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第二章 新たな道
第13話 谷さんの家
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約束の五分前に、大矢さんと僕はコンビニ前に行った。今朝の憂鬱な気分は、今はすっかり消え去って、むしろワクワクしていた。
「大矢さん」
「ん?」
「僕、花火やるの、初めてなんです」
僕の言葉に、大矢さんの表情が歪んだ。僕の人生を憐れんでくれているんだろうか。僕は大矢さんを見上げると、
「あの……そんな顔、しないで下さい。そうじゃないんです。僕、大矢さんと花火やれるのが嬉しくて。初めてが、大好きな人となんて、幸せだな、って」
大矢さんは、僕の肩を抱き寄せて、「そうか」と低く言った。口元が微笑んでいて、ほっとした。と、その時、
「お待たせしました~!」
手を振りながら、谷さんが僕たちの方へ走り寄ってきた。僕が手を振り返すと、谷さんは満面の笑みを浮かべて、
「聖矢くん、本っ当に可愛いな」
そう言って、僕に抱き付いてきた。大矢さんの顔が、険しくなった。僕は谷さんから逃れると、大矢さんを見て、にっこりと笑ってみた。大矢さんは僕の頭を撫でると、
「谷くん。聖矢にあんまり近付かないでくれ」
「はいはい。じゃ、うちにご案内します。ついてきてください」
谷さんは、大矢さんの発言を気にした様子もなく、ははは、と笑ってから歩き始めた。大矢さんは、ハーッと息を吐き出してから、僕を促して歩き出した。僕もそれに従った。
「ここです」
谷さんが言っていた通り、五分程でそこに着いた。谷さんが、「どうぞ」と言って門を開けて中に入ったので、僕たちも続いた。玄関の引き戸をガラッと開けると、「ただいまー」と大きな声で言った。廊下を走って来る音がして、谷さんのお母さんだと思われる女性が僕たちに、「いらっしゃいませ」と笑顔で声を掛けてくれる。僕たちも挨拶をして、頭を下げた。
「母さん、急にごめんな。でもさ。さっきも言ったけど、この人たち困ってるみたいだったから」
「いいわよ。お客さんが来るの久し振りだから、嬉しいわよ。さあ、どうぞ中へ」
言われて僕たちは、「お邪魔します」と言って中に入った。部屋に通された後、谷さんが、
「夕飯は? 食べちゃいましたか?」
「いや。花火の後、どっかで食べようかって話してたんだ」
大矢さんが答えると、谷さんは、
「じゃあ、ここで食べませんか? 母さん、もてなす気、満々なんです」
「どうする? 聖矢」
僕に視線を向ける。僕は、どう答えていいかわからず、大矢さんを見返すばかりだ。大矢さんは頷き、
「それでは、少しだけお願いします。でも、本当に少しにして下さい。遠慮じゃないんです。この子は、あまりたくさんは食べられないので」
「わかりました」
谷さんのお母さんが微笑む。谷さんとよく似てるな、と思った。大矢さんが言うには、僕は生みの母親にそっくりらしい。が、会ったことがないから、僕には真偽のほどはわからない。
「じゃあ、花火しよう。バケツに水汲んでくる」
嬉々として部屋から出て行く谷さんを、僕と大矢さんは黙って見送った。
「大矢さん」
「ん?」
「僕、花火やるの、初めてなんです」
僕の言葉に、大矢さんの表情が歪んだ。僕の人生を憐れんでくれているんだろうか。僕は大矢さんを見上げると、
「あの……そんな顔、しないで下さい。そうじゃないんです。僕、大矢さんと花火やれるのが嬉しくて。初めてが、大好きな人となんて、幸せだな、って」
大矢さんは、僕の肩を抱き寄せて、「そうか」と低く言った。口元が微笑んでいて、ほっとした。と、その時、
「お待たせしました~!」
手を振りながら、谷さんが僕たちの方へ走り寄ってきた。僕が手を振り返すと、谷さんは満面の笑みを浮かべて、
「聖矢くん、本っ当に可愛いな」
そう言って、僕に抱き付いてきた。大矢さんの顔が、険しくなった。僕は谷さんから逃れると、大矢さんを見て、にっこりと笑ってみた。大矢さんは僕の頭を撫でると、
「谷くん。聖矢にあんまり近付かないでくれ」
「はいはい。じゃ、うちにご案内します。ついてきてください」
谷さんは、大矢さんの発言を気にした様子もなく、ははは、と笑ってから歩き始めた。大矢さんは、ハーッと息を吐き出してから、僕を促して歩き出した。僕もそれに従った。
「ここです」
谷さんが言っていた通り、五分程でそこに着いた。谷さんが、「どうぞ」と言って門を開けて中に入ったので、僕たちも続いた。玄関の引き戸をガラッと開けると、「ただいまー」と大きな声で言った。廊下を走って来る音がして、谷さんのお母さんだと思われる女性が僕たちに、「いらっしゃいませ」と笑顔で声を掛けてくれる。僕たちも挨拶をして、頭を下げた。
「母さん、急にごめんな。でもさ。さっきも言ったけど、この人たち困ってるみたいだったから」
「いいわよ。お客さんが来るの久し振りだから、嬉しいわよ。さあ、どうぞ中へ」
言われて僕たちは、「お邪魔します」と言って中に入った。部屋に通された後、谷さんが、
「夕飯は? 食べちゃいましたか?」
「いや。花火の後、どっかで食べようかって話してたんだ」
大矢さんが答えると、谷さんは、
「じゃあ、ここで食べませんか? 母さん、もてなす気、満々なんです」
「どうする? 聖矢」
僕に視線を向ける。僕は、どう答えていいかわからず、大矢さんを見返すばかりだ。大矢さんは頷き、
「それでは、少しだけお願いします。でも、本当に少しにして下さい。遠慮じゃないんです。この子は、あまりたくさんは食べられないので」
「わかりました」
谷さんのお母さんが微笑む。谷さんとよく似てるな、と思った。大矢さんが言うには、僕は生みの母親にそっくりらしい。が、会ったことがないから、僕には真偽のほどはわからない。
「じゃあ、花火しよう。バケツに水汲んでくる」
嬉々として部屋から出て行く谷さんを、僕と大矢さんは黙って見送った。
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