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第三章 別れ
第11話 お墓参り
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「谷が亡くなってから、あの家に何度も行ったけど、会ってもらえなかった。インターフォンごしに、会いたくないって言われた。それでも訪ねて行った。でも、ダメで。電話もした。とにかく、お悔やみを言いたかったし、金銭的な話もしたかった。それから、お墓がどこにあるのか、それも知りたかった。教えてほしいと伝えたけど、来ないでくださいって言われてた」
僕が、声が出ないで困っている間に、会社としてはそんなことが起こっていたのだと知った。
「それが、一昨日の夜、電話を掛けて来てくれて。それに対して感謝の言葉とお悔やみを伝えてたら、お墓の場所を教えてくれた。『晃一がお二人に会いたがっていること、本当はわかっているんです。晃一は、お二人を本当に大好きでしたから。会いに行って頂けますか?』って、そう言ってくれた」
語尾が揺れた。その声を聞いていた僕も、涙がこぼれてきてしまった。
「明日休みだよな? 一緒に行かないか?」
「行きます。行きましょう」
僕は、静かに涙を流している大矢さんの頬に唇を寄せた。
「大矢さん。遠藤さんも一緒に行ってもらうのはどうでしょう?」
思いついて言ってみる。大矢さんは、「そうだな」と言って僕から離れると、バッグの中を探った。
スマホを取り出すと、画面をタップし始めた。そして、通話になったらしく、「大矢です」と話し出した。僕は、大矢さんに近付いて、会話を聞く。
「あ、お疲れ様です。えっと……」
いきなり社長から電話が来ればびっくりするのも当然だ。
「驚かせて悪かったな。明日さ、ちょっと付き合ってほしいんだけど、いいか?」
「え……あ、はい。当然、聖矢も一緒なんですよね? どちらに行かれますか? 車、出しますね」
大矢さんは、一瞬ためらうように視線を落としたが、すぐに顔を上げて、
「谷の墓参り」
「谷さんの……。そうですか。ちょうど、お彼岸ですもんね。聖矢の家に迎えに行けばいいですね? 時間はどうしますか?」
それから、お墓の場所の説明と時間の確認がなされて、通話が終わった。僕は大矢さんに抱きついて、「ありがとうございます」と言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、「やっと会えるな」と小さく言った。その言葉が、すごく重く感じられた。
遠藤さんの車で、谷さんのお墓のある霊園に行った。とても見晴らしのいい所だ。ここに来る途中で買った花を手にして、谷さんのお墓の前に三人で立った。柄杓で水をかけたり花を供えたり線香に火をつけたりした。そして、その場に屈んで手を合わせて目を閉じた。
そうしていると、様々な出来事が思い出された。コンビニで出会った時のこと。一緒に花火をしたこと。マネージャーになってくれてからは、いつも言ってくれていた「オレが聖矢を守るから」。正にその言葉の通り、谷さんは僕を最期まで守ってくれた。涙が浮かんだ。
ありがとう、谷さん。
僕にとって初めての、友人のような存在になってくれた人。どんなに年月が過ぎても、きっと忘れないと思う。
目を開けて横を見ると、大矢さんがまだ手を合わせていた。長い長い話をしているんだろうか。遠藤さんは、お墓をじっと見ていたが、急にお墓に向かって話し出した。
「谷さん。遠藤高士と言います。聖矢の新しいマネージャーです。まだ経験も浅いし、こんな奴に大事な聖矢は任せられない、と思うかもしれませんけれど、オレ、頑張ります。これから谷さんの代わりに、オレが聖矢を守ります」
真剣な顔つきでの宣言。僕は我慢出来ずに、声を上げて泣いた。
「谷さん、ごめんなさい……」
谷さんの笑顔が思い出されて、泣けてしょうがなかった。
僕が落ち着くのを待って、大矢さんが、「行こうか」と言った。僕と遠藤さんは頷き、大矢さんの後について歩き始めた。車まで来ると、僕は、
「また三人でここに来ましょうね」
谷さんのお墓がある方に目をやりながら二人に言った。大矢さんは、僕の肩を抱き寄せながら、
