ずっと、一緒に

ヤン

文字の大きさ
上 下
23 / 37
第三章

第一話 Je te veux

しおりを挟む
 告白された日から数日が経った。和寿かずとしのことは時々校内で見かけたが、以前のようには声を掛けられなくなっていた。和寿も、ワタルに気が付くと驚いたような顔をして、すぐに目をそらした。ワタルはそうされる度に、自分は間違っていたのだろうか、と思う。しかし、あの時、他にどうすれば良かったのだろう。考えても答えは出ない。

 屈託なく笑い合っていた頃に戻りたい、と願った。

 一週間が過ぎても、相変わらず関係の修復を見ないままで、ワタルは寂しい気持ちに包まれていた。ふと、彼と知り合う前はどうやって生きていたんだろう、と考えてみたが、思い出せない。

 ぼんやりと考え事をしながら廊下を歩いていると、腕をつかまれた。みなみ由紀ゆきだった。彼女は、いつもの通り、ワタルに強い視線を向けながら、

「あんた達、最近どうしたの? 一緒にいるの、全然見ないけど」

 問われてワタルは首を振った。

「どうしたと言われても。別にどうもしてないです」

 が、ワタルのそんな言葉に、由紀は納得出来ないようだった。

「あんなにベタベタしてたのにさ。変よ」

 語気を強めて言った。ワタルは、少し俯いた後、顔を上げ、

「変、って言われても……。僕じゃなくて、彼の方に訊いてみたらいいんじゃないですか? 南さんが心配なのは和寿なんだから、直接訊いてみてください。僕は、何も言うことはありませんから」

 冷静な口調で伝えると、彼女はワタルから視線を外した。そして、抑え気味の声で言った。

「あの人ね、変なの。最近特に。いつも何か考え込んでる感じで、全然別の人みたい。あんたと何かあったんでしょう? いいから、さっさと仲直りしなさいよ。いつまでこの状態を続けるつもりなのよ」
「いや。それは訊かれても困ります。いつまでなんて、わからないです」

 率直な気持ちを伝えた。知りたいのはワタルも同じだ。いつまで続くのか教えてほしい。

「あんた達はさ、良いコンビなんだから解消しちゃダメでしょ。音楽に携わる者として、それは認める」

 ストレートに褒められた。

 その喜びが、そのまま顔に出てしまい、深刻な話をしていたにもかかわらず、ワタルは、笑顔で彼女を見てしまった。が、そうされて由紀は、不機嫌そうに顔をしかめた。

「私はね、和寿の為に言ってるの。だってさ、和寿がかわいそう。あんな顔した和寿、今まで見たことない。あんたのせいなんでしょ? 責任とって、何とかしてやってよ」
「いや、あの……」

 ワタルの返事は聞かずに、彼女はその場を去って行った。その背中を見送りながら、こんなに彼女と話をしたのは初めてかもしれない、と変に感動していた。

 由紀は、「責任とって、なんとかしてやってよ」と言うが、どうすれば責任が取れるのだろう。ワタルは、頭の中がますます混乱状態に陥ってしまった。

 こんな状態でも、アルバイトはしなければならない。ピアノを弾いていても、なんとなく集中出来ていない。これが試験だとしたら、たぶん落第点を取るだろう。曲の合間に、小さく溜息をついた。

 サティの『Jeジュ teトゥ veux』を弾いている時だった。ドアが開き、ゲストが入ってきた。何気なくその方を見て、思わず「あ」と言いそうになった。

(和寿……)

 彼から目が離せなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

絆の序曲

Guidepost
BL
これからもっと、君の音楽を聴かせて―― 片倉 灯(かたくら あかり)には夢があった。 それは音楽に携わる仕事に就くこと。 だが母子家庭であり小さな妹もいる。 だから夢は諦め安定した仕事につきたいと思っていた。 そんな灯の友人である永尾 柊(ながお ひいらぎ)とその兄である永尾 梓(ながお あずさ)の存在によって灯の人生は大きく変わることになる。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...