ずっと、一緒に

ヤン

文字の大きさ
上 下
28 / 37
第三章

第六話 自己嫌悪

しおりを挟む
和寿かずとし

 ワタルが呼び掛けると和寿は、布団に横たわったまま咳き込んだ後、ワタルを見た。驚いた表情になりながらも、ワタルの方へ手を伸ばしてきた。ワタルは彼の手を握ったが、握り返してきた彼の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思った。彼は、ワタルをじっと見た後、

「本当にワタルだ。オレの、都合のいい聞き間違いかと思った」

 和寿は、青白い顔でそう言った。のどの奥の方で、例のヒューヒューという音が、微かに聞こえてくる。ワタルは、それを耳にすると、よけいに自己嫌悪に陥り、和寿から目をそらして、言った。

「和寿、ごめんね。ここまで押しかけてきちゃって。でも、もう、むこうで待ってるのが無理になっちゃって。先生にも、行って来なさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのに、してこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ?」

 和寿は、首を振って微笑むと、

「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて」

 言って、また咳をした。そして、やはり、のどの奥をヒューヒュー言わせていた。本当に苦しそうだ。ワタルはそれを聞いていると、全くどこも悪くないにもかかわらず、自分も苦しいような気がしてきた。

 ワタルは、和寿の手を両手で包み込んだ。そして、和寿が、今こんなにも苦しんでいるのは、自分のせいなのだ、と思うと悔しくて、思わず唇を噛んだ。

「ねえ、和寿。僕は君にあやまらないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はこんなひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」

 泣きたい気分だった。和寿は、ワタルと視線を合わせると、

「おまえは悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だから、この有様なんだ。おまえが責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそ、ごめん。おまえにそんな顔されたら、オレはどうしていいかわからない」

 ワタルは、布団に横たわる和寿に少し体を近付けた。乱れた髪を、手ですいてやる。

「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」

 聞いてと言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろうと嫌になった。和寿は、そんなワタルの言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただワタルの瞳を見つめていた。

 どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。ワタルは、ようやく口を開く決心が出来た。

 和寿に触れている手が、震えていた。
しおりを挟む

処理中です...