「そうだな。また来よう」
大矢さんの言葉に、遠藤さんは笑顔で、「お供します」と元気な声で約束してくれた。
またきっと来ますからね。
お墓の方に向かって心の中で話し掛けると、僕は微笑みを浮かべて車に乗り込んだ。
僕が、声が出ないで困っている間に、会社としてはそんなことが起こっていたのだと知った。
「それが、一昨日の夜、電話を掛けて来てくれて。それに対して感謝の言葉とお悔やみを伝えてたら、お墓の場所を教えてくれた。『晃一がお二人に会いたがっていること、本当はわかっているんです。晃一は、お二人を本当に大好きでしたから。会いに行って頂けますか?』って、そう言ってくれた」
語尾が揺れた。その声を聞いていた僕も、涙がこぼれてきてしまった。
「明日休みだよな? 一緒に行かないか?」
「行きます。行きましょう」
僕は、静かに涙を流している大矢さんの頬に唇を寄せた。
「大矢さん。遠藤さんも一緒に行ってもらうのはどうでしょう?」
思いついて言ってみる。大矢さんは、「そうだな」と言って僕から離れると、バッグの中を探った。
スマホを取り出すと、画面をタップし始めた。そして、通話になったらしく、「大矢です」と話し出した。僕は、大矢さんに近付いて、会話を聞く。
「あ、お疲れ様です。えっと……」
いきなり社長から電話が来ればびっくりするのも当然だ。
「驚かせて悪かったな。明日さ、ちょっと付き合ってほしいんだけど、いいか?」
「え……あ、はい。当然、聖矢も一緒なんですよね? どちらに行かれますか? 車、出しますね」
大矢さんは、一瞬ためらうように視線を落としたが、すぐに顔を上げて、
「谷の墓参り」
「谷さんの……。そうですか。ちょうど、お彼岸ですもんね。聖矢の家に迎えに行けばいいですね? 時間はどうしますか?」
それから、お墓の場所の説明と時間の確認がなされて、通話が終わった。僕は大矢さんに抱きついて、「ありがとうございます」と言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、「やっと会えるな」と小さく言った。その言葉が、すごく重く感じられた。
遠藤さんの車で、谷さんのお墓のある霊園に行った。とても見晴らしのいい所だ。ここに来る途中で買った花を手にして、谷さんのお墓の前に三人で立った。柄杓で水をかけたり花を供えたり線香に火をつけたりした。そして、その場に屈んで手を合わせて目を閉じた。
そうしていると、様々な出来事が思い出された。コンビニで出会った時のこと。一緒に花火をしたこと。マネージャーになってくれてからは、いつも言ってくれていた「オレが聖矢を守るから」。正にその言葉の通り、谷さんは僕を最期まで守ってくれた。涙が浮かんだ。
ありがとう、谷さん。
僕にとって初めての、友人のような存在になってくれた人。どんなに年月が過ぎても、きっと忘れないと思う。
目を開けて横を見ると、大矢さんがまだ手を合わせていた。長い長い話をしているんだろうか。遠藤さんは、お墓をじっと見ていたが、急にお墓に向かって話し出した。
「谷さん。遠藤高士と言います。聖矢の新しいマネージャーです。まだ経験も浅いし、こんな奴に大事な聖矢は任せられない、と思うかもしれませんけれど、オレ、頑張ります。これから谷さんの代わりに、オレが聖矢を守ります」
真剣な顔つきでの宣言。僕は我慢出来ずに、声を上げて泣いた。
「谷さん、ごめんなさい……」
谷さんの笑顔が思い出されて、泣けてしょうがなかった。
僕が落ち着くのを待って、大矢さんが、「行こうか」と言った。僕と遠藤さんは頷き、大矢さんの後について歩き始めた。車まで来ると、僕は、
「また三人でここに来ましょうね」
谷さんのお墓がある方に目をやりながら二人に言った。大矢さんは、僕の肩を抱き寄せながら、
「そうだな。また来よう」
大矢さんの言葉に、遠藤さんは笑顔で、「お供します」と元気な声で約束してくれた。
またきっと来ますからね。
お墓の方に向かって心の中で話し掛けると、僕は微笑みを浮かべて車に乗り込んだ。
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