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第一章 出会い
第19話 愛してる
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大矢さんが僕から離れて部屋を出て行く気配がした。僕は大きく息を吐き出した。
まだ、出会って一日も経っていないのに、僕はどうして大矢さんをこんなに想っているんだろう。大矢さんは、どうして僕に「愛してる」と言ってくれるんだろう。
きっとこういうのを、『運命の出会い』と言うのだろうと思った。僕の身にそんなことが起こるとは、驚きだった。でも、他に何と言えばいいのだろう。
いつのまにか、眠っていたらしい。大矢さんに、「聖矢」と呼ばれて目を覚ました。タオルケットから顔を出すと、大矢さんはすぐそばに立っていた。
大矢さんは、僕に向かって微笑んだ。僕は、ただ大矢さんを見ていた。
「聖矢。お粥作ってみたけど、味見してくれないか?」
「お粥……ですか? 大矢さん、お粥も作れるんですね」
さっきまでかなり落ち込んでいたはずなのに、何故僕はお粥の話を普通にしているのだろう、と、何だかおかしくなった。笑いそうになるのをこらえて、
「お粥って、作るのが大変なんじゃないですか? 何となく、そう思ったんですけど」
「まあ、そうかな。だから、味を見てくれって言ってるんだ」
さっきあんなに胃の気持ち悪さを感じてあんなことになったというのに、僕は、大矢さんのお粥を少し食べてみようかな、と思えた。僕は頷いて、
「わかりました。少しだけ、食べてみます」
「それは助かる」
また笑顔だ。大矢さんのそんな表情を見せられて、僕は鼓動が速くなってしまう。そんな自分が恥ずかしい。
「大矢さん。僕……」
「何だ?」
「やっぱりいいです」
「気になるじゃないか。言ってごらん」
僕にさらに近づいて、僕の肩を抱く。僕は、大矢さんの横顔を見ながらドキドキし続けている。
「聖矢」
「大矢さん。僕、大矢さんが大好きです」
言ってしまってから、僕は何を言ってるんだろう、と思った。顔が赤くなるのを感じた。大矢さんは、肩を抱く手に力を込めた。
昨日の夜、背中を叩かれただけで怖がっていた僕は、どこへ行ってしまったのだろう。僕は今、こうされて、喜びを感じている。
大矢さんは、ふっと笑って、
「愛してるって言ってくれないのか?」
僕は、ためらいながらも、
「あ……愛……」
僕が言い淀むと、大矢さんは、ははは、と笑い、
「……してる、だよ。愛してる」
「愛してます」
小さな声で、やっと言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、
「聖矢。愛してる」
何度も言ってくれる。
と、その時、僕は思い出した。
「あ。大矢さん。お粥」
「そうだった。冷めちゃうな」
僕をゆっくり立ち上がらせると、「大丈夫か?」と言ってくれる。僕は、「はい」と答えて、一歩一歩進んでいく。大矢さんは、僕に歩調を合わせてくれる。優しさが沁みる。
ダイニングキッチンの椅子に腰かけると、テーブルに置かれた物を見た。白いお粥。黄色いかきたま汁。黒い海苔の佃煮。ほうれん草のお浸し。
「これ、大矢さんが全部作ってくれたんですか?」
大矢さんは、頭を掻きながら、
「作ったって言っていいのかな。汁はインスタント。海苔は瓶から出しただけだし、ほうれん草は出来合いを買ってきただけだぞ」
「ありがとうございます」
大矢さんが、僕の体を心配して、こんなに準備してくれたと思ったら、それだけで幸せな気持ちになる。
「あの……全部食べられるかはわかりませんけど、すごく嬉しいです。僕、頑張って食べてみます」
「無理はしたらダメだぞ。残していいから」
「大矢さんも食べましょう」
大矢さんの方にも、僕と同じ物が置かれている。大矢さんは、それで足りるのだろうか。
「さ、味見してくれ」
「いただきます」
僕は、手を合わせた後、箸を手にして食べ始めた。やはり、ゆっくりゆっくりだが、大矢さんの思いを考えると、自然に笑顔になっていた。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばし、僕の頬を撫でた。僕は、心地よさに目を閉じた。
「大矢さんと出会えて、僕、よかったです。ありがとうございます」
「オレの方が、そう言いたいよ。聖矢。おまえと出会えてよかった。生まれて来てくれて、ありがとう」
「また、僕を泣かせようとしてますね」
「違う。真実を言っただけだ」
大矢さんの言葉に、僕は思わず笑った。大矢さんは、僕のあごに手を当てて上向かせると、「愛してる」と言って、僕に口づけた。
まだ、出会って一日も経っていないのに、僕はどうして大矢さんをこんなに想っているんだろう。大矢さんは、どうして僕に「愛してる」と言ってくれるんだろう。
きっとこういうのを、『運命の出会い』と言うのだろうと思った。僕の身にそんなことが起こるとは、驚きだった。でも、他に何と言えばいいのだろう。
いつのまにか、眠っていたらしい。大矢さんに、「聖矢」と呼ばれて目を覚ました。タオルケットから顔を出すと、大矢さんはすぐそばに立っていた。
大矢さんは、僕に向かって微笑んだ。僕は、ただ大矢さんを見ていた。
「聖矢。お粥作ってみたけど、味見してくれないか?」
「お粥……ですか? 大矢さん、お粥も作れるんですね」
さっきまでかなり落ち込んでいたはずなのに、何故僕はお粥の話を普通にしているのだろう、と、何だかおかしくなった。笑いそうになるのをこらえて、
「お粥って、作るのが大変なんじゃないですか? 何となく、そう思ったんですけど」
「まあ、そうかな。だから、味を見てくれって言ってるんだ」
さっきあんなに胃の気持ち悪さを感じてあんなことになったというのに、僕は、大矢さんのお粥を少し食べてみようかな、と思えた。僕は頷いて、
「わかりました。少しだけ、食べてみます」
「それは助かる」
また笑顔だ。大矢さんのそんな表情を見せられて、僕は鼓動が速くなってしまう。そんな自分が恥ずかしい。
「大矢さん。僕……」
「何だ?」
「やっぱりいいです」
「気になるじゃないか。言ってごらん」
僕にさらに近づいて、僕の肩を抱く。僕は、大矢さんの横顔を見ながらドキドキし続けている。
「聖矢」
「大矢さん。僕、大矢さんが大好きです」
言ってしまってから、僕は何を言ってるんだろう、と思った。顔が赤くなるのを感じた。大矢さんは、肩を抱く手に力を込めた。
昨日の夜、背中を叩かれただけで怖がっていた僕は、どこへ行ってしまったのだろう。僕は今、こうされて、喜びを感じている。
大矢さんは、ふっと笑って、
「愛してるって言ってくれないのか?」
僕は、ためらいながらも、
「あ……愛……」
僕が言い淀むと、大矢さんは、ははは、と笑い、
「……してる、だよ。愛してる」
「愛してます」
小さな声で、やっと言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、
「聖矢。愛してる」
何度も言ってくれる。
と、その時、僕は思い出した。
「あ。大矢さん。お粥」
「そうだった。冷めちゃうな」
僕をゆっくり立ち上がらせると、「大丈夫か?」と言ってくれる。僕は、「はい」と答えて、一歩一歩進んでいく。大矢さんは、僕に歩調を合わせてくれる。優しさが沁みる。
ダイニングキッチンの椅子に腰かけると、テーブルに置かれた物を見た。白いお粥。黄色いかきたま汁。黒い海苔の佃煮。ほうれん草のお浸し。
「これ、大矢さんが全部作ってくれたんですか?」
大矢さんは、頭を掻きながら、
「作ったって言っていいのかな。汁はインスタント。海苔は瓶から出しただけだし、ほうれん草は出来合いを買ってきただけだぞ」
「ありがとうございます」
大矢さんが、僕の体を心配して、こんなに準備してくれたと思ったら、それだけで幸せな気持ちになる。
「あの……全部食べられるかはわかりませんけど、すごく嬉しいです。僕、頑張って食べてみます」
「無理はしたらダメだぞ。残していいから」
「大矢さんも食べましょう」
大矢さんの方にも、僕と同じ物が置かれている。大矢さんは、それで足りるのだろうか。
「さ、味見してくれ」
「いただきます」
僕は、手を合わせた後、箸を手にして食べ始めた。やはり、ゆっくりゆっくりだが、大矢さんの思いを考えると、自然に笑顔になっていた。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばし、僕の頬を撫でた。僕は、心地よさに目を閉じた。
「大矢さんと出会えて、僕、よかったです。ありがとうございます」
「オレの方が、そう言いたいよ。聖矢。おまえと出会えてよかった。生まれて来てくれて、ありがとう」
「また、僕を泣かせようとしてますね」
「違う。真実を言っただけだ」
大矢さんの言葉に、僕は思わず笑った。大矢さんは、僕のあごに手を当てて上向かせると、「愛してる」と言って、僕に口づけた。
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