43 / 56
未来編
第18話 朝
しおりを挟む
その日は、ベッドに横になっても、なかなか寝付けなかった。ライヴ中の、様々なシーン。そして、ツヨシさんの解散宣言。それらが、思い出されて、頭の中が興奮したままになっていた。
明け方になって、ようやく眠りに落ちたものの、二時間ほどで目覚めてしまった。冬休み中で良かった、と思った。
眠るのは諦めて、ベッドの中で伸びをした後、体を起こした。着替えてリビングに行ったが、お父さんはいなかった。いつもならこの時間には、もう起きているのに、と心配になって、すぐに思い出した。今日からお父さんも冬休みなのだ。
「そうか。もう、そんな日なんだ」
あと少しでお正月になってしまう。今年もいろんなことがあったな、と振り返っていると、「おはよう」と、声を掛けられた。
「あ、お父さん。おはようございます。もっと、ゆっくりするのかと思った」
お父さんは、あくびをした後、
「そのつもりだったんだけど、何だか目が覚めてね」
「朝ごはんの準備をするから、ちょっと待ってて」
「ありがとう」
急いで準備をして、二人で向かい合って食べた。お父さんは、時々私の方を見たが、何も言わなかった。私は、紅茶を一口飲んだ後、
「今日ね、午後、アリスに行ってきます」
光国に会うとは言わない。付き合っていることすら伝えていない。説明がしにくくて、何も言わずに今まで来た。いつかは、ちゃんと伝えなければ、とは思っている。
「あそこのケーキ、おいしいんだろう。その内、一緒に食べに行こう」
そう言えば、一度も一緒に食べたことがない。お父さんは、いつも忙しいから、そんなこと考えもしなかった。が、今はお父さんも冬休みだ。これは、チャンスかもしれない。
「わかったわ。じゃあ、今日、一緒に食べに行きましょう。断らないでね」
お父さんは、驚いたように目を見開いたが、「わかった」と言ってくれた。
「じゃあ、三時までに行きたいから、その頃行きましょう」
「誰かと待ち合わせだったんじゃないのか」
「えっと……そうなんだけど……。何も訊かないで、一緒に行って」
何故私はこんなにも、ムキになっているのだろう。が、今日を外してはいけない気がする。
私の、そんな気持ちが伝わったのだろうか。お父さんはもう一度、「わかった」と言った。
朝食を終えてすぐに、光国にメールを送った。お父さんと一緒に行くと伝えると、メールではなく、電話が掛かってきた。すぐに通話にして、
「はい」
「ミコ。お父さんに会え、ってことか?」
「はい」
「会って、ご挨拶しちゃっていいんだな」
「はい」
一瞬の間の後、光国が息を吐き出したのが聞こえた。
「わかりました。覚悟して、アリスに行くよ」
その声は、優しく私を包んでくれるみたいだった。私は、笑顔になり、
「光国。ミコは、光国が大好きです」
「そうか。オレも、ずーっとミコのこと、好きだ。じゃ、また後で」
通話が切れた。スマホを机に置くと、午後に着ていく服を選ぶ為に、クローゼットの扉を開けた。
明け方になって、ようやく眠りに落ちたものの、二時間ほどで目覚めてしまった。冬休み中で良かった、と思った。
眠るのは諦めて、ベッドの中で伸びをした後、体を起こした。着替えてリビングに行ったが、お父さんはいなかった。いつもならこの時間には、もう起きているのに、と心配になって、すぐに思い出した。今日からお父さんも冬休みなのだ。
「そうか。もう、そんな日なんだ」
あと少しでお正月になってしまう。今年もいろんなことがあったな、と振り返っていると、「おはよう」と、声を掛けられた。
「あ、お父さん。おはようございます。もっと、ゆっくりするのかと思った」
お父さんは、あくびをした後、
「そのつもりだったんだけど、何だか目が覚めてね」
「朝ごはんの準備をするから、ちょっと待ってて」
「ありがとう」
急いで準備をして、二人で向かい合って食べた。お父さんは、時々私の方を見たが、何も言わなかった。私は、紅茶を一口飲んだ後、
「今日ね、午後、アリスに行ってきます」
光国に会うとは言わない。付き合っていることすら伝えていない。説明がしにくくて、何も言わずに今まで来た。いつかは、ちゃんと伝えなければ、とは思っている。
「あそこのケーキ、おいしいんだろう。その内、一緒に食べに行こう」
そう言えば、一度も一緒に食べたことがない。お父さんは、いつも忙しいから、そんなこと考えもしなかった。が、今はお父さんも冬休みだ。これは、チャンスかもしれない。
「わかったわ。じゃあ、今日、一緒に食べに行きましょう。断らないでね」
お父さんは、驚いたように目を見開いたが、「わかった」と言ってくれた。
「じゃあ、三時までに行きたいから、その頃行きましょう」
「誰かと待ち合わせだったんじゃないのか」
「えっと……そうなんだけど……。何も訊かないで、一緒に行って」
何故私はこんなにも、ムキになっているのだろう。が、今日を外してはいけない気がする。
私の、そんな気持ちが伝わったのだろうか。お父さんはもう一度、「わかった」と言った。
朝食を終えてすぐに、光国にメールを送った。お父さんと一緒に行くと伝えると、メールではなく、電話が掛かってきた。すぐに通話にして、
「はい」
「ミコ。お父さんに会え、ってことか?」
「はい」
「会って、ご挨拶しちゃっていいんだな」
「はい」
一瞬の間の後、光国が息を吐き出したのが聞こえた。
「わかりました。覚悟して、アリスに行くよ」
その声は、優しく私を包んでくれるみたいだった。私は、笑顔になり、
「光国。ミコは、光国が大好きです」
「そうか。オレも、ずーっとミコのこと、好きだ。じゃ、また後で」
通話が切れた。スマホを机に置くと、午後に着ていく服を選ぶ為に、クローゼットの扉を開けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。



淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる