ずっと、一緒に

ヤン

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第二章

第二十話 どうすれば

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 学園祭から五か月。季節は春になった。新たな学年になり、これからますます精進していこう、と心が弾んでいたのに、どうしてこうなったのだろう。

「最近、ずっと考えてたんだけど」

「オレは、おまえのことが好きなのかもしれない」

 和寿かずとしに言われた言葉が、ワタルの頭の中でぐるぐるしている。

 いつもとは違う空気をまとっていた和寿。合わせでは、今までミスしたことがないような箇所で、何度もミスをした。それが、あれのせいなのか?

「オレは、おまえのことが好きなのかもしれない」

 彼の心の迷いが、あの音だったのか。

 彼を救うには、ワタルが彼を好きだと言えばいい。が、それは言ってはいけない。彼には彼女がいる。と、いうことは、彼が好きになるのは、女性のはずだ。

 何度も自分に言い聞かせる。が、気持ちは全く言うことを聞いてくれない。自分の本当の想いが、いつか溢れ出してしまう、と思う。が、それは、絶対だめだ。

 和寿は、いつか気が付く。勘違いだったと気が付く。その時、きっとこの告白を後悔するだろう。

 そう考えると、胸がズキリとした。勝手に考えて、勝手に傷ついている。

(どうすれば僕たちは救われるんだろう……)

 泣く気力さえなく、俯きながら校門を出た。これからファルファッラで仕事だというのに、やる気はどうやって起こせばいいのだろう。いっそ、仮病を使って休んでしまおうか。そんなことを思っても、すぐにもう一人の自分が、いな、と言う。ここで逃げたら、もう、ピアノを弾けなくなるかもしれない。

(だめだ。行こう)

 決心してファルファッラへ向かった。ドアを開けるといつものように、店長が笑顔で迎えてくれた。ワタルは、無理矢理に微笑み挨拶をすると、更衣室に向かった。着替えを済ませて鏡を見る。そこには、悲愴な顔をしたワタルが映っていた。大きな溜息をつかずにはいられなかった。
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