19 / 80
第一章 出会い
第19話 愛してる
しおりを挟む
大矢さんが僕から離れて部屋を出て行く気配がした。僕は大きく息を吐き出した。
まだ、出会って一日も経っていないのに、僕はどうして大矢さんをこんなに想っているんだろう。大矢さんは、どうして僕に「愛してる」と言ってくれるんだろう。
きっとこういうのを、『運命の出会い』と言うのだろうと思った。僕の身にそんなことが起こるとは、驚きだった。でも、他に何と言えばいいのだろう。
いつのまにか、眠っていたらしい。大矢さんに、「聖矢」と呼ばれて目を覚ました。タオルケットから顔を出すと、大矢さんはすぐそばに立っていた。
大矢さんは、僕に向かって微笑んだ。僕は、ただ大矢さんを見ていた。
「聖矢。お粥作ってみたけど、味見してくれないか?」
「お粥……ですか? 大矢さん、お粥も作れるんですね」
さっきまでかなり落ち込んでいたはずなのに、何故僕はお粥の話を普通にしているのだろう、と、何だかおかしくなった。笑いそうになるのをこらえて、
「お粥って、作るのが大変なんじゃないですか? 何となく、そう思ったんですけど」
「まあ、そうかな。だから、味を見てくれって言ってるんだ」
さっきあんなに胃の気持ち悪さを感じてあんなことになったというのに、僕は、大矢さんのお粥を少し食べてみようかな、と思えた。僕は頷いて、
「わかりました。少しだけ、食べてみます」
「それは助かる」
また笑顔だ。大矢さんのそんな表情を見せられて、僕は鼓動が速くなってしまう。そんな自分が恥ずかしい。
「大矢さん。僕……」
「何だ?」
「やっぱりいいです」
「気になるじゃないか。言ってごらん」
僕にさらに近づいて、僕の肩を抱く。僕は、大矢さんの横顔を見ながらドキドキし続けている。
「聖矢」
「大矢さん。僕、大矢さんが大好きです」
言ってしまってから、僕は何を言ってるんだろう、と思った。顔が赤くなるのを感じた。大矢さんは、肩を抱く手に力を込めた。
昨日の夜、背中を叩かれただけで怖がっていた僕は、どこへ行ってしまったのだろう。僕は今、こうされて、喜びを感じている。
大矢さんは、ふっと笑って、
「愛してるって言ってくれないのか?」
僕は、ためらいながらも、
「あ……愛……」
僕が言い淀むと、大矢さんは、ははは、と笑い、
「……してる、だよ。愛してる」
「愛してます」
小さな声で、やっと言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、
「聖矢。愛してる」
何度も言ってくれる。
と、その時、僕は思い出した。
「あ。大矢さん。お粥」
「そうだった。冷めちゃうな」
僕をゆっくり立ち上がらせると、「大丈夫か?」と言ってくれる。僕は、「はい」と答えて、一歩一歩進んでいく。大矢さんは、僕に歩調を合わせてくれる。優しさが沁みる。
ダイニングキッチンの椅子に腰かけると、テーブルに置かれた物を見た。白いお粥。黄色いかきたま汁。黒い海苔の佃煮。ほうれん草のお浸し。
「これ、大矢さんが全部作ってくれたんですか?」
大矢さんは、頭を掻きながら、
「作ったって言っていいのかな。汁はインスタント。海苔は瓶から出しただけだし、ほうれん草は出来合いを買ってきただけだぞ」
「ありがとうございます」
大矢さんが、僕の体を心配して、こんなに準備してくれたと思ったら、それだけで幸せな気持ちになる。
「あの……全部食べられるかはわかりませんけど、すごく嬉しいです。僕、頑張って食べてみます」
「無理はしたらダメだぞ。残していいから」
「大矢さんも食べましょう」
大矢さんの方にも、僕と同じ物が置かれている。大矢さんは、それで足りるのだろうか。
「さ、味見してくれ」
「いただきます」
僕は、手を合わせた後、箸を手にして食べ始めた。やはり、ゆっくりゆっくりだが、大矢さんの思いを考えると、自然に笑顔になっていた。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばし、僕の頬を撫でた。僕は、心地よさに目を閉じた。
「大矢さんと出会えて、僕、よかったです。ありがとうございます」
「オレの方が、そう言いたいよ。聖矢。おまえと出会えてよかった。生まれて来てくれて、ありがとう」
「また、僕を泣かせようとしてますね」
「違う。真実を言っただけだ」
大矢さんの言葉に、僕は思わず笑った。大矢さんは、僕のあごに手を当てて上向かせると、「愛してる」と言って、僕に口づけた。
