癒しの村

Yuri1980

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10.散歩

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 ナミの母から、癒しの村の住人の話を聞いたとき、うつ病を患う人たちがいることが気になった。

 重度の脳性麻痺の子をお世話しているという。うつ病だから、世話される側だと考えられるが、この村では違うらしい。

 玄関前でナミが掃き掃除をしていたので、

「うつ病を患う人たちは、どこにいるのか知ってる?」

 と、聞いてみる。

 ナミは掃除をする手を止めて、

「教会から、畑や田んぼ道をずっと上がっていくと、草原にでる。そこに、ぽつっと小屋があるから、すぐわかるよ」

 と、道を指差して言った。

 私が礼を言うと、ナミは笑顔で頷き、また単調な動作を繰り返すように、掃き掃除を始める。

 ナミの言う通り、教会を山の頂上目がけて登っていくと、田畑が広がり、小屋も数軒あった。きっと、田畑を耕す仕事をしている人たちが住んでいるのだろう。

 道をずんずん歩いて行くと、田畑がなくなり、急に草原が広がり始める。もしかしたら、ここら辺一帯は、もとは山頂近くの草原のような土地だったのかもしれない。

 草原には、大きめの集合住宅のような小屋が、ぽつんと建っており、すぐにわかった。

 小屋の戸を開けると、ベッドが並んだ大部屋が広がる。30畳程はあるだろうか。ベッドは等間隔に8台並び、そのうち奥の5台のベッドには人が寝ていた。

「どなた?」

 大部屋につながっている奥の部屋から、人の声がした。

「昨日、新しく住人になりました、田辺リサといいます」

 私は声を高くあげて、名を名乗った。

 すると、ショートカットを揺らし、溌剌とした笑顔を浮かべた、若い女がこちらにやって来る。

「あら。同じくらの年ね。私は、山辺サトミ。よろしくね」

 サトミはペコリとお辞儀をして、名を名乗った。

「はい、19になります。まだ、わからないことだらけです。よろしくお願いします。」

 私もサトミに、ペコリとお辞儀をする。

「あら。私は22だから、3つ下になるのね。ここまで来たのだから、下の世界では辛いことがあったのよね」

 サトミは顔を上げて言う。瞳の色が透き通った茶色の色素であった。

「境界性人格障害です」

 なぜだろう、サトミには真実を話せる。

「パーソナリティ障害は、何も信じるものがないから、生きづらいでしょう」

 サトミは、一瞬はっとしたように目を開け、全てを理解したように微笑んで言った。

「毎日死にたくて、藁にも縋る想いで、癒しの村に来ました」

 なぜか胸が苦しくなり、涙が滲み出る。

「聞いたかもしれないけど、私はうつ病なの。下の世界では、リストカットを繰り返していたわ。一筋の光を探して、ここに来たの。もう、6年になるかしら。時々、無性に全てが嫌になって、死にたくなるのは同じだけど、あの子たちの顔を見たら、なんとか耐えることができるの」

 サトミも何も隠そうとしなかった。今までのことを、そのまま伝えられる。

「あの子たち?」

 私は、サトミに聞いた。

「ええ。こっちにいらっしゃい。紹介するわ」

 サトミは頷き、にこりと笑って、私を中に招き入れた。

 
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