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第二章 新たな道
第18話 誰?
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コンビニに入って行くと、「いらっしゃいませ」と谷さんの元気な声がレジの方から聞こえた。僕は大矢さんに頷くと、谷さんに向かって歩き始めた。谷さんは、僕の前まで小走りで来ると、僕の手を両手で握った。
「聖矢くん。良かった。無事だったんだね」
興奮気味に言うと、僕の顔を覗き込んできた。僕は頷き、
「はい。おかげさまで。谷さんが助けてくれたと聞いたので、お礼を言いに来ました。谷さん、本当にありがとうございました」
僕がそう言うと、谷さんが首を振った。
「違うんだ。大矢さんに聞いただろう? オレは騒ぎに気が付いて、野次馬的に人だかりの中に行って君を見つけただけ。助けてくれたのは、君の左斜め後ろにいた男性だよ」
「そうなんですか」
「そう。あ、でもごめん。後でご飯食べながら話させてよ。大矢さん。どうかな」
谷さんが大矢さんに訊くと、大矢さんは、
「ん? おまえ、お母さんが待ってるんじゃないのか?」
「それが、母さん珍しく友達と食事するって。あんたは勝手に食べてって」
大矢さんが笑った。僕もつられて笑った。
「だから、一緒に夕飯食べましょうよ」
僕は大矢さんを少し見上げながら、「いいですよね?」と言った。大矢さんは、「ああ」と言って、
「じゃあ、谷。一度家に帰ってから、また来るよ」
「あと十五分で上がりですから、それまでに戻って来てくださいよ」
僕たちは、谷さんに手を振って店を出た。
リビングのソファに腰を下ろすと、僕は大きく息を吐き出した。
いったい僕は、どうして倒れてしまったのだろう。何をしようとして家を出て、信号待ちをしていたのだろう。わからない。谷さんが何か知っているだろうか。
「聖矢。大丈夫か?」
大矢さんが、僕の横に座り肩を抱き寄せながら言った。
「何だか、不安で。覚えてないなんて、僕、どうしたら……」
「谷に訊いたら、何かわかるかもしれない」
大矢さんも同じ見解だった。僕は、もう一度息を吐き出し、
「わかりました。訊いてみます」
「ま、それはともかく、おまえが無事で本当に良かった」
僕を見つめる大矢さんの顔が近付いてきて、唇が重なった。僕が大矢さんの背中に腕を回すと、大矢さんも僕をギュッと抱き締めてくれる。生きていて良かった、と思った。
約束の時間を五分過ぎてしまった。谷さんはすでに店の前に立っていて、僕たちに気が付くと、「遅刻」と大きな声で言って笑った。大矢さんが、「悪かったな」と言うと、「別にいいですよ。じゃ、行きましょう」と明るく言って歩き出した。谷さんに先導されて辿り着いたのは、前に来たことのあるファミレスだった。
注文を済ませてホッと息を吐くと、谷さんが僕を見つめ、
「でもさ、本当に無事で良かったよ。あの時さ、顔が真っ青だったから。助けてくれた人によると、君の右斜め後ろに立ってた、君と同じような年齢の男子が君の肩を叩いた。それで、君は振り向いたけど、その途端に何か呟いて倒れた、と。彼が君の頭をかばってくれたから、頭打ってないよ。痛いとこ、ないだろう?」
「はい。確かに」
谷さんはお冷のグラスを手にして一口飲むと、
「それにしても、その人って誰だったの? 君の肩を叩いた人」
「さあ……誰でしょう? 実は、その時のことが全く思い出せないんです」
「え? 本当に?」
「僕は、誰に会ったんだろう」
呟くように言った。
「聖矢くん。良かった。無事だったんだね」
興奮気味に言うと、僕の顔を覗き込んできた。僕は頷き、
「はい。おかげさまで。谷さんが助けてくれたと聞いたので、お礼を言いに来ました。谷さん、本当にありがとうございました」
僕がそう言うと、谷さんが首を振った。
「違うんだ。大矢さんに聞いただろう? オレは騒ぎに気が付いて、野次馬的に人だかりの中に行って君を見つけただけ。助けてくれたのは、君の左斜め後ろにいた男性だよ」
「そうなんですか」
「そう。あ、でもごめん。後でご飯食べながら話させてよ。大矢さん。どうかな」
谷さんが大矢さんに訊くと、大矢さんは、
「ん? おまえ、お母さんが待ってるんじゃないのか?」
「それが、母さん珍しく友達と食事するって。あんたは勝手に食べてって」
大矢さんが笑った。僕もつられて笑った。
「だから、一緒に夕飯食べましょうよ」
僕は大矢さんを少し見上げながら、「いいですよね?」と言った。大矢さんは、「ああ」と言って、
「じゃあ、谷。一度家に帰ってから、また来るよ」
「あと十五分で上がりですから、それまでに戻って来てくださいよ」
僕たちは、谷さんに手を振って店を出た。
リビングのソファに腰を下ろすと、僕は大きく息を吐き出した。
いったい僕は、どうして倒れてしまったのだろう。何をしようとして家を出て、信号待ちをしていたのだろう。わからない。谷さんが何か知っているだろうか。
「聖矢。大丈夫か?」
大矢さんが、僕の横に座り肩を抱き寄せながら言った。
「何だか、不安で。覚えてないなんて、僕、どうしたら……」
「谷に訊いたら、何かわかるかもしれない」
大矢さんも同じ見解だった。僕は、もう一度息を吐き出し、
「わかりました。訊いてみます」
「ま、それはともかく、おまえが無事で本当に良かった」
僕を見つめる大矢さんの顔が近付いてきて、唇が重なった。僕が大矢さんの背中に腕を回すと、大矢さんも僕をギュッと抱き締めてくれる。生きていて良かった、と思った。
約束の時間を五分過ぎてしまった。谷さんはすでに店の前に立っていて、僕たちに気が付くと、「遅刻」と大きな声で言って笑った。大矢さんが、「悪かったな」と言うと、「別にいいですよ。じゃ、行きましょう」と明るく言って歩き出した。谷さんに先導されて辿り着いたのは、前に来たことのあるファミレスだった。
注文を済ませてホッと息を吐くと、谷さんが僕を見つめ、
「でもさ、本当に無事で良かったよ。あの時さ、顔が真っ青だったから。助けてくれた人によると、君の右斜め後ろに立ってた、君と同じような年齢の男子が君の肩を叩いた。それで、君は振り向いたけど、その途端に何か呟いて倒れた、と。彼が君の頭をかばってくれたから、頭打ってないよ。痛いとこ、ないだろう?」
「はい。確かに」
谷さんはお冷のグラスを手にして一口飲むと、
「それにしても、その人って誰だったの? 君の肩を叩いた人」
「さあ……誰でしょう? 実は、その時のことが全く思い出せないんです」
「え? 本当に?」
「僕は、誰に会ったんだろう」
呟くように言った。
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