おてんば姫がお忍び中、隣国の王子と恋に落ちたとき、ドラゴンの伝説が再び甦りました。

Yuri1980

文字の大きさ
上 下
3 / 9

第三 アルク王子と恋に落ちる

しおりを挟む
「〖魔法:空間転移ゲート〗ッ!」

 じぃちゃんが見せてくれた手品が実は魔法と言う事実を、ばぁちゃんに教えてもらった僕は、この世界でも魔法が使える事を知った。
 それならば僕も魔法が使えるはずだ…と、必死に魔法を使おうとする。

 だが、何度やっても魔法は発動しない…だだ、それでも諦めずに魔法を使おうとすると何度目かは分からないが、身体から何かが失われた感覚に陥る。
 この感覚は魔法を使った時みたいな…だが、残念ながら魔法が発動した気配がない。

「クソッ!やっぱり・・・・失敗した!!」

 そう、この世界に戻って直ぐ、今までの事は夢だったのか?と思い、魔法を使おうとした。
 その結果、何度試しても魔法は使えなかったのである。

「あらあらあら、正義マサヨシさんは普通に使えていたのに、何が悪いのかしら…。」

 僕とじいちゃんの違い…本当に、何の違いがあるのか僕が知りたいくらいだ。

「そう言えば、結局、私は使わずじまいだったのだけど…。」

 と言って、ばぁちゃんは家の中へと入っていってしまう。
 それから暫くして、ばぁちゃんが戻ってきた。
 その、ばぁちゃんの手には、何だか不思議な感覚のする小さな箱があった。

「ばぁちゃん、それは?」
「これはね、正義マサヨシさんが私にプロポーズしてくれた時に、私にくれた物よ。」
「へ~、じぃちゃんが…。」

 正直、プロポーズした時の物と言われても興味はない。
 それがあれば、プリン達の所へ戻れると言うのなら話は別だが…。

「でもね?私は正義マサヨシさんに幸せを、いっぱい貰ったから…これは夢幻ムゲンちゃんにあげるわ。
 多分、夢幻ちゃんに必要な物だと思うの。」

 そう言って渡された、小さな箱を、恐る恐る開ける。
 するとそこには…見た事もない石が付いているリングである。

「これは…指輪だよね?」

 何処から見ても指輪だが、何故か当たり前の事を聞いてしまう。
 まぁ、プロポーズの時と言うのだから、指輪を贈るのは至極当然の事だと思う。

「そうね、確か…正義マサヨシさんが言うには『願いの指輪』と言っていたかしら?
 その指輪は、持ち主の本当に叶えたい願いを、一度だけ叶えてくれるそうよ。
 まぁ、私は願いは正義マサヨシさんが全部叶えてくれたから試した事無いのだけど…。」

 そう言って、僕にウインクをする、ばぁちゃん…。
 何度か若い頃の写真を見た事があるが、このタイミングでそんな事をされたら…ばぁちゃんが、もし若かったら、僕もじぃちゃんみたいに、恋に堕ちていたかも知れない。

「って、待った!!そんな大事な物、貰えないよ!」

 気付くのに遅れたが、ばぁちゃんは使わなかったとは言え、プロポーズと一緒に渡されたのであれば、これは婚約指輪である。
 つまり、これは…ただの指輪などではなく、じぃちゃんの形見と言う事でもある。
 そんな大事な物を、『はい、そうですか』と簡単に貰う訳にはいかない品物だった。

「いいえ、それは違うわ。
 今の、夢幻ちゃんだから、私は上げたいの…だって、夢幻ちゃんは男の子じゃない!
 だったら、夢幻ちゃんは、惚れた女の子を幸せにしてあげる義務があるわ。
 そう、正義マサヨシさんが、私を幸せにしてくれた様に!」

 まさかのダメだし…だが、ばぁちゃんの言う通りである。
 じぃちゃんなんか、惚れた女の為に、世界まで救ったのだから…。
 しかも、貴重な『願いの指輪婚約指輪』を使わせる事なく、幸せにしたと言われたら、じいちゃんと、ばあちゃんの孫である僕が、自分の惚れた女の一人や二人…いや、正確には四人だが…幸せに出来ないでどうするって話だ。

