61 / 71
第五章 新しい恋に向かって
09
しおりを挟む
涙で頬を濡らし目の周りが赤くなっている藤崎の顔を、真宮は熱い視線で見つめて微笑んでいた。
「あの、俺……その……」
大人びた顔を見せたかと思えば、途端に子供のようになる真宮をかわいいと思う。考えれば年下でヘテロで、不安なことはたくさんあるはずなのに、今はそれが怖くない。触れられている暖かな彼の体温が、藤崎を安心させているのかもしれなかった。
「キス、したい?」
そう聞くと、一瞬だけ目を伏せた真宮は、掠れた声で、はい、と返事をした。
近づいて来る真っ直ぐな瞳に、誘われるように吸い寄せられた。真宮はゆっくりと手を動かし、涙で濡れた頬を指先撫でる。
「泣き顔も、かわいいですね」
「かわいくなんかないよ。もう、いい歳だと……思うけど」
「いえ、かわいいです」
藤崎の唇に僅かに触れた彼の手を掴み、その手のひらを頬に押し当てた。涙でいっぱいになった藤崎の瞳の中で、彼の顔はユラユラと揺れる。それが様子を伺うようにゆっくり近づき、そっと唇にキスを落としてきた。
「塩味がする」
「ごめん」
二人でクスクスと笑えば、潤んだような真宮の黒い目の奥で何かがキラリと光る。ちゃんと彼の顔を確認したかった。けれど、あやすように何度も口付けられ、その度に自然に目を閉じてしまう。慣れていない手つきでぎこちなく触れられる感触は、じれったくてこそばゆい。熱くてやさしい彼の想いが、藤崎のやわらかい部分を愛撫する。何かが胸の中でコトリと音を立てた。
「家のことは心配しないで。ちゃんと俺が話しをするよ。さんざしだって辞めない。せっかくブーケも練習してるんだから」
「じゃあ、僕は僕のことをちゃんとする。しなくちゃいけないことはたくさんあるから」
「二人でできることも、たくさんあると思う」
「そうだね」
真宮が話す度に、近すぎる彼の唇が藤崎の唇の先に触れる。ジンと痺れるようなあまい気持ちが広がった。
「好きだよ。君のことが、好きだ」
今度は藤崎から遠慮がちに触れるだけのキスをする。やっぱり少し塩味がしたけれど、溢れる感情に押されて、口付けはさらに深くなった。顎を上げた藤崎に覆い被さるようにしながら、真宮の舌が深く探るように入り込んでくる。
「……んんっ、ぅん、ふっぁ……」
くちゅくちゅと粘膜が擦れる度に音が聞こえた。恥ずかしくて全身が熱くなってくるのが分かる。顔も耳も火を噴きそうで、けれどやめたくなくて、藤崎はゆっくりと真宮の背中へと腕を伸ばす。
「俺、年下だし美澄さんみたいに頼りになる大人じゃない。それに背伸びしようとして失敗ばっかりするし、それでも、藤崎さんを好きな気持ちだけは誰にも負けないから」
真宮の大きな手が頬を包み、親指で撫でるように何度も涙の跡を辿る。熱っぽい眼差しで見つめられ、さらに体が熱くなった。
「……うん。浩輔を亡くしてから、もう誰も好きになれないと思ってた。だから今でも……少し怖い。自分の中で真宮くんがいっぱいになっていくのは、少し苦しくて、でもうれしくて、ここが……ギュッてなるんだ」
藤崎は真宮の胸に手を当て、ここだよ、と教えるように押さえた。やさしく微笑んだ真宮はその手を取り、荒れた指先に唇を押し当てる。
「俺はとっくに苦しかったよ。ひと目惚れなんだから」
「そう、なの?」
「うん。通勤にこの道を使うようになって、藤崎さんを見たときからだと思う。無意識だったけど、今思えばそうかな」
「じゃあ、ずいぶん前になるね」
「うん……すごく前」
意外な告白に驚きながら、何度もキスをしてその後の展開をお互いに想像している。
ゆっくりと畳に背中を付けるように押し倒されながら、いつまでも真宮の視線は藤崎を捕らえて離さなかった。
「あの、俺……その……」
大人びた顔を見せたかと思えば、途端に子供のようになる真宮をかわいいと思う。考えれば年下でヘテロで、不安なことはたくさんあるはずなのに、今はそれが怖くない。触れられている暖かな彼の体温が、藤崎を安心させているのかもしれなかった。
