38 / 80
第二章 新たな道
第18話 誰?
しおりを挟む
コンビニに入って行くと、「いらっしゃいませ」と谷さんの元気な声がレジの方から聞こえた。僕は大矢さんに頷くと、谷さんに向かって歩き始めた。谷さんは、僕の前まで小走りで来ると、僕の手を両手で握った。
「聖矢くん。良かった。無事だったんだね」
興奮気味に言うと、僕の顔を覗き込んできた。僕は頷き、
「はい。おかげさまで。谷さんが助けてくれたと聞いたので、お礼を言いに来ました。谷さん、本当にありがとうございました」
僕がそう言うと、谷さんが首を振った。
「違うんだ。大矢さんに聞いただろう? オレは騒ぎに気が付いて、野次馬的に人だかりの中に行って君を見つけただけ。助けてくれたのは、君の左斜め後ろにいた男性だよ」
「そうなんですか」
「そう。あ、でもごめん。後でご飯食べながら話させてよ。大矢さん。どうかな」
谷さんが大矢さんに訊くと、大矢さんは、
「ん? おまえ、お母さんが待ってるんじゃないのか?」
「それが、母さん珍しく友達と食事するって。あんたは勝手に食べてって」
大矢さんが笑った。僕もつられて笑った。
「だから、一緒に夕飯食べましょうよ」
僕は大矢さんを少し見上げながら、「いいですよね?」と言った。大矢さんは、「ああ」と言って、
「じゃあ、谷。一度家に帰ってから、また来るよ」
「あと十五分で上がりですから、それまでに戻って来てくださいよ」
僕たちは、谷さんに手を振って店を出た。
リビングのソファに腰を下ろすと、僕は大きく息を吐き出した。
いったい僕は、どうして倒れてしまったのだろう。何をしようとして家を出て、信号待ちをしていたのだろう。わからない。谷さんが何か知っているだろうか。
「聖矢。大丈夫か?」
大矢さんが、僕の横に座り肩を抱き寄せながら言った。
「何だか、不安で。覚えてないなんて、僕、どうしたら……」
「谷に訊いたら、何かわかるかもしれない」
大矢さんも同じ見解だった。僕は、もう一度息を吐き出し、
「わかりました。訊いてみます」
「ま、それはともかく、おまえが無事で本当に良かった」
僕を見つめる大矢さんの顔が近付いてきて、唇が重なった。僕が大矢さんの背中に腕を回すと、大矢さんも僕をギュッと抱き締めてくれる。生きていて良かった、と思った。
約束の時間を五分過ぎてしまった。谷さんはすでに店の前に立っていて、僕たちに気が付くと、「遅刻」と大きな声で言って笑った。大矢さんが、「悪かったな」と言うと、「別にいいですよ。じゃ、行きましょう」と明るく言って歩き出した。谷さんに先導されて辿り着いたのは、前に来たことのあるファミレスだった。
注文を済ませてホッと息を吐くと、谷さんが僕を見つめ、
「でもさ、本当に無事で良かったよ。あの時さ、顔が真っ青だったから。助けてくれた人によると、君の右斜め後ろに立ってた、君と同じような年齢の男子が君の肩を叩いた。それで、君は振り向いたけど、その途端に何か呟いて倒れた、と。彼が君の頭をかばってくれたから、頭打ってないよ。痛いとこ、ないだろう?」
「はい。確かに」
谷さんはお冷のグラスを手にして一口飲むと、
「それにしても、その人って誰だったの? 君の肩を叩いた人」
「さあ……誰でしょう? 実は、その時のことが全く思い出せないんです」
「え? 本当に?」
「僕は、誰に会ったんだろう」
呟くように言った。
「聖矢くん。良かった。無事だったんだね」
興奮気味に言うと、僕の顔を覗き込んできた。僕は頷き、
「はい。おかげさまで。谷さんが助けてくれたと聞いたので、お礼を言いに来ました。谷さん、本当にありがとうございました」
僕がそう言うと、谷さんが首を振った。
「違うんだ。大矢さんに聞いただろう? オレは騒ぎに気が付いて、野次馬的に人だかりの中に行って君を見つけただけ。助けてくれたのは、君の左斜め後ろにいた男性だよ」
「そうなんですか」
「そう。あ、でもごめん。後でご飯食べながら話させてよ。大矢さん。どうかな」
谷さんが大矢さんに訊くと、大矢さんは、
「ん? おまえ、お母さんが待ってるんじゃないのか?」
「それが、母さん珍しく友達と食事するって。あんたは勝手に食べてって」
大矢さんが笑った。僕もつられて笑った。
「だから、一緒に夕飯食べましょうよ」
僕は大矢さんを少し見上げながら、「いいですよね?」と言った。大矢さんは、「ああ」と言って、
「じゃあ、谷。一度家に帰ってから、また来るよ」
「あと十五分で上がりですから、それまでに戻って来てくださいよ」
僕たちは、谷さんに手を振って店を出た。
リビングのソファに腰を下ろすと、僕は大きく息を吐き出した。
いったい僕は、どうして倒れてしまったのだろう。何をしようとして家を出て、信号待ちをしていたのだろう。わからない。谷さんが何か知っているだろうか。
「聖矢。大丈夫か?」
大矢さんが、僕の横に座り肩を抱き寄せながら言った。
「何だか、不安で。覚えてないなんて、僕、どうしたら……」
「谷に訊いたら、何かわかるかもしれない」
大矢さんも同じ見解だった。僕は、もう一度息を吐き出し、
「わかりました。訊いてみます」
「ま、それはともかく、おまえが無事で本当に良かった」
僕を見つめる大矢さんの顔が近付いてきて、唇が重なった。僕が大矢さんの背中に腕を回すと、大矢さんも僕をギュッと抱き締めてくれる。生きていて良かった、と思った。
約束の時間を五分過ぎてしまった。谷さんはすでに店の前に立っていて、僕たちに気が付くと、「遅刻」と大きな声で言って笑った。大矢さんが、「悪かったな」と言うと、「別にいいですよ。じゃ、行きましょう」と明るく言って歩き出した。谷さんに先導されて辿り着いたのは、前に来たことのあるファミレスだった。
注文を済ませてホッと息を吐くと、谷さんが僕を見つめ、
「でもさ、本当に無事で良かったよ。あの時さ、顔が真っ青だったから。助けてくれた人によると、君の右斜め後ろに立ってた、君と同じような年齢の男子が君の肩を叩いた。それで、君は振り向いたけど、その途端に何か呟いて倒れた、と。彼が君の頭をかばってくれたから、頭打ってないよ。痛いとこ、ないだろう?」
「はい。確かに」
谷さんはお冷のグラスを手にして一口飲むと、
「それにしても、その人って誰だったの? 君の肩を叩いた人」
「さあ……誰でしょう? 実は、その時のことが全く思い出せないんです」
「え? 本当に?」
「僕は、誰に会ったんだろう」
呟くように言った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる