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第一章 出会い
第12話 恐れ
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三人でリビングへ行ったものの、僕はまた胃が逆流するような感じになって、急いでトイレに駆け込んだ。出る物がなくなって、胃液まで吐き出していた。その度に、胃が痙攣するみたいになっていた。
どうして僕は、いつもこうなんだろう。家にいる時から、何かあるとすぐにこういう状態になった。それについて、家族は何も言わなかった。妹が時々、哀しそうな顔をして僕を見ているくらいだった。
思い出すと、よけいに具合が悪くなってきた。それからまだしばらく、トイレから出ることは出来なかった。
それでも何とか落ち着いてきて、ようやくトイレから出て洗面所で口元を洗っていると、大矢さんが来てくれた。大矢さんは、僕を気遣うような顔で、
「聖矢。大丈夫か?」
そう言った後で、大矢さんは顔をしかめると、舌打ちをした。僕は、ビクッとして、体を固めてしまった。大矢さんなのに、怖い。
僕のそんな様子を見て、大矢さんが慌てたように、
「ごめん。違うんだ。オレは、自分が嫌になっただけなんだ。おまえに苛立ってる訳じゃない。そんな顔しなくて大丈夫だから」
大矢さんの必死な表情のその言葉を信じていいのか悪いのか、僕は判断が出来なくなってしまった。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばしてきたけれど、僕はその手を握ることが出来なかった。
また、怒らせちゃった……。そんな、絶望と恐れの感情が沸き上がって来る。大矢さんが一歩近付いて来たけれど、僕は一歩下がって距離を取った。怖い。その思いで頭がいっぱいになってしまった。
大矢さんは、哀しそうに顔を歪めた後、
「聖矢。ごめん。オレが悪かった」
言うと同時に、大矢さんは僕の腕をつかみ無理矢理自分の方に引くと、強く抱き締めてきた。
「離して」
大きな声は出ないけれど、必死で訴えた。でも、大矢さんは少しもその腕を弛めてくれなかった。震えて泣き出しそうな自分に、この人は大矢さんだ、と何度も言い聞かせた。
僕をこの家に泊めてくれて、僕を傷つけないように気遣ってくれる大矢さん。今の舌打ちにも何か理由があるんだ。訊いてみればいいじゃないか。
そう考えて、徐々に恐怖の気持ちが消えて行った。固まってしまっていた体から、力が抜けた。僕は、大矢さんの肩に頭をもたせ掛けると、
「大矢さん。ごめんなさい」
信じきれなかった自分が許せず、泣きそうになりながら大矢さんに謝った。大矢さんは、「おまえは何も悪くない」と、囁くように言った。
「聖矢。とりあえず、寝室に行こう。おまえは、ちょっと体を休めた方がいいと思う」
僕の頭を軽く撫でてから体を離すと、大矢さんは僕の手をしっかりと握った。
どうして僕は、いつもこうなんだろう。家にいる時から、何かあるとすぐにこういう状態になった。それについて、家族は何も言わなかった。妹が時々、哀しそうな顔をして僕を見ているくらいだった。
思い出すと、よけいに具合が悪くなってきた。それからまだしばらく、トイレから出ることは出来なかった。
それでも何とか落ち着いてきて、ようやくトイレから出て洗面所で口元を洗っていると、大矢さんが来てくれた。大矢さんは、僕を気遣うような顔で、
「聖矢。大丈夫か?」
そう言った後で、大矢さんは顔をしかめると、舌打ちをした。僕は、ビクッとして、体を固めてしまった。大矢さんなのに、怖い。
僕のそんな様子を見て、大矢さんが慌てたように、
「ごめん。違うんだ。オレは、自分が嫌になっただけなんだ。おまえに苛立ってる訳じゃない。そんな顔しなくて大丈夫だから」
大矢さんの必死な表情のその言葉を信じていいのか悪いのか、僕は判断が出来なくなってしまった。
大矢さんは、僕の方に手を伸ばしてきたけれど、僕はその手を握ることが出来なかった。
また、怒らせちゃった……。そんな、絶望と恐れの感情が沸き上がって来る。大矢さんが一歩近付いて来たけれど、僕は一歩下がって距離を取った。怖い。その思いで頭がいっぱいになってしまった。
大矢さんは、哀しそうに顔を歪めた後、
「聖矢。ごめん。オレが悪かった」
言うと同時に、大矢さんは僕の腕をつかみ無理矢理自分の方に引くと、強く抱き締めてきた。
「離して」
大きな声は出ないけれど、必死で訴えた。でも、大矢さんは少しもその腕を弛めてくれなかった。震えて泣き出しそうな自分に、この人は大矢さんだ、と何度も言い聞かせた。
僕をこの家に泊めてくれて、僕を傷つけないように気遣ってくれる大矢さん。今の舌打ちにも何か理由があるんだ。訊いてみればいいじゃないか。
そう考えて、徐々に恐怖の気持ちが消えて行った。固まってしまっていた体から、力が抜けた。僕は、大矢さんの肩に頭をもたせ掛けると、
「大矢さん。ごめんなさい」
信じきれなかった自分が許せず、泣きそうになりながら大矢さんに謝った。大矢さんは、「おまえは何も悪くない」と、囁くように言った。
「聖矢。とりあえず、寝室に行こう。おまえは、ちょっと体を休めた方がいいと思う」
僕の頭を軽く撫でてから体を離すと、大矢さんは僕の手をしっかりと握った。
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