「キス、したい?」
そう聞くと、一瞬だけ目を伏せた真宮は、掠れた声で、はい、と返事をした。
近づいて来る真っ直ぐな瞳に、誘われるように吸い寄せられた。真宮はゆっくりと手を動かし、涙で濡れた頬を指先撫でる。
「泣き顔も、かわいいですね」
「かわいくなんかないよ。もう、いい歳だと……思うけど」
「いえ、かわいいです」
藤崎の唇に僅かに触れた彼の手を掴み、その手のひらを頬に押し当てた。涙でいっぱいになった藤崎の瞳の中で、彼の顔はユラユラと揺れる。それが様子を伺うようにゆっくり近づき、そっと唇にキスを落としてきた。
「塩味がする」
「ごめん」
二人でクスクスと笑えば、潤んだような真宮の黒い目の奥で何かがキラリと光る。ちゃんと彼の顔を確認したかった。けれど、あやすように何度も口付けられ、その度に自然に目を閉じてしまう。慣れていない手つきでぎこちなく触れられる感触は、じれったくてこそばゆい。熱くてやさしい彼の想いが、藤崎のやわらかい部分を愛撫する。何かが胸の中でコトリと音を立てた。
「家のことは心配しないで。ちゃんと俺が話しをするよ。さんざしだって辞めない。せっかくブーケも練習してるんだから」
「じゃあ、僕は僕のことをちゃんとする。しなくちゃいけないことはたくさんあるから」
「二人でできることも、たくさんあると思う」
「そうだね」
真宮が話す度に、近すぎる彼の唇が藤崎の唇の先に触れる。ジンと痺れるようなあまい気持ちが広がった。
「好きだよ。君のことが、好きだ」
今度は藤崎から遠慮がちに触れるだけのキスをする。やっぱり少し塩味がしたけれど、溢れる感情に押されて、口付けはさらに深くなった。顎を上げた藤崎に覆い被さるようにしながら、真宮の舌が深く探るように入り込んでくる。
「……んんっ、ぅん、ふっぁ……」
くちゅくちゅと粘膜が擦れる度に音が聞こえた。恥ずかしくて全身が熱くなってくるのが分かる。顔も耳も火を噴きそうで、けれどやめたくなくて、藤崎はゆっくりと真宮の背中へと腕を伸ばす。
「俺、年下だし美澄さんみたいに頼りになる大人じゃない。それに背伸びしようとして失敗ばっかりするし、それでも、藤崎さんを好きな気持ちだけは誰にも負けないから」
真宮の大きな手が頬を包み、親指で撫でるように何度も涙の跡を辿る。熱っぽい眼差しで見つめられ、さらに体が熱くなった。
「……うん。浩輔を亡くしてから、もう誰も好きになれないと思ってた。だから今でも……少し怖い。自分の中で真宮くんがいっぱいになっていくのは、少し苦しくて、でもうれしくて、ここが……ギュッてなるんだ」
藤崎は真宮の胸に手を当て、ここだよ、と教えるように押さえた。やさしく微笑んだ真宮はその手を取り、荒れた指先に唇を押し当てる。
「俺はとっくに苦しかったよ。ひと目惚れなんだから」
「そう、なの?」
「うん。通勤にこの道を使うようになって、藤崎さんを見たときからだと思う。無意識だったけど、今思えばそうかな」
「じゃあ、ずいぶん前になるね」
「うん……すごく前」
意外な告白に驚きながら、何度もキスをしてその後の展開をお互いに想像している。
ゆっくりと畳に背中を付けるように押し倒されながら、いつまでも真宮の視線は藤崎を捕らえて離さなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
LAST TORTURE 〜魔界の拷問吏と捕虜勇者〜
焼きたてメロンパン
BL
魔界の片隅で拷問吏として働く主人公は、ある日魔王から依頼を渡される。
それは城の地下牢に捕らえた伝説の勇者の息子を拷問し、彼ら一族の居場所を吐かせろというものだった。
成功すれば望むものをなんでもひとつ与えられるが、失敗すれば死。
そんな依頼を拒否権なく引き受けることになった主人公は、捕虜である伝説の勇者の息子に様々な拷問を行う。
たとえ月しか見えなくても
ゆん
BL