まだ、出会って一日も経っていないのに、僕はどうして大矢さんをこんなに想っているんだろう。大矢さんは、どうして僕に「愛してる」と言ってくれるんだろう。
きっとこういうのを、『運命の出会い』と言うのだろうと思った。僕の身にそんなことが起こるとは、驚きだった。でも、他に何と言えばいいのだろう。
いつのまにか、眠っていたらしい。大矢さんに、「聖矢」と呼ばれて目を覚ました。タオルケットから顔を出すと、大矢さんはすぐそばに立っていた。
大矢さんは、僕に向かって微笑んだ。僕は、ただ大矢さんを見ていた。
「聖矢。お粥作ってみたけど、味見してくれないか?」
「お粥……ですか? 大矢さん、お粥も作れるんですね」
さっきまでかなり落ち込んでいたはずなのに、何故僕はお粥の話を普通にしているのだろう、と、何だかおかしくなった。笑いそうになるのをこらえて、
「お粥って、作るのが大変なんじゃないですか? 何となく、そう思ったんですけど」
「まあ、そうかな。だから、味を見てくれって言ってるんだ」
さっきあんなに胃の気持ち悪さを感じてあんなことになったというのに、僕は、大矢さんのお粥を少し食べてみようかな、と思えた。僕は頷いて、
「わかりました。少しだけ、食べてみます」
「それは助かる」
また笑顔だ。大矢さんのそんな表情を見せられて、僕は鼓動が速くなってしまう。そんな自分が恥ずかしい。
「大矢さん。僕……」
「何だ?」
「やっぱりいいです」
「気になるじゃないか。言ってごらん」
僕にさらに近づいて、僕の肩を抱く。僕は、大矢さんの横顔を見ながらドキドキし続けている。
「聖矢」
「大矢さん。僕、大矢さんが大好きです」
言ってしまってから、僕は何を言ってるんだろう、と思った。顔が赤くなるのを感じた。大矢さんは、肩を抱く手に力を込めた。
昨日の夜、背中を叩かれただけで怖がっていた僕は、どこへ行ってしまったのだろう。僕は今、こうされて、喜びを感じている。
大矢さんは、ふっと笑って、
「愛してるって言ってくれないのか?」
僕は、ためらいながらも、
「あ……愛……」
僕が言い淀むと、大矢さんは、ははは、と笑い、
「……してる、だよ。愛してる」
「愛してます」
小さな声で、やっと言った。大矢さんは、僕の髪を撫でながら、
「聖矢。愛してる」
何度も言ってくれる。
と、その時、僕は思い出した。
「あ。大矢さん。お粥」
「そうだった。冷めちゃうな」
僕をゆっくり立ち上がらせると、「大丈夫か?」と言ってくれる。僕は、「はい」と答えて、一歩一歩進んでいく。大矢さんは、僕に歩調を合わせてくれる。優しさが沁みる。
ダイニングキッチンの椅子に腰かけると、テーブルに置かれた物を見た。白いお粥。黄色いかきたま汁。黒い海苔の佃煮。ほうれん草のお浸し。
「これ、大矢さんが全部作ってくれたんですか?」
大矢さんは、頭を掻きながら、
「作ったって言っていいのかな。汁はインスタント。海苔は瓶から出しただけだし、ほうれん草は出来合いを買ってきただけだぞ」
「ありがとうございます」
大矢さんが、僕の体を心配して、こんなに準備してくれたと思ったら、それだけで幸せな気持ちになる。
「あの……全部食べられるかはわかりませんけど、すごく嬉しいです。僕、頑張って食べてみます」
「無理はしたらダメだぞ。残していいから」
「大矢さんも食べましょう」
大矢さんの方にも、僕と同じ物が置かれている。大矢さんは、それで足りるのだろうか。
「さ、味見してくれ」
「いただきます」
僕は、手を合わせた後、箸を手にして食べ始めた。やはり、ゆっくりゆっくりだが、大矢さんの思いを考えると、自然に笑顔になっていた。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばし、僕の頬を撫でた。僕は、心地よさに目を閉じた。
「大矢さんと出会えて、僕、よかったです。ありがとうございます」
「オレの方が、そう言いたいよ。聖矢。おまえと出会えてよかった。生まれて来てくれて、ありがとう」
「また、僕を泣かせようとしてますね」
「違う。真実を言っただけだ」
大矢さんの言葉に、僕は思わず笑った。大矢さんは、僕のあごに手を当てて上向かせると、「愛してる」と言って、僕に口づけた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる