洋館の記憶

ヤン

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第18話 写真

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 芽衣子めえこの言葉に動揺しながらも、私は立ち上がり、床に落ちた本を拾った。机に置こうとして、何か違和感を覚えた。が、それは口にしなかった。二人にそれを言ったら、「ほら」と言われるだろう。ここは、何も言わないに限る。

 その時、芽衣子が壁の時計に目をやった。そして、「あ」と言ってから、

「ごめん。もう、こんな時間だ。悠花ゆか。帰ろう」
「えー。もう帰るの?」
「もうじゃないだろう。六時過ぎたから、迷惑だって」

 迷惑ではないが、そろそろ帰ってもらわないといけない時間かもしれない。うちの夕食は、だいたい六時半と決まっている。私は二人のそばへ戻ると、

「じゃあ、門まで送るよ」

 悠花も、それ以上は言わず、カバンを持って立ち上がった。顔には、「残念」と書かれていた。

 階段を下りている途中で、祖母が階段下に立っているのに気が付いた。祖母は驚いたような顔をして、

「あら? 帰っちゃうの? 一緒にお夕飯どうかしらと思ったんだけど」
「おばあちゃん。それはダメだから。今日は帰ってもらう」
「そう? 残念ね。じゃあ、また遊びに来てくださいね。今度は、一緒に昼食でも」

 祖母に言われて、悠花がぱっと笑顔になった。そして、「ぜひ」と大きな声で言った。祖母は微笑み、玄関前に立った。

「気を付けて帰ってね」
「お邪魔しました」

 二人が声を合わせて挨拶した。玄関を出て、門まで行く道で芽衣子が言った。

「おばあさん、ちょっと寂しそうだね」
「そうかもしれない。なにしろ、娘が死んじゃってるんだから」
「また二人で来てもいいのかな」
「いいよ。また来てよ」

 私の言葉に悠花が、「やった」と笑顔で言い、

「また、絶対来る。外から見てもすごくいいけど、中もいい感じだったから。今度は、お庭も見せてほしいな」

 そう言えば、庭を見せるのを忘れていた。私は頷き、

「わかった。今度は庭も見せる」
「約束ね」

 門に辿り着いた。私は二人に手を振って、「じゃ、また明日」と言った。

 部屋に戻ると、さっきよっちゃんが落としたであろう本を手にした。文庫本。最近本屋で買ってきたものだ。でも、この本はそれではない。明らかに、古い。今朝までは新しい本で、今は古本。それが、私の違和感だった。恐る恐る手にして、パラパラとページをめくる。途中に、何か挟まれているが、しおりではない。

(集合写真?)

 担任の先生と思われる人の隣に座っているのは、よっちゃんと思われる人だった。本当に、私とよく似ていた。

(よっちゃん。これが、どうかした?)

 心の中で訊いてみるが、その日はそれ以上何も訴えてはこなかった。気になりながらも、もちろん家族の誰にもこのことは訊けない。

(あの写真が、どうしたって言うんだろう)

 心の中が、もやもやしていた。
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