君のいない場所

ヤン

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第2章

第8話 教えてよ

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 大樹だいきが、「じゃあな」と手を振って出て行った後、さいはベッドでウトウトとしていた。

 夢の中の才は中学一年生で、隣には三原みはら正司まさしがいる。雨の中、一緒に歩いた日。初めてバンドの練習をする日、才の額に手を当てていた、あの表情。一緒にプラネタリウムを見に行った時、撫でられた頬の感触。

津久見つくみさん。面会の方が見えてます、三人」

 看護師に声を掛けられて、才は目を開けると、すぐに体を起こした。その拍子に、目から涙がこぼれ落ちた。それで、自分は泣いていたのだ、と知った。

 入って来たのは、バンドのメンバーだった。高矢たかやはじめ。そして、その後ろに三原がいた。才は、三人に微笑むと、

「来てくれて、ありがとう」
「サイちゃん。大丈夫なのか?」

 高矢が、眉を寄せて心配そうな顔で才を見た。才は、首を振った。

「大丈夫なら良かったんだけど。残念ながら、胃潰瘍いかいようって言われて、この通り、入院して点滴されてる」

 はじめが、才の腕に刺さっている注射針を見て、顔をしかめる。

「痛そう」
「いや。この針より、胃の方が痛い」
「ああ。そうだよね。いつごろ退院出来そうなの?」
「二週間くらいって言われた」
「そっかー」

 創は俯いて、もう一度、「そっかー」と言った。

 才は、二人の後ろに立つ三原に目をやった。三原は、何も言わずに才をじっと見ていた。才も、見つめ返す。目が合って、先にそらしたのは三原だった。才は、「ミハラくん」と呼びかけた。

「昨日のライヴ、盛り上がったみたいだね。大樹が言ってたよ。さすが、ミハラくんだね」

 三原は、視線を才に戻しただけで、やはり何も言わない。

「ミハラくん」

 才が何度も三原を呼んでいると、高矢と創が目を合わせて頷き合った後、病室を出て行った。三原は、二人を視線で見送ってから、才の方を見て来た。そして、ようやく、

「サイ……」
「何だい、ミハラくん」
「サイ……」

 その声は、聞いている方が苦しくなるようなものだった。が、才は感情を押し殺して、

「何だよ、ミハラくん」

 三原は首を振る。才は、肩をすくめ、

「じゃあ、帰ってよ」

 冷たい口調で言った。

「ミハラくん。あの時……あの時のあれは、どういう気持ちだったのか、教えてよ。あれは、どういう意味なのか。オレは……オレは、ミハラくんが好きだよ。好きだよ、で悪ければ、好きだったよって言い直してもいい。ミハラくんが、オレに優しくしてくれて、オレの額や頬に触れてくれて。オレが、どれだけドキドキしてたか、ミハラくんにはわからないよね」

 ただ才を見ている三原を、才は睨みつけて、

「人の気持ちを混乱させておいて、何でサエ子さんなんだよ。あれは、どういうことだったんだよ。教えてよ」

 感情が爆発して、涙が流れ落ちて行く。こんな自分が嫌でしょうがない、と才は自分を非難したが、どうしようもなかった。

「オレは、君のこと、ずっと……。それなのに、オレの前で、わざと……」
「サイ」

 三原が近づいてきて、才の髪を撫でた。才は、その手を勢いよく払った。

「触るな」

 目を見開いて立っている三原に、「出てけ」と強い口調で言い放った。三原は、「わかった」と低く言って、病室を出て行ってしまった。

「ミハラくん」

 小さな声で、その名前を口にする。

「本当に出て行くとか、意味がわかんない」

 自分で出て行けと言っておいて、三原の行動を責めてしまう才だった。
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