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第三章 別れ
第2話 盗聴器
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その日の内に盗聴器の調査をしてもらい、ベッドのそばのコンセントから発見された。調査員さんは、「最近、増えてるんですよ」と言っていた。代金を支払い、お礼を言った。調査員さんが帰ってから、僕は大きな溜息を吐いた。大矢さんが隣に来て、僕の肩を抱き寄せた。
「とりあえず、これで安心だ。でも、いつのまに? 聖矢。この部屋に、誰か入れたか?」
静かに怒っている。僕に対してではなく、『A』さんとその人の協力者に、だと思う。僕は、少し考えて思い出した。
「入れました。隣の隣の……」
僕が名前を言う前に、大矢さんが、「あいつか」と強い口調で言った。
「何しに来たんだ?」
「えっと……『部屋の模様替えしようと思って。ちょっと、見せてよ』って、そういう用事でした」
大矢さんが僕の頭を軽く撫でた。そして、小さな声で、「おまえは悪くない」と言ってくれる。
「オレが、我慢しなかったからいけなかったんだ」
「違います。僕は……僕だって、そうされたかったんですから」
二人で見つめ合いながらそんなことを言い合っていると、咳払いされた。谷さんがいるのを忘れていた。谷さんは、「あーあ」と呆れたような調子で言った後、表情を改め、
「一応、解決だね。それにしても、あの『A』さんって誰なんだろう? 怖い奴だな。それと、ここの隣の隣のあいつと『A』さんとの関係が気になるな」
谷さんが言った。僕も、それが気になっていた。谷さんは、真面目な顔のまま、
「とにかく、これからも気を付けないとだな」
「はい」
僕が返事すると、谷さんは「じゃ、また明日」と言って玄関に向かった。大矢さんも僕の頬に口づけてから、「じゃあな。愛してるよ」と言って歩き出した。僕は、その背中に抱きついた。涙がこぼれてきた。
「怖かった……です」
「そうだよな」
「怖くて……」
大矢さんは僕の方に向き直り、ぎゅっと抱き締めてきた。僕も、大矢さんにしっかりと抱きつき、ぼろぼろ涙を流した。
「アイドル、やめるか?」
低く訊かれて、一瞬迷った後、「やめません」と答えた。大矢さんが、「そうか」と言って、僕の背中をさすってくれる。あやされているみたいで、心地いい。
「大矢さん。愛してますからね」
「ああ。知ってるよ」
「愛してます」
玄関のドアが閉まる音がした後、大矢さんは僕に何度も口づけた。
『A』さんからの手紙が来なくなって、僕たちはあの悪夢を忘れかけていた。その日、仕事が終わってから、谷さんに車でマンション前まで送ってもらった。
車を降りると、谷さんが僕に寄り添った。僕を守ろうとしてくれているのが感じられた。二人並んで歩いていると、誰かがこちらに近付いてくる足音がして、僕は何気なくその方を見た。
長身でがっちりしている。黒っぽい服を着て、帽子も目深に被っているから、顔はわからない。
まさか……。
何故だか、嫌な感じがして、背筋が寒くなった。谷さんを見ると、やはり何かを感じたのだろう。警戒の色が現れていた。
その人は、急ぎ足で僕たちのそばまで来た。僕たちがそこから離れようとすると、「逃げるなよ、おい」と、忘れようにも忘れられない声で凄んできた。
その人は、僕の肩を乱暴に掴むと、楽しくて仕方ない、とばかりに豪快に笑い、
「久し振りだな、真ちゃん」
僕は、全身が凍り付いたように、身動き出来なくなってしまった。
「とりあえず、これで安心だ。でも、いつのまに? 聖矢。この部屋に、誰か入れたか?」
静かに怒っている。僕に対してではなく、『A』さんとその人の協力者に、だと思う。僕は、少し考えて思い出した。
「入れました。隣の隣の……」
僕が名前を言う前に、大矢さんが、「あいつか」と強い口調で言った。
「何しに来たんだ?」
「えっと……『部屋の模様替えしようと思って。ちょっと、見せてよ』って、そういう用事でした」
大矢さんが僕の頭を軽く撫でた。そして、小さな声で、「おまえは悪くない」と言ってくれる。
「オレが、我慢しなかったからいけなかったんだ」
「違います。僕は……僕だって、そうされたかったんですから」
二人で見つめ合いながらそんなことを言い合っていると、咳払いされた。谷さんがいるのを忘れていた。谷さんは、「あーあ」と呆れたような調子で言った後、表情を改め、
「一応、解決だね。それにしても、あの『A』さんって誰なんだろう? 怖い奴だな。それと、ここの隣の隣のあいつと『A』さんとの関係が気になるな」
谷さんが言った。僕も、それが気になっていた。谷さんは、真面目な顔のまま、
「とにかく、これからも気を付けないとだな」
「はい」
僕が返事すると、谷さんは「じゃ、また明日」と言って玄関に向かった。大矢さんも僕の頬に口づけてから、「じゃあな。愛してるよ」と言って歩き出した。僕は、その背中に抱きついた。涙がこぼれてきた。
「怖かった……です」
「そうだよな」
「怖くて……」
大矢さんは僕の方に向き直り、ぎゅっと抱き締めてきた。僕も、大矢さんにしっかりと抱きつき、ぼろぼろ涙を流した。
「アイドル、やめるか?」
低く訊かれて、一瞬迷った後、「やめません」と答えた。大矢さんが、「そうか」と言って、僕の背中をさすってくれる。あやされているみたいで、心地いい。
「大矢さん。愛してますからね」
「ああ。知ってるよ」
「愛してます」
玄関のドアが閉まる音がした後、大矢さんは僕に何度も口づけた。
『A』さんからの手紙が来なくなって、僕たちはあの悪夢を忘れかけていた。その日、仕事が終わってから、谷さんに車でマンション前まで送ってもらった。
車を降りると、谷さんが僕に寄り添った。僕を守ろうとしてくれているのが感じられた。二人並んで歩いていると、誰かがこちらに近付いてくる足音がして、僕は何気なくその方を見た。
長身でがっちりしている。黒っぽい服を着て、帽子も目深に被っているから、顔はわからない。
まさか……。
何故だか、嫌な感じがして、背筋が寒くなった。谷さんを見ると、やはり何かを感じたのだろう。警戒の色が現れていた。
その人は、急ぎ足で僕たちのそばまで来た。僕たちがそこから離れようとすると、「逃げるなよ、おい」と、忘れようにも忘れられない声で凄んできた。
その人は、僕の肩を乱暴に掴むと、楽しくて仕方ない、とばかりに豪快に笑い、
「久し振りだな、真ちゃん」
僕は、全身が凍り付いたように、身動き出来なくなってしまった。
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