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第一章 出会い
第9話 本当の名前
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洗い物を終えると、大矢さんと一緒にリビングに行った。大矢さんは、僕をソファに座らせると、「隣に座ってもいいか?」と言って、僕を見た。僕が頷くと、大矢さんはソファの端の方に座った。昨日の公園のことを思い出して、距離をとってくれたのだろうと思う。優しい人だ。
これから大矢さんが、何を言おうとしているか、わかっている。わかっているから、そのことを考えると気持ちが落ちて来て、つい床に視線を落としてしまった。
大矢さんは、深呼吸をした後、静かな低い声で、
「聖矢。オレは、ずっとおまえとここにいても一向に構わないと思う。だけど、そういうわけにはいかない。わかるよな?」
僕は、黙って頷いた。大矢さんは息を吐き出すと、
「本当の名前を教えてくれるか?」
「津島真です」
少しもためらわずに告げることが出来た。顔を上げると、大矢さんが僕をじっと見ていた。その表情は、何とも形容し難いものだった。そして、驚くべきことを口にした。
「そうか。先生がおまえを引き取ったんだな」
確かに父は、大学の教員だ。でも、何故大矢さんが父を知っているんだろう。頭の中に、疑問符がたくさん浮かんでいた。
大矢さんは髪をかき上げながら、眉間に皺を寄せ、
「津島真澄先生の子なんだろう。真澄先生の名前から一文字取られたんだな、おまえの名前」
「はい。兄も妹も、親の名前の文字をもらっていないのに、僕だけ何故かそういう名前なんです。でも、何故……」
知っているのか問おうとしたが、そのまま口を閉じた。
大矢さんは、僕のしようとしていた質問には答えることなく、相変わらず難しい顔をしたままだ。どういう感情が、大矢さんにそんな顔をさせているのだろう、と思った。
大矢さんは、さっきと同じように髪をかき上げた後、僕をじっと見ながら、はっきりとした口調で言った。
「おまえは、無断外泊をした。嫌だろうけど、親に連絡しないといけない。わかるよな」
本当は教えたくない。家に電話してほしくはない。でも、それがいけないことだということくらい、僕にもわかっている。僕が言わなければ、大矢さんにもっと迷惑が掛かるだろう。それは避けたい。
僕は深く頷くと、家の電話番号を大矢さんに告げた。大矢さんは、僕に少しだけ近づき僕の髪を撫でると、
「ありがとう」
柔らかい表情になって、言った。
僕の教えた番号を押していく大矢さんを見ながら、誰も電話に出ないでほしい、と願っていた。
これから大矢さんが、何を言おうとしているか、わかっている。わかっているから、そのことを考えると気持ちが落ちて来て、つい床に視線を落としてしまった。
大矢さんは、深呼吸をした後、静かな低い声で、
「聖矢。オレは、ずっとおまえとここにいても一向に構わないと思う。だけど、そういうわけにはいかない。わかるよな?」
僕は、黙って頷いた。大矢さんは息を吐き出すと、
「本当の名前を教えてくれるか?」
「津島真です」
少しもためらわずに告げることが出来た。顔を上げると、大矢さんが僕をじっと見ていた。その表情は、何とも形容し難いものだった。そして、驚くべきことを口にした。
「そうか。先生がおまえを引き取ったんだな」
確かに父は、大学の教員だ。でも、何故大矢さんが父を知っているんだろう。頭の中に、疑問符がたくさん浮かんでいた。
大矢さんは髪をかき上げながら、眉間に皺を寄せ、
「津島真澄先生の子なんだろう。真澄先生の名前から一文字取られたんだな、おまえの名前」
「はい。兄も妹も、親の名前の文字をもらっていないのに、僕だけ何故かそういう名前なんです。でも、何故……」
知っているのか問おうとしたが、そのまま口を閉じた。
大矢さんは、僕のしようとしていた質問には答えることなく、相変わらず難しい顔をしたままだ。どういう感情が、大矢さんにそんな顔をさせているのだろう、と思った。
大矢さんは、さっきと同じように髪をかき上げた後、僕をじっと見ながら、はっきりとした口調で言った。
「おまえは、無断外泊をした。嫌だろうけど、親に連絡しないといけない。わかるよな」
本当は教えたくない。家に電話してほしくはない。でも、それがいけないことだということくらい、僕にもわかっている。僕が言わなければ、大矢さんにもっと迷惑が掛かるだろう。それは避けたい。
僕は深く頷くと、家の電話番号を大矢さんに告げた。大矢さんは、僕に少しだけ近づき僕の髪を撫でると、
「ありがとう」
柔らかい表情になって、言った。
僕の教えた番号を押していく大矢さんを見ながら、誰も電話に出ないでほしい、と願っていた。
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