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第3章
第5話 再会
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その週末、スタジオで練習をした後、創が、
「オレさ、楽器屋に行きたいんだけど。新しい弦を買っておこうと思って」
「あ。じゃあ、オレも行く。スティック見たい」
高矢も言った。才と恭一は、特に用事はなかったが、ついて行くことにした。
その楽器屋は、才と創が楽器を買った場所だ。創が店のドアを開けて中に入ると、その場で急に立ち止まった。すぐ後ろにいた高矢が、創の背中にぶつかり、「あ。ごめん」と、あやまっている。
才は、創が動かないので、やむを得ずドアの手前で立っていた。店の奥の方を何気なく見て、創がどうして動かなくなったのか、わかった。が、才は、あえて創に、
「スギちゃん。後がつかえてるから、入ってよ」
低く言った。創も、「そうだよね」と、いつもにないような、少しおどおどしたような口調で言った。創に続いて高矢が入って行き、才と恭一も続いた。
先に入った二人は、相変わらず黙っている。が、目はしっかりと店員を捕らえていた。才も、その方を見る。店員も、才を見ている。隣に立つ恭一を横目で見ると、恭一は驚いた顔で店員を見ていた。無理もない、と、才は思った。
恭一に対して、拳を振り上げた人。敵意を真っ直ぐ向けてきた人を、恐れるなと言う方が無理だろう。
才は、前に立つ二人の横をすり抜けて、店員のそばへ行った。店員は、何も言わずに才を見ていたが、立場を思い出したのか、急に居ずまいを正して、
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、ミハラくん。久し振りだね」
才は、普通に話し掛けられたことに、自分で驚いていた。
「スギちゃんが、ギターの弦を買いたいからって、来たんだ。高矢もスティックを見たいって」
店員・三原正司は、頷いて二人をそれぞれの売り場へ案内していた。その背中を見ながら、才は三原が自分を殴ったあの日のことを思い出していた。
そして、その時殴られた左頬の痛みが復活したかのように感じ、つい撫で擦った。恭一は、才の方を心配そうに見て来た。才は、笑顔を見せて、
「大丈夫だよ」
何に対して大丈夫と言ったのか、才自身もよくわかっていなかった。が、恭一は素直に頷いていた。
創と高矢はまだ商品を見ているようで、話し声が聞こえていた。三原だけが才たちの方に戻ってきて、レジに立った。才は、三原を少し見上げながら、
「ここで、働いてるんだね」
「ま、バイトだけどね。一ヶ月前から」
「そうなんだ」
沈黙が流れた。恭一は、才のそばに立ち、才と三原を交互に見ている。その表情は、出会った頃のおどおどした感じが見られた。才は、恭一としっかり目を合わせてから、
「キョウちゃん。大丈夫だから」
「あ……うん」
才は、ふっと笑って、三原に視線を戻した。
「ミハラくんが、あんなことするから、キョウちゃん、怯えてるじゃないか」
からかうように言うと、三原は恭一に向き直り、
「キョウイチ。悪かったな。オレが、全面的に悪かった」
「いえ。あの……」
恭一は、どう答えていいのかわからないようだった。才は、恭一の肩を軽く叩くと、
「ミハラくん。悪いのは、君じゃなくて、オレだから。あの時もそう言ったじゃないか」
「でもさ。原因を作ったのはオレだから」
そこまで話した時、創と高矢がそれぞれの選んだ物を手にして戻ってきた。三原は急に仕事の顔に戻って、レジを打ったり、商品を袋に詰めたりした。
創と高矢は顔を見合わせて頷き合うと、三原に目をやり、
「また来る」
「ああ」
その時の三原は、昔一緒にバンドをやっていた友人の顔に戻っていた。二人が手を振りながら出て行くと、恭一もその後に続いた。才だけがその場に残り、三原を見つめた。三原は首を少し傾げながら、
「何だ?」
