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第三章 別れ
第4話 搬送
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谷さんの体が、僕にもたれかかってきたのを感じた。支えきれずに、二人でゆっくりと地面に座り込む。谷さんは、ますます苦しそうな様子になっている。その姿を見ながら、どうすればいいのか考えた。
「えっと……そうだ。電話。救急車」
電話をどこに置いたか考えようとするのに、思い出せない。
「落ち着け。落ち着け」
自分に言い聞かせて、ようやくわかった。僕は、自分のコートのポケットを探った。慌てていて、すぐに取り出せなかったが、ようやくポケットから出して電源を入れると、今度は番号がわからなくなった。自分が嫌になって来る。
少しして思い出した僕は、すぐにその番号を押した。ここに掛けるのは初めてだ。消防か救急か訊かれたり、どんな状況なのかどこなのか、立て続けに質問され、どうにか答えたものの、ちゃんと伝えられたのか自信がない。とにかく救急車の要請は出来た。
「次。次は……」
そうやっている間も、谷さんは苦しそうな呼吸を繰り返している。心乱されながらも、次にすべきことを思いついた。大矢さんと谷さんのお母さんに連絡しなければいけない。
僕は震える指先で、画面をタップして大矢さんに電話を掛けた。すぐに大矢さんが出てくれて、
「聖矢。どうした?」
何かを感じたのか、いつもよりも早口になっていた。僕は、大矢さんの声を聞くと、安心したのか何なのか、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。泣き声のまま、
「大矢さん。助けて……」
「今、どこだ? 聖矢。ちゃんと言いなさい」
「……家の前。谷さんが……刺されちゃった……」
「すぐ行くから」
そう言うなり、大矢さんは通話を切った。僕は、泣きながら谷さんのお母さんにも連絡した。何を言われているのかわからない様子のお母さんに、後でもう一度連絡します、と言って通話を切った。もう、何だかわからない。
二人への電話が終わった頃、救急車のサイレンが近付いてきた。
「谷さん。谷さん」
「聖矢……」
「谷さん。救急車、来るから。頑張って」
泣きながら、必死に伝える。谷さんが手を伸ばしてきて、僕の頬を撫でた。そして、無理矢理微笑んで見せると、
「聖矢は、やっぱり、可愛いな」
「こんな時に何言ってるんですか?」
力なく笑う谷さん。何もしてあげられない僕。サイレンが僕たちのすぐそばで止まって、救急隊の人たちが谷さんを救急車に乗せた。受け入れ先を決めてくれている隊員。僕に状況を確認する隊員。谷さんに酸素マスクや何かわからない物を体に着ける隊員。
その時タクシーが止まり、大矢さんが慌てた様子で出て来た。
「聖矢」
「大矢さん……」
泣きながら言う僕のそばに走って来ると、強く抱き締めて来た。そうしながら、「大丈夫だ」と何度も言っては背中をさすってくれていた。
受け入れ先が決まると、僕は救急車に同乗するように言われ、乗り込んだ。大矢さんは、待たせていたタクシーでそのままその病院に向かうことになった。
以前、大矢さんの家の近くで倒れた時にも救急車に乗ったはずだが、覚えていないので、初めて乗ったような感じだ。急いでいるせいもあるのか、ガタガタしてちょっと車酔いしそうだった。
酸素マスクを付けられた谷さんが、何か言っている。荒い呼吸の合間に僕を呼んだ。僕は谷さんに、「何?」と訊いて耳をそばに寄せた。谷さんは掠れ声で、
「聖矢。生きろ」
この状況でその言葉を言われている僕。生きろと言いたいのは、僕の方だった。生きてほしい。強くそう願っていた。
「谷さん……」
涙が流れてしょうがない。僕のせいで、とんでもないことになってしまった、という気持ちでいっぱいだった。
「えっと……そうだ。電話。救急車」
電話をどこに置いたか考えようとするのに、思い出せない。
「落ち着け。落ち着け」
自分に言い聞かせて、ようやくわかった。僕は、自分のコートのポケットを探った。慌てていて、すぐに取り出せなかったが、ようやくポケットから出して電源を入れると、今度は番号がわからなくなった。自分が嫌になって来る。
少しして思い出した僕は、すぐにその番号を押した。ここに掛けるのは初めてだ。消防か救急か訊かれたり、どんな状況なのかどこなのか、立て続けに質問され、どうにか答えたものの、ちゃんと伝えられたのか自信がない。とにかく救急車の要請は出来た。
「次。次は……」
そうやっている間も、谷さんは苦しそうな呼吸を繰り返している。心乱されながらも、次にすべきことを思いついた。大矢さんと谷さんのお母さんに連絡しなければいけない。
僕は震える指先で、画面をタップして大矢さんに電話を掛けた。すぐに大矢さんが出てくれて、
「聖矢。どうした?」
何かを感じたのか、いつもよりも早口になっていた。僕は、大矢さんの声を聞くと、安心したのか何なのか、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。泣き声のまま、
「大矢さん。助けて……」
「今、どこだ? 聖矢。ちゃんと言いなさい」
「……家の前。谷さんが……刺されちゃった……」
「すぐ行くから」
そう言うなり、大矢さんは通話を切った。僕は、泣きながら谷さんのお母さんにも連絡した。何を言われているのかわからない様子のお母さんに、後でもう一度連絡します、と言って通話を切った。もう、何だかわからない。
二人への電話が終わった頃、救急車のサイレンが近付いてきた。
「谷さん。谷さん」
「聖矢……」
「谷さん。救急車、来るから。頑張って」
泣きながら、必死に伝える。谷さんが手を伸ばしてきて、僕の頬を撫でた。そして、無理矢理微笑んで見せると、
「聖矢は、やっぱり、可愛いな」
「こんな時に何言ってるんですか?」
力なく笑う谷さん。何もしてあげられない僕。サイレンが僕たちのすぐそばで止まって、救急隊の人たちが谷さんを救急車に乗せた。受け入れ先を決めてくれている隊員。僕に状況を確認する隊員。谷さんに酸素マスクや何かわからない物を体に着ける隊員。
その時タクシーが止まり、大矢さんが慌てた様子で出て来た。
「聖矢」
「大矢さん……」
泣きながら言う僕のそばに走って来ると、強く抱き締めて来た。そうしながら、「大丈夫だ」と何度も言っては背中をさすってくれていた。
受け入れ先が決まると、僕は救急車に同乗するように言われ、乗り込んだ。大矢さんは、待たせていたタクシーでそのままその病院に向かうことになった。
以前、大矢さんの家の近くで倒れた時にも救急車に乗ったはずだが、覚えていないので、初めて乗ったような感じだ。急いでいるせいもあるのか、ガタガタしてちょっと車酔いしそうだった。
酸素マスクを付けられた谷さんが、何か言っている。荒い呼吸の合間に僕を呼んだ。僕は谷さんに、「何?」と訊いて耳をそばに寄せた。谷さんは掠れ声で、
「聖矢。生きろ」
この状況でその言葉を言われている僕。生きろと言いたいのは、僕の方だった。生きてほしい。強くそう願っていた。
「谷さん……」
涙が流れてしょうがない。僕のせいで、とんでもないことになってしまった、という気持ちでいっぱいだった。
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