「あ、あ~ぁ、もう!分かったよ、ばぁちゃん!!」

 僕はそう言うと、ばあちゃんから『願いの指輪』を受け取ると指に填める。
 そして…あちらの世界に行く事を強く…強く強く願った。

【…ジ…ジジ…聞こ……?…てるかな?】
【お~い、聞こえますか~?】

「…その声は…もしかして先生?」
「あら?今の声、私にも聞こえたわ。」

 どうやら、先生の声は、何故か僕だけではなく、ばぁちゃんにも聞こえている様だ。

【良かった、繋がった!】
【何故か、急に強い力を感じたから逆探知してみたんだけど、やっぱり貴方だったのね!】

「え、えぇ…でも、何で先生が?」

【何でって…こっちの世界に来たいって強く望む声が聞こえたから?】

「え?それって…。」

【えぇ、来れるわよ?でもね?
 今度は私が召喚する訳じゃないから二度と帰れないし、今度こそ死んだらそれでお終い…それでも良いの?】

 そう言われて、僕は思わず、ばぁちゃんの顔を見る。
 もし、このまま向こうの世界に行く事になれば、もう、ばぁちゃんや家族とも会う事が出来なくなると言われたのだ。
 それでも、それでも僕は…。

「もう、夢幻ちゃんったら、何を迷ってるフリをしてるの!
 貴方は、世界のことわりさえ、その意思で覆したじゃないの!」
「え?僕が、世界の理を?」
「そうよ、プリンちゃんが死んだ時、それでも夢幻ちゃんは諦めず世界の理を捻じ曲げ、彼女を救ったのよ?
 だったら、今度も、そんな『世界の理ルール』なんて捻じ曲げちゃえば良いのよ!」

【ちょッ!?何言ってんの貴女!】
【私、あの後、綻び直すのに三日間も徹夜しまくったんだからね!】

「あ~もう、五月蝿うるさいわね!お姫様で聖女だった私が許す!夢幻ちゃん、やっちゃえッ!!」

【だから、煽らないでってば~!】

 ばぁちゃん、それは傲慢とも言える理屈ですよ?
 だが、あの一件で先生から何か言われそうだと思っていたけど、何も無かったのはそう言う事三日間徹夜があった訳か…。

「ププッ…流石、ばぁちゃんお姫様、言う事が違う!
 そうだよな…好きな子を幸せにする為なんだもん、世界の一つや二つ、敵に回したって、どうって事ないよな!」

 ばぁちゃんに感化されたからか、そう思ったら、何も心配する事が無くなっていた。
 次の瞬間…指にはめた『願いの指輪』が激しく光り出す。
 今なら、使えなかった魔法も使える様な気がする。

「ばぁちゃん、、行ってくるよ!」
「あら、やだ…いつの間にか、夢幻ちゃんも、男の顔出来る様になったじゃない。
 だったら、これは私からのお呪まじない…もう、おばあちゃんだから効果は期待出来ないけど…。」

『チュッ』

 そう言って、ばぁちゃんが、俺の額にキスをする。

「聖女様の祝福なんて、勇者セイギマサヨシさんにしかしなかったんだから…絶対に負けんじゃないよ!」
「あぁ、任せとけ!速攻で、ぶっとばしてくる!」

 そう言って、ばぁちゃんから距離を取る…そして…。

『パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!パチン!』

 六芒星を描く様に腕を動かし、その頂点となる部分で指を鳴らす。
 チートスキル〖森羅万象〗…その効果がヤバ過ぎて、今までは使う事自体、良くない事だと思っていた為、極力、使わない様にしていた能力を、コレでもかと言うほどフルに発揮する。

 そして、僕は頭に浮かんだ呪文を唱える。

「世界と世界を繋ぐ門、我が意を受け、我の望みし世界の門を開け!
 願わくば、我が望みし時へと我を誘え!」

 目の前の空間がバチバチと音を立てている。
 だが、まだ門は開いていない。
 何か、邪魔する力が働いている様に気がする。

【あ~、もう!良いわよ良いわよ!】
【今度は何日掛かるか分かんないけど、許可すれば良いんでしょ!】
【…まぁ、貴方達の願い・・・・・・は既に、七夕・・の時に受理しちゃてるし…ね。】

 すると、今まで邪魔していた力が霧散したのを、確かに俺は感じた。
 次の瞬間、俺は再度、詠唱し魔法を発動させる。

「〖魔法:次元転移門《アナザーゲート》〗!」

『バキン!』

 先生が許可したからか、目の前に空間が罅割ひびわれ、ついにゲートが開く。


「ばぁちゃん、俺、行ってくる!」
「えぇ、今度はお嫁さん達を連れて遊びにおいで。」
「あぁ、絶対に戻ってくるから!みんな良い子達だから楽しみに待ってってくれよ!!」

 俺はそう言うと、こちらの世界とあちらの世界異世界を繋ぐ門を潜るのだった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

愛しの貴方にサヨナラのキスを

百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。 良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。 愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。 後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。 テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

処理中です...