留丸と透が付き合い始めて1年が経った。ひとつひとつ季節を重ねていくうちに、透と番になる日を夢見るようになった留丸だったが、透はまるでその気がないようで──
『笑顔の向こう側』のシーズン2。海で結ばれたふたりの恋の行方は?
※こちらは『黒十字』に出て来るサブカプのストーリー『笑顔の向こう側』の続きになります。
初めての方は『黒十字』と『笑顔の向こう側』を読んでからこちらを読まれることをおすすめします……が、『笑顔の向こう側』から読んでもなんとか分かる、はず。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
櫻坂 真紀
BL
幼い頃は、天使の様に可愛らしかった俺。
でも成長した今の俺に、その面影はない。
そのせいで、初恋の人にあの時の俺だと分かって貰えず……それどころか、彼は他の男を傍に置き……?
あなたへの初恋は、この胸に秘めます。
だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。
※このお話はタグにもあるように、攻め以外との行為があります。それが苦手な方はご注意下さい(その回には!を付けてあります)。
※24話で本編完結しました(※が二人のR18回です)。
※番外編として、メインCP以外(金子さんと東さん)の話があり、こちらは13話完結です。R18回には※が付いてます。
[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く
小葉石
BL
今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。
10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。
妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…
アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。
※亡国の皇子は華と剣を愛でる、
のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。
際どいシーンは*をつけてます。
君の全てが……
Guidepost
BL
『香月 蓮』には誰にも言えない秘密があった。
それは、長袖の下に隠されている腕や手首にある傷。
彼には、全く自傷行為をするつもりはないし自殺願望も、なにもかも嫌だと鬱になる気持ちも基本的にないものの……。
ある日、『香月 蓮』は同じ大学に通う『秋尾 柾』と知り合った。
そして彼に、その傷を見られてしまい──
* この物語には自傷行為・流血表現等が少々ですがありますので、苦手な方はご注意ください。
(R指定の話には話数の後に※印)
歪んだ運命の番様
ぺんたまごん
BL
親友αは運命の番に出会った。
大学4年。親友はインターン先で運命の番と出会いを果たし、来年の6月に結婚式をする事になった。バース性の隔たりなく接してくれた親友は大切な友人でもあり、唯一の思い人であった。
思いも伝える事が出来ず、大学の人気のないベンチで泣いていたら極上のαと言われる遊馬弓弦が『慰めてあげる』と声をかけてくる。
俺は知らなかった。都市伝説としてある噂がある事を。
αにずっと抱かれているとβの身体が変化して……
≪登場人物≫
松元雪雄(β)
遊馬弓弦(α) 雪雄に執着している
暁飛翔(α) 雪雄の親友で片思いの相手
矢澤旭(Ω) 雪雄に助けられ、恩を感じている
※一般的なオメガバースの設定ですが、一部オリジナル含んでおりますのでご理解下さい。
又、無理矢理、露骨表現等あります。
フジョッシー、ムーンにも記載してますが、ちょこちょこ変えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる