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異世界の友人(2)
しおりを挟む食堂について、席に座る。
白を基調とした広い部屋と大きいテーブルだが、用意されている席は、セレスタンとサクラの二人分だけだ。
サクラが来るまで、セレスタンはここで独りで食べていたという。
そう思うと、セレスタンがサクラに友人でいてくれと求める気持ちも分かる気がした。
サクラにとってセレスタンは知らない男の人だし、偉い人だ。
始めの頃はあまり友人らしく接することができなかったが、最近は結構慣れてきたと思う。
セレスタンが優しいのもあるし、もう、サクラがここに来て半年ほどになるのだ。
――半年かあ……。
元の世界のことを思い出す。
サクラは仕事帰りの電車に揺られているときに、この屋敷の庭園にいたのだ。
社会人になって三年目で、仕事の方では教育係になって、かわいい新人に教えながら充実した毎日を送っていた。
プライベートの方でも、大学時代から付き合っていた彼氏と婚約したばかりだった。
みんな、どうしているだろう。
サクラがいなくなって両親や彼氏はもちろん心配しているだろうし、新人も、引き継ぎもなしに教育係が変わって、きっと苦労しているだろう。
早く元の世界に帰りたかったが、方法がなかった。
セレスタンによると、この世界ではたびたび異世界人が現れるのだが、何が原因で来るのかも分かっていないし、元の世界に帰っていったという話も聞いたことがないという。
一応、何か詳しい記録がないか探してみると言ってくれていたが――あまり、進捗は良くないようだ。
仕事の合間にやってくれているから負担になっているだろうし、暇なサクラが調べられるようになればいいのだが、相変わらずこの世界の文章は読めないままだ。
――行方不明になって、死亡判定になるのって何年だっけ。そうじゃなくても、半年もいなかったらやっぱクビになるのかな……。彼氏は……本当は待っててほしい。でも、このまま帰れないんだったら、幸せになってもらった方が……。
愛した人には、幸せになって欲しい。
けれど彼の隣に違う女の人がいるところを想像すると、胸が締め付けられた。
サクラが俯いていると、食堂の扉が開いた。
顔を上げると、着替えたセレスタンが入って来る。
ふわふわとしたやわらかそうな黒髪に、いかにもファンタジー世界の貴族が着ていそうな装飾がごてごてとした黒いコートを着ている。
彼の特徴的なところは、目に半透明の紫色の布をかけているところだった。フェイスヴェールの目だけを隠している版、と言えば良いのだろうか。
鼻と口は露出しているのだが、目は布に隠されていて見えない。
眠っているときにも隠すと言う徹底ぶりで、いまだにセレスタンの瞳の色を知らなかった。
彼曰く、この世界ではあまり良くないと思われている色をしているので、人に見られたくないのだそうだ。
彼に気心の知れた人がいないのは、そういう事情もあるのだろう。
だから、そういう偏見のないサクラに友人になってくれと言ったのだと思う。
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