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第二章 新たな道
第14話 花火
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谷さんのお母さんに言われて、座布団に座った。実家は全て洋室なので、畳が珍しく感じられて、つい畳を撫でていると、大矢さんは、
「寝っ転がって見ろ。気持ちいいぞ。あ。すみません、お母さん。よろしいですか?」
「いいですよ。大矢さんも、よろしければどうぞ」
さすがに大矢さんはそんなことしないかと思ったら、いきなり畳に横になった。驚いたが、僕も真似して横になった。気持ちがいい。
そんなことをしていたら、谷さんが戻ってきて、二人で畳に横たわっているのを見て、ぎょっとしたような顔になった。僕は起き上がって、
「畳が珍しくて。すみません」
「いや。いいよ。そうだよな。畳、いいよな。さあ、準備出来たから、庭に出よう」
谷さんのお母さんが、蚊取り線香を縁側に置いてくれる。いい匂いだ。谷さんが持ってきてくれた花火の袋を、大矢さんが開けて、僕に一本渡してきた。
「終わったら、このバケツに入れるんだぞ」
「はい」
「じゃ、火を点けるぞ」
花火の先に火が移り、少ししてから燃え始めると、シューシュー音を立て綺麗な炎を見せ始めた。僕は、驚きで目を見開いてしまった。
「大矢さん。これ、すごく、綺麗ですよ」
興奮して、言葉が途切れ途切れになっていた。大矢さんは微笑んで、
「ああ。綺麗だな」
そう言ってから、自分の花火にも火を点けた。谷さんは、何本も花火を手にして、一度に火を点けた。大きな炎になって、それを見た谷さんが笑い出す。
「おい、谷。それ、危ないだろ。聖矢が火傷したら、どうしてくれるんだ」
「大丈夫ですよ。聖矢くんの方には向けません」
大矢さんは、さっきまで『谷くん』と呼んでいたのに、『谷』と呼び捨てになってしまっている。
二人が言い合いしているのも楽しくて、僕はつい笑ってしまった。大矢さんが、急に真顔になって僕を見たので、僕は、笑いを引っ込め、
「大矢さん。どうしましたか? 僕、何かいけないこと、しましたか?」
不安になって訊いてみたが、大矢さんは首を振り、
「いや。そうじゃない。違うよ。聖矢が笑顔だったから、嬉しくて」
大矢さんの声が、揺れた。谷さんは、大矢さんをちょっと見てから、僕に新しい花火を渡してきた。どれも本当に綺麗で、僕はずっと幸せな気持ちでいた。大矢さんも、すぐに笑顔に戻って一緒に花火を楽しんだ。谷さんは、とにかくはしゃいでいて、時々花火を振り回しては大矢さんに注意を受けていた。が、全く気にする様子がなくて、それも面白かった。
谷家で夕食を呼ばれた。量はあまり食べられなかったが、優しい味がして、おいしく頂いた。帰る時、谷さんのお母さんが、「また来て下さいね」と言ってくれた。僕も、また来たいと思っていたので、深く頷いた。谷さんは、また僕に抱きついてきたが、お母さんに、「晃一。やめなさい」と怒られて、離れてくれた。大矢さんが、不機嫌な顔になった。
谷さんに送られて門を出ると、僕は、
「楽しかったです。ありがとうございました」
「オレも楽しかったよ。母さんも言ってたけど、また遊びにおいでよ」
「はい」
大矢さんは、相変わらずムッとしていて、
「谷。聖矢と距離をとってくれ」
「えー。だって、聖矢くん、可愛いから、つい」
「ダメだ。この子は……」
「大矢さん」
僕の抗議に大矢さんは我に返ったようで、「ごめん」と言った。谷さんは、僕と大矢さんを交互に見てから、「じゃ、また」と言って手を振った。
