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第三章
第六話 自己嫌悪
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「和寿」
ワタルが呼び掛けると和寿は、布団に横たわったまま咳き込んだ後、ワタルを見た。驚いた表情になりながらも、ワタルの方へ手を伸ばしてきた。ワタルは彼の手を握ったが、握り返してきた彼の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思った。彼は、ワタルをじっと見た後、
「本当にワタルだ。オレの、都合のいい聞き間違いかと思った」
和寿は、青白い顔でそう言った。のどの奥の方で、例のヒューヒューという音が、微かに聞こえてくる。ワタルは、それを耳にすると、よけいに自己嫌悪に陥り、和寿から目をそらして、言った。
「和寿、ごめんね。ここまで押しかけてきちゃって。でも、もう、むこうで待ってるのが無理になっちゃって。先生にも、行って来なさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのに、してこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ?」
和寿は、首を振って微笑むと、
「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて」
言って、また咳をした。そして、やはり、のどの奥をヒューヒュー言わせていた。本当に苦しそうだ。ワタルはそれを聞いていると、全くどこも悪くないにもかかわらず、自分も苦しいような気がしてきた。
ワタルは、和寿の手を両手で包み込んだ。そして、和寿が、今こんなにも苦しんでいるのは、自分のせいなのだ、と思うと悔しくて、思わず唇を噛んだ。
「ねえ、和寿。僕は君にあやまらないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はこんなひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」
泣きたい気分だった。和寿は、ワタルと視線を合わせると、
「おまえは悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だから、この有様なんだ。おまえが責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそ、ごめん。おまえにそんな顔されたら、オレはどうしていいかわからない」
ワタルは、布団に横たわる和寿に少し体を近付けた。乱れた髪を、手ですいてやる。
「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」
聞いてと言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろうと嫌になった。和寿は、そんなワタルの言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただワタルの瞳を見つめていた。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。ワタルは、ようやく口を開く決心が出来た。
和寿に触れている手が、震えていた。
ワタルが呼び掛けると和寿は、布団に横たわったまま咳き込んだ後、ワタルを見た。驚いた表情になりながらも、ワタルの方へ手を伸ばしてきた。ワタルは彼の手を握ったが、握り返してきた彼の力は弱かった。本当に病人なんだ、と思った。彼は、ワタルをじっと見た後、
「本当にワタルだ。オレの、都合のいい聞き間違いかと思った」
和寿は、青白い顔でそう言った。のどの奥の方で、例のヒューヒューという音が、微かに聞こえてくる。ワタルは、それを耳にすると、よけいに自己嫌悪に陥り、和寿から目をそらして、言った。
「和寿、ごめんね。ここまで押しかけてきちゃって。でも、もう、むこうで待ってるのが無理になっちゃって。先生にも、行って来なさいって言われるくらい動揺してて。だって、また連絡するって言ったのに、してこないなんて、何かあったとしか思えない。悪い方に、悪い方に考えて、止まらなくなっちゃって。来ないではいられなかった。馬鹿みたいだろ?」
和寿は、首を振って微笑むと、
「そんなことない。嬉しいよ。こんな遠くまで来てくれて」
言って、また咳をした。そして、やはり、のどの奥をヒューヒュー言わせていた。本当に苦しそうだ。ワタルはそれを聞いていると、全くどこも悪くないにもかかわらず、自分も苦しいような気がしてきた。
ワタルは、和寿の手を両手で包み込んだ。そして、和寿が、今こんなにも苦しんでいるのは、自分のせいなのだ、と思うと悔しくて、思わず唇を噛んだ。
「ねえ、和寿。僕は君にあやまらないといけないと思うんだ。この時期、ここは寒いって教えなかった。知ってたのに言っておかなかった。僕が悪くて、和寿はこんなひどい風邪を引いたんだろう。ごめん。僕が悪かったね」
泣きたい気分だった。和寿は、ワタルと視線を合わせると、
「おまえは悪くない。そんなに自分を責めないでくれよ。悪いのはオレだよ? オレの認識が完全に甘かった。だから、この有様なんだ。おまえが責任を感じる必要はないんだ。オレの方こそ、ごめん。おまえにそんな顔されたら、オレはどうしていいかわからない」
ワタルは、布団に横たわる和寿に少し体を近付けた。乱れた髪を、手ですいてやる。
「僕はもう、自分の感情をごまかせない。出来ると思ってたんだけど、ダメだった。僕の本当の気持ちを言うから、ちゃんと聞いてて」
聞いてと言いながら、言葉がなかなか出て来ない。ここまで来て、自分は何をしているんだろうと嫌になった。和寿は、そんなワタルの言葉を、いつまでも待っていてくれた。何も言わず、ただワタルの瞳を見つめていた。
どれくらいの時が過ぎたのだろうか。随分長い時間だったようにも、ほんの一瞬のようにも思えた。ワタルは、ようやく口を開く決心が出来た。
和寿に触れている手が、震えていた。
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