部屋で過ごすと思うと卒倒しそうだが、周りには夫婦の関係があると思わせるという話に頷いたのはエステファニアだ。
決めたことはやり遂げなければいけない。
ただ、シモンが手を出してくるようならすぐに股間を踏んずけてやると思いながら、侍女たちに体を洗われた。
薄手のナイトドレスを着て浴室から寝室に出る。
すでに支度を終わらせて寝衣に着替えたシモンが、ソファで紅茶を飲んでいた。
侍女たちが退室し、二人だけが寝室に残される。
「エステファニア様もお飲みになりますか? 落ち着きますよ」
「……いいえ、結構ですわ」
何かを盛られている可能性を考えて、エステファニアは首を振った。
ロブレ王家に嫁いだ身とはいえ、皇女に薬を盛るなど大問題になるから流石にやらないだろうが、警戒するに越したことはない。
薬まではいかなくとも、たとえば性的興奮が高まりやすい香りのする紅茶だったり、酒が混ぜられていたら流されてしまう可能性が僅かでもでてきてしまう。
とはいえベッドに入るのも嫌で、エステファニアはシモンの向かいのソファに座った。
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