大矢さんが黙ったまま歩き始めた。僕は、大矢さんの後を追い、背中に抱きついた。大矢さんは振り返ると、驚いたような顔で僕を見た。僕は笑顔で大矢さんを見ると、「愛してます」と小さく言った。
「寝っ転がって見ろ。気持ちいいぞ。あ。すみません、お母さん。よろしいですか?」
「いいですよ。大矢さんも、よろしければどうぞ」
さすがに大矢さんはそんなことしないかと思ったら、いきなり畳に横になった。驚いたが、僕も真似して横になった。気持ちがいい。
そんなことをしていたら、谷さんが戻ってきて、二人で畳に横たわっているのを見て、ぎょっとしたような顔になった。僕は起き上がって、
「畳が珍しくて。すみません」
「いや。いいよ。そうだよな。畳、いいよな。さあ、準備出来たから、庭に出よう」
谷さんのお母さんが、蚊取り線香を縁側に置いてくれる。いい匂いだ。谷さんが持ってきてくれた花火の袋を、大矢さんが開けて、僕に一本渡してきた。
「終わったら、このバケツに入れるんだぞ」
「はい」
「じゃ、火を点けるぞ」
花火の先に火が移り、少ししてから燃え始めると、シューシュー音を立て綺麗な炎を見せ始めた。僕は、驚きで目を見開いてしまった。
「大矢さん。これ、すごく、綺麗ですよ」
興奮して、言葉が途切れ途切れになっていた。大矢さんは微笑んで、
「ああ。綺麗だな」
そう言ってから、自分の花火にも火を点けた。谷さんは、何本も花火を手にして、一度に火を点けた。大きな炎になって、それを見た谷さんが笑い出す。
「おい、谷。それ、危ないだろ。聖矢が火傷したら、どうしてくれるんだ」
「大丈夫ですよ。聖矢くんの方には向けません」
大矢さんは、さっきまで『谷くん』と呼んでいたのに、『谷』と呼び捨てになってしまっている。
二人が言い合いしているのも楽しくて、僕はつい笑ってしまった。大矢さんが、急に真顔になって僕を見たので、僕は、笑いを引っ込め、
「大矢さん。どうしましたか? 僕、何かいけないこと、しましたか?」
不安になって訊いてみたが、大矢さんは首を振り、
「いや。そうじゃない。違うよ。聖矢が笑顔だったから、嬉しくて」
大矢さんの声が、揺れた。谷さんは、大矢さんをちょっと見てから、僕に新しい花火を渡してきた。どれも本当に綺麗で、僕はずっと幸せな気持ちでいた。大矢さんも、すぐに笑顔に戻って一緒に花火を楽しんだ。谷さんは、とにかくはしゃいでいて、時々花火を振り回しては大矢さんに注意を受けていた。が、全く気にする様子がなくて、それも面白かった。
谷家で夕食を呼ばれた。量はあまり食べられなかったが、優しい味がして、おいしく頂いた。帰る時、谷さんのお母さんが、「また来て下さいね」と言ってくれた。僕も、また来たいと思っていたので、深く頷いた。谷さんは、また僕に抱きついてきたが、お母さんに、「晃一。やめなさい」と怒られて、離れてくれた。大矢さんが、不機嫌な顔になった。
谷さんに送られて門を出ると、僕は、
「楽しかったです。ありがとうございました」
「オレも楽しかったよ。母さんも言ってたけど、また遊びにおいでよ」
「はい」
大矢さんは、相変わらずムッとしていて、
「谷。聖矢と距離をとってくれ」
「えー。だって、聖矢くん、可愛いから、つい」
「ダメだ。この子は……」
「大矢さん」
僕の抗議に大矢さんは我に返ったようで、「ごめん」と言った。谷さんは、僕と大矢さんを交互に見てから、「じゃ、また」と言って手を振った。
大矢さんが黙ったまま歩き始めた。僕は、大矢さんの後を追い、背中に抱きついた。大矢さんは振り返ると、驚いたような顔で僕を見た。僕は笑顔で大矢さんを見ると、「愛してます」と小さく言った。
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