君のいない場所

ヤン

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第1章

第4話 三人で

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「サイ。オレ、何か変なこと言ったか?」

 三原みはらに問われて、さいは首を振った。三原の横に座る高矢たかやが、わざとのように大きな溜息を吐き、

「ミハラ。サイちゃんをからかうの、よせよ」
「からかう? からかってないぞ」
「からかってない? じゃあ、口説くのはやめろ」
「タカヤ。おまえ、さっきから何言ってるんだ? わけわかんねえぞ」

 二人の言い合いに、はじめが首を傾げる。才は、いたたまれず、つい足元に視線を落とした。

「だからさ、ミハラ」
「おお。何だよ」

 三原の口調が、少し強くなる。才は、ここから出て行かなければならない、と決意し、椅子から立ち上がった。

「あの……オレ、もう行きます」

 おずおずと才がそう言うと、三原が才の方に向いて、

「何だよ、サイ。行っちゃうのかよ。まだ昼休み終わんないぞ」
「えっと、でも、帰ります」

 これ以上言っても無駄だと思い、一礼すると教室を急ぎ足で出た。

「待ってよ、サイちゃん」

 すぐに創が追いついた。才は創を見ながら、「ごめん」と言った。創は、やはり首を傾げて、

「何、謝ってんの? それにしてもさ、あの二人、楽しそうだったね」
「楽しそう?」

 あの言い合いのどこが楽しそうに見えるのか、才には理解出来なかった。

「サイちゃん。オレさ、サイちゃんのピアノの発表会、聞きに行きたいな」
「え?」
「あ、もしかして、関係者以外立ち入り禁止?」
「いや。そんなことないけど」

 発表会は、普通の音楽ホールで行われる。入場無料で、誰が来ても構わないことになっている。が、才は今まで友人をそこに招いたことはない。

「いいんだったら、行きたい。きっとさ、あの二人も行きたいって言うな。オレ、そう思う」
「そうかな。スギちゃん、普段クラシック聞く?」
「聞かないな」

 即答だった。

「それだと、退屈するかもしれないけど」
「でもさ、何か聞いてみたいんだよな。ダメかな」

 創の言葉に、才は首を横に振り、

「わかった。いいよ。来てよ。三人で来るんだよ」
「やった。で、いつだって?」

 教室に戻ってから、メモ帳に日程と会場を書いて、創に渡した。

「ここさ、商店街を抜けた先にあるホールだよね。何だ。うちから近い。ラッキー」
「三人で来るんだよ。誰か来れないなら、来ちゃダメだから」
「えー?」

 創の驚きの声に、才はつい笑い出してしまった。それを見た創は、「なーんだ。嘘か」と言って、一緒になって笑い始めた。

「冗談だよ。本気にしてくれて、ありがとう。面白かった」

 才が微笑むと、創は「おー」と言った後、

「その顔だね。ミハラくんが、褒めてたの。うん。確かに、可愛い。サイちゃん、いつも笑ってなよ」
「やだね」
「何でだよ。何か、トラウマでもあるの?」
「は? トラウマ?」

 やはり創の言うことはよくわからない、と思う才だった。

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