店員ではない、昔の三原が訊いてきた。才は微笑むと、「仕事、何時に終わるの?」と訊いた。
「オレさ、楽器屋に行きたいんだけど。新しい弦を買っておこうと思って」
「あ。じゃあ、オレも行く。スティック見たい」
高矢も言った。才と恭一は、特に用事はなかったが、ついて行くことにした。
その楽器屋は、才と創が楽器を買った場所だ。創が店のドアを開けて中に入ると、その場で急に立ち止まった。すぐ後ろにいた高矢が、創の背中にぶつかり、「あ。ごめん」と、あやまっている。
才は、創が動かないので、やむを得ずドアの手前で立っていた。店の奥の方を何気なく見て、創がどうして動かなくなったのか、わかった。が、才は、あえて創に、
「スギちゃん。後がつかえてるから、入ってよ」
低く言った。創も、「そうだよね」と、いつもにないような、少しおどおどしたような口調で言った。創に続いて高矢が入って行き、才と恭一も続いた。
先に入った二人は、相変わらず黙っている。が、目はしっかりと店員を捕らえていた。才も、その方を見る。店員も、才を見ている。隣に立つ恭一を横目で見ると、恭一は驚いた顔で店員を見ていた。無理もない、と、才は思った。
恭一に対して、拳を振り上げた人。敵意を真っ直ぐ向けてきた人を、恐れるなと言う方が無理だろう。
才は、前に立つ二人の横をすり抜けて、店員のそばへ行った。店員は、何も言わずに才を見ていたが、立場を思い出したのか、急に居ずまいを正して、
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、ミハラくん。久し振りだね」
才は、普通に話し掛けられたことに、自分で驚いていた。
「スギちゃんが、ギターの弦を買いたいからって、来たんだ。高矢もスティックを見たいって」
店員・三原正司は、頷いて二人をそれぞれの売り場へ案内していた。その背中を見ながら、才は三原が自分を殴ったあの日のことを思い出していた。
そして、その時殴られた左頬の痛みが復活したかのように感じ、つい撫で擦った。恭一は、才の方を心配そうに見て来た。才は、笑顔を見せて、
「大丈夫だよ」
何に対して大丈夫と言ったのか、才自身もよくわかっていなかった。が、恭一は素直に頷いていた。
創と高矢はまだ商品を見ているようで、話し声が聞こえていた。三原だけが才たちの方に戻ってきて、レジに立った。才は、三原を少し見上げながら、
「ここで、働いてるんだね」
「ま、バイトだけどね。一ヶ月前から」
「そうなんだ」
沈黙が流れた。恭一は、才のそばに立ち、才と三原を交互に見ている。その表情は、出会った頃のおどおどした感じが見られた。才は、恭一としっかり目を合わせてから、
「キョウちゃん。大丈夫だから」
「あ……うん」
才は、ふっと笑って、三原に視線を戻した。
「ミハラくんが、あんなことするから、キョウちゃん、怯えてるじゃないか」
からかうように言うと、三原は恭一に向き直り、
「キョウイチ。悪かったな。オレが、全面的に悪かった」
「いえ。あの……」
恭一は、どう答えていいのかわからないようだった。才は、恭一の肩を軽く叩くと、
「ミハラくん。悪いのは、君じゃなくて、オレだから。あの時もそう言ったじゃないか」
「でもさ。原因を作ったのはオレだから」
そこまで話した時、創と高矢がそれぞれの選んだ物を手にして戻ってきた。三原は急に仕事の顔に戻って、レジを打ったり、商品を袋に詰めたりした。
創と高矢は顔を見合わせて頷き合うと、三原に目をやり、
「また来る」
「ああ」
その時の三原は、昔一緒にバンドをやっていた友人の顔に戻っていた。二人が手を振りながら出て行くと、恭一もその後に続いた。才だけがその場に残り、三原を見つめた。三原は首を少し傾げながら、
「何だ?」
店員ではない、昔の三原が訊いてきた。才は微笑むと、「仕事、何時に終わるの?」と訊いた。
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