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第三章 別れ
第14話 壊れる……
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ツアーが始まって、国内のあちこちに出掛けて行った。未だにホテルの一室では、あまりよく眠れない。コンサートの後で、気持ちが昂っているせいもあるかもしれない。
今回は、翌日も同じ会場でやることになっている。もうすでに今日一度やっているので、明日に関しては少し気持ちに余裕があった。でも、やはりさっきまでのあの会場の盛り上がりを思い出すと寝付けず、寝返りばかり打っていた。
寝始めたのは明け方近く。もう少しこうしていたい、と思ったものの電話が鳴って起きなければならなくなった。
「はい」
「聖矢。支度、出来てるか?」
遠藤さんが言った。僕は、見えないと知りながら頭を左右に振った。
「すみません。今起きました。急いで支度します」
「聖矢……」
「本当に、すぐ。急ぎますから」
僕は何で泣いているんだろう。自分のことなのに、わからない。ただ、自分の意思とは関係なく、目からどんどん涙が流れ落ちてくるのだ。
無理矢理体を動かして、遠藤さんが来るまでに何とか支度を終えた。朝食を終えたらすぐに会場に入って、リハーサルをしなければならない。それから夜のコンサートが終わるまで、気が抜けない。毎回そんな感じだ。
そして、僕はコンサートでミスをした。何度も何度も確認したのに。昨日も同じ会場で同じようにやったはずなのに。どうしてこんなことが起きるのだろう。スタッフさんのフォローでどうにか収まったが、かなりショックを受けていた。でも、それは顔には出さない。僕は、『アイドル・星野聖矢』という生き物だから。
コンサートを終えてから、スタッフさんたちに謝った。みんな、僕に優しく声を掛けてくれるだけ。誰も僕を責めなかった。会場を後にしてホテルに戻ると、僕の部屋に遠藤さんも入ってきた。何の為にそうしたのか、わかっている。僕は、頭を下げて、「すみませんでした」と何度目かの謝罪の言葉を口にした。遠藤さんは息を吐き出すと、
「疲れてるんだよな。わかるよ。わかるんだけど。休ませてやりたいんだけど……」
そこまで言われた時、僕は朝と同じように号泣してしまった。泣くつもりもないのに、溢れ出してくるこの涙は何だろう。もう、本当に自分がわからない。遠藤さんが僕のその様子を見て、明らかに慌てた。
「聖矢?」
僕の傍らに立つと、僕の頭を撫で、「大丈夫だから。な? 大丈夫だから」と繰り返し言ってくれた。それが余計に僕を泣かせていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
泣き声で、半ば叫ぶように言い続ける僕。自分でもどうしていいのか、本当にわからない。でも、その時、何となく悟った。僕は、もうダメなんだ、と。
僕をベッドに横にすると、遠藤さんはどこかへ電話を掛けた。誰と何を話しているのかはわからない。もう、どうでもいい。そんな気分になっていた。ピンと張り詰めていた糸が、ぷっつり切られてしまったように、僕はもう倒れているしか出来なかった。
今回は、翌日も同じ会場でやることになっている。もうすでに今日一度やっているので、明日に関しては少し気持ちに余裕があった。でも、やはりさっきまでのあの会場の盛り上がりを思い出すと寝付けず、寝返りばかり打っていた。
寝始めたのは明け方近く。もう少しこうしていたい、と思ったものの電話が鳴って起きなければならなくなった。
「はい」
「聖矢。支度、出来てるか?」
遠藤さんが言った。僕は、見えないと知りながら頭を左右に振った。
「すみません。今起きました。急いで支度します」
「聖矢……」
「本当に、すぐ。急ぎますから」
僕は何で泣いているんだろう。自分のことなのに、わからない。ただ、自分の意思とは関係なく、目からどんどん涙が流れ落ちてくるのだ。
無理矢理体を動かして、遠藤さんが来るまでに何とか支度を終えた。朝食を終えたらすぐに会場に入って、リハーサルをしなければならない。それから夜のコンサートが終わるまで、気が抜けない。毎回そんな感じだ。
そして、僕はコンサートでミスをした。何度も何度も確認したのに。昨日も同じ会場で同じようにやったはずなのに。どうしてこんなことが起きるのだろう。スタッフさんのフォローでどうにか収まったが、かなりショックを受けていた。でも、それは顔には出さない。僕は、『アイドル・星野聖矢』という生き物だから。
コンサートを終えてから、スタッフさんたちに謝った。みんな、僕に優しく声を掛けてくれるだけ。誰も僕を責めなかった。会場を後にしてホテルに戻ると、僕の部屋に遠藤さんも入ってきた。何の為にそうしたのか、わかっている。僕は、頭を下げて、「すみませんでした」と何度目かの謝罪の言葉を口にした。遠藤さんは息を吐き出すと、
「疲れてるんだよな。わかるよ。わかるんだけど。休ませてやりたいんだけど……」
そこまで言われた時、僕は朝と同じように号泣してしまった。泣くつもりもないのに、溢れ出してくるこの涙は何だろう。もう、本当に自分がわからない。遠藤さんが僕のその様子を見て、明らかに慌てた。
「聖矢?」
僕の傍らに立つと、僕の頭を撫で、「大丈夫だから。な? 大丈夫だから」と繰り返し言ってくれた。それが余計に僕を泣かせていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
泣き声で、半ば叫ぶように言い続ける僕。自分でもどうしていいのか、本当にわからない。でも、その時、何となく悟った。僕は、もうダメなんだ、と。
僕をベッドに横にすると、遠藤さんはどこかへ電話を掛けた。誰と何を話しているのかはわからない。もう、どうでもいい。そんな気分になっていた。ピンと張り詰めていた糸が、ぷっつり切られてしまったように、僕はもう倒れているしか出来なかった。
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