おてんば姫がお忍び中、隣国の王子と恋に落ちたとき、ドラゴンの伝説が再び甦りました。

Yuri1980

文字の大きさ
上 下
1 / 9

第一 おてんば姫のお忍び

しおりを挟む
 
 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 その昔、銀のドラゴンは、砂漠の国に住む人間の女に一目で恋に落ちた。

 人間の女も銀のドラゴンが好きになり、金のドラゴンとなって二匹の龍の恋が叶った。

 しかし、銀のドラゴンの妻であった白のドラゴンは裏切りを知ると、怒り狂った。大地を揺るがし、嵐が吹き荒れ、世界は混乱してしまう。

 困った神は、白のドラゴンの怒りを鎮めるため、金のドラゴンと銀のドラゴンをそれぞれ砂漠の地方の東の国と西の国に引き離し、守り神とさせた。

 それでも白のドラゴンの怒りはおさまらなかったため、神は、白のドラゴンを対国の守り神とさせた。

 もしも再び、東と西の国が交わる時があれば、災いを起こし、お互いの国を滅ぼすことを許すことで、合意をとることとなった。

 それから何千年も、砂漠で渇ききっていた東のメリムダ国と西のサンドリア国に、雨が降るようになった。

 守り神となった銀のドラゴンは嵐をよび、金のドラゴンが雨を降らせていると、言い伝えとして受け継がれている。

 そして、白のドラゴンの怒りを再び甦らせないように、お互いの国の王家は交流を断絶するようになった。

 
 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢
 

 
 時は近未来。世界が温暖化で砂漠化が進行する中、砂漠地方にあるメリムダ国は、昔から雨がよく降っている。

 雨の恩恵により、メリムダ国では椰子の木や南国の花々がよく育ち、作物は豊かに実り、文明はどんどん進歩していった。

 メリムダ国が化学物質を合成し、浮遊石の発明に成功をしたのは、30年前だ。

 浮遊石ができたおかげで、車やバイク、船などの乗り物か、エンジンを使用しなくとも、浮くことができるようになった。

 メリムダ国の第一姫である、カトレアは、今年で17才、高等学校の2年生だ。城から勝手に浮遊石を持ち出しては、秘密基地で小型の飛行船を改造している。

「ようし!良い感じだわ!これで、また浮くようになったわ。修理完了!」

 カトレアは、煤がついた頬を拭い、ふわふわの巻き毛を揺らしてガッツポーズをとる。

「まさか、またお忍びで出かけるつもり?」

 クラスメイトのサラは、面倒臭そうに口を開く。

 サラは武器屋の一人娘で、艶やかな黒髪が似合う、涼しげな美人に見えるが、彼女の銃の狙いは百発百中。腕利きの銃使いであることがカトレアの耳に入り、お忍びの仲間に誘い出された。

「行かないなら、何のために、修理したっていうのよ!なにせ、前回、飛行船を飛ばして城下町で、野鳥に襲われた無念を晴らしたいと思わないの?」

 カトレアは、オレンジ色の瞳を上気させて、頬を膨らませる。カトレアは、おてんばで好奇心旺盛なので、姫として城に閉じ込められているのが毎日物足りなく思っていた。

 飛行船を改造しては、サラなど仲間を呼び、城の外に出ては、野鳥に攻撃されて撃ち落とされることを繰り返していた。

 なにしろ、最近10年の間に、世界は砂漠化されてきているため、動物たちは餌を求めて人間の領域に入って攻撃を仕掛けてくるようになった。

 空も獰猛な野鳥類で、危険な地域と警戒されていた。

「カトレア姫が作ったよれよれの飛行船なんて、野鳥たちがうようよ出てきたら、ひとたまりもないわよ」

 サラが小馬鹿にするように言うのも、無理はなかった。

「それを、サラが銃で撃ち落としてくれたら、いいのよ!何のために、苦労して一緒に改造してきたのよ」

「まあ、それは、金くれるから、やってただけよ」

「!お金のため?サラには、ロマンはないの?国の外がどうなっているか、興味あるでしょ?」

「いや、私は、金しか信用してないから、金が一番。外の国なんて、禁じられているのに行くほど、強いロマンも好奇心もないね」

 サラは、さらりとカトレアの言葉をかわして言った。実のところ、カトレアが払う駄賃が目当てでずっとついているだけだった。それが、最近はくされ縁になりつつあった。

「はあ。じゃあ、今回のお忍びで、1000払うわ!どう?」

「いや、今回は、隣の国に行くんだろ?銃の値段もいれて、5000は貰いたい。リスクありすぎ」

「うーー、いいわ、、そのかわり、絶対途中で引き返さないでよ」

「まあ、飛行船が落ちない限りはね」

 カトレアは、お金で解決すると安堵して頷いた。お金でもなんでも、とにかく城の外へと抜け出したいのだった。

「ようし、じゃあ、決行は、今週の日曜日、お父様もお母様も、会議と遊会でいないからちょうどいいわ」

「こんな姫じゃあ、王も王妃も大変ね」

「大変なのは、隔離されるように城に閉じ込められている私よ!自由がほしい!」

「自由と危険は、紙一重よ」

「それはそうね、、ランドンも連れて行かないとね」

 カトレアは、サラの忠告に素直に頷き、同じくクラスメイトで剣の達人であるランドンをどう誘い出そうか作戦を考えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

愛しの貴方にサヨナラのキスを

百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。 良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。 愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。 後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。 テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...