44 / 80
第三章 別れ
第4話 搬送
しおりを挟む
谷さんの体が、僕にもたれかかってきたのを感じた。支えきれずに、二人でゆっくりと地面に座り込む。谷さんは、ますます苦しそうな様子になっている。その姿を見ながら、どうすればいいのか考えた。
「えっと……そうだ。電話。救急車」
電話をどこに置いたか考えようとするのに、思い出せない。
「落ち着け。落ち着け」
自分に言い聞かせて、ようやくわかった。僕は、自分のコートのポケットを探った。慌てていて、すぐに取り出せなかったが、ようやくポケットから出して電源を入れると、今度は番号がわからなくなった。自分が嫌になって来る。
少しして思い出した僕は、すぐにその番号を押した。ここに掛けるのは初めてだ。消防か救急か訊かれたり、どんな状況なのかどこなのか、立て続けに質問され、どうにか答えたものの、ちゃんと伝えられたのか自信がない。とにかく救急車の要請は出来た。
「次。次は……」
そうやっている間も、谷さんは苦しそうな呼吸を繰り返している。心乱されながらも、次にすべきことを思いついた。大矢さんと谷さんのお母さんに連絡しなければいけない。
僕は震える指先で、画面をタップして大矢さんに電話を掛けた。すぐに大矢さんが出てくれて、
「聖矢。どうした?」
何かを感じたのか、いつもよりも早口になっていた。僕は、大矢さんの声を聞くと、安心したのか何なのか、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。泣き声のまま、
「大矢さん。助けて……」
「今、どこだ? 聖矢。ちゃんと言いなさい」
「……家の前。谷さんが……刺されちゃった……」
「すぐ行くから」
そう言うなり、大矢さんは通話を切った。僕は、泣きながら谷さんのお母さんにも連絡した。何を言われているのかわからない様子のお母さんに、後でもう一度連絡します、と言って通話を切った。もう、何だかわからない。
二人への電話が終わった頃、救急車のサイレンが近付いてきた。
「谷さん。谷さん」
「聖矢……」
「谷さん。救急車、来るから。頑張って」
泣きながら、必死に伝える。谷さんが手を伸ばしてきて、僕の頬を撫でた。そして、無理矢理微笑んで見せると、
「聖矢は、やっぱり、可愛いな」
「こんな時に何言ってるんですか?」
力なく笑う谷さん。何もしてあげられない僕。サイレンが僕たちのすぐそばで止まって、救急隊の人たちが谷さんを救急車に乗せた。受け入れ先を決めてくれている隊員。僕に状況を確認する隊員。谷さんに酸素マスクや何かわからない物を体に着ける隊員。
その時タクシーが止まり、大矢さんが慌てた様子で出て来た。
「聖矢」
「大矢さん……」
泣きながら言う僕のそばに走って来ると、強く抱き締めて来た。そうしながら、「大丈夫だ」と何度も言っては背中をさすってくれていた。
受け入れ先が決まると、僕は救急車に同乗するように言われ、乗り込んだ。大矢さんは、待たせていたタクシーでそのままその病院に向かうことになった。
以前、大矢さんの家の近くで倒れた時にも救急車に乗ったはずだが、覚えていないので、初めて乗ったような感じだ。急いでいるせいもあるのか、ガタガタしてちょっと車酔いしそうだった。
酸素マスクを付けられた谷さんが、何か言っている。荒い呼吸の合間に僕を呼んだ。僕は谷さんに、「何?」と訊いて耳をそばに寄せた。谷さんは掠れ声で、
「聖矢。生きろ」
この状況でその言葉を言われている僕。生きろと言いたいのは、僕の方だった。生きてほしい。強くそう願っていた。
「谷さん……」
涙が流れてしょうがない。僕のせいで、とんでもないことになってしまった、という気持ちでいっぱいだった。
「えっと……そうだ。電話。救急車」
電話をどこに置いたか考えようとするのに、思い出せない。
「落ち着け。落ち着け」
自分に言い聞かせて、ようやくわかった。僕は、自分のコートのポケットを探った。慌てていて、すぐに取り出せなかったが、ようやくポケットから出して電源を入れると、今度は番号がわからなくなった。自分が嫌になって来る。
少しして思い出した僕は、すぐにその番号を押した。ここに掛けるのは初めてだ。消防か救急か訊かれたり、どんな状況なのかどこなのか、立て続けに質問され、どうにか答えたものの、ちゃんと伝えられたのか自信がない。とにかく救急車の要請は出来た。
「次。次は……」
そうやっている間も、谷さんは苦しそうな呼吸を繰り返している。心乱されながらも、次にすべきことを思いついた。大矢さんと谷さんのお母さんに連絡しなければいけない。
僕は震える指先で、画面をタップして大矢さんに電話を掛けた。すぐに大矢さんが出てくれて、
「聖矢。どうした?」
何かを感じたのか、いつもよりも早口になっていた。僕は、大矢さんの声を聞くと、安心したのか何なのか、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。泣き声のまま、
「大矢さん。助けて……」
「今、どこだ? 聖矢。ちゃんと言いなさい」
「……家の前。谷さんが……刺されちゃった……」
「すぐ行くから」
そう言うなり、大矢さんは通話を切った。僕は、泣きながら谷さんのお母さんにも連絡した。何を言われているのかわからない様子のお母さんに、後でもう一度連絡します、と言って通話を切った。もう、何だかわからない。
二人への電話が終わった頃、救急車のサイレンが近付いてきた。
「谷さん。谷さん」
「聖矢……」
「谷さん。救急車、来るから。頑張って」
泣きながら、必死に伝える。谷さんが手を伸ばしてきて、僕の頬を撫でた。そして、無理矢理微笑んで見せると、
「聖矢は、やっぱり、可愛いな」
「こんな時に何言ってるんですか?」
力なく笑う谷さん。何もしてあげられない僕。サイレンが僕たちのすぐそばで止まって、救急隊の人たちが谷さんを救急車に乗せた。受け入れ先を決めてくれている隊員。僕に状況を確認する隊員。谷さんに酸素マスクや何かわからない物を体に着ける隊員。
その時タクシーが止まり、大矢さんが慌てた様子で出て来た。
「聖矢」
「大矢さん……」
泣きながら言う僕のそばに走って来ると、強く抱き締めて来た。そうしながら、「大丈夫だ」と何度も言っては背中をさすってくれていた。
受け入れ先が決まると、僕は救急車に同乗するように言われ、乗り込んだ。大矢さんは、待たせていたタクシーでそのままその病院に向かうことになった。
以前、大矢さんの家の近くで倒れた時にも救急車に乗ったはずだが、覚えていないので、初めて乗ったような感じだ。急いでいるせいもあるのか、ガタガタしてちょっと車酔いしそうだった。
酸素マスクを付けられた谷さんが、何か言っている。荒い呼吸の合間に僕を呼んだ。僕は谷さんに、「何?」と訊いて耳をそばに寄せた。谷さんは掠れ声で、
「聖矢。生きろ」
この状況でその言葉を言われている僕。生きろと言いたいのは、僕の方だった。生きてほしい。強くそう願っていた。
「谷さん……」
涙が流れてしょうがない。僕のせいで、とんでもないことになってしまった、という気持ちでいっぱいだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる