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第一章 出会い
第4話 大矢さん
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僕のその反応に、男の人は驚いた様子を見せつつも、僕と距離を取ってくれた。ホッとして、思わず息を吐き出した。彼は、低めの渋い声で、
「ごめん。君があんまりつらそうだったから。余計なことをしたみたいだね」
その言葉を聞いて、僕は胸がドキッとした。今、気遣われたように思ったのは、気のせいだろうか。人と関わる経験値が低いので、よくわからない。ただ、心が一瞬温かくなった。
その男性は、僕に触れないようにベンチの隅っこの方に腰を下ろした。僕がまたむせかえると思っているのか、サンドウィッチを食べている間、何も言って来なかった。ジュースを飲み終わる頃、ようやく、
「君。それ、夕飯か?」
つい驚いて、目を見開いてその人を見てしまったが、ジュースのストローをくわえたまま頷いてみせた。
「家に帰らなくて大丈夫なのか? それとも、これから塾に行くとか?」
僕が首を振ると、その人は、
「じゃあ、家出か?」
言い当てられて、僕は何も言えなかった。
「今夜はどうするつもりだ? 行く当てはあるのか?」
訊かれて、やはり僕は答えられず、ただ、その男性を見ていた。
「それじゃ、交番に行こう。家出少年を放っておけないからな」
交番。その単語を聞いた瞬間、僕は目を見開いて彼を見ると、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、「やだ」と意思表示した。それだけは困る。交番に行けば、家に電話される。電話されたら、僕はまたあの場所に連れて行かれる。そんなこと、もう耐えられない。心臓が、うるさいくらいに速く打っている。
その人は、僕をじっと見てから頷いた。それはどういう意味だろう、と考えていると、
「そうか。嫌なんだな。じゃあ、うちに来るか? 君、名前は? あ、そうか。オレがまず名乗らないといけないな。オレは、大矢湘太郎。君は?」
名乗ろうかどうしようかと考えたものの、結局は答えられず、僕はただ黙って大矢さんを見続けていた。大矢さんは、ハーっと息を吐き出すと、
「じゃあ、仕方ないな。勝手に付けるぞ。そうだな、『星野聖矢』。どうだ? いい名前だろう?」
大矢さんはそう言うと、口元に微笑みを浮かべた。何でその名前にしたのだろう、と思う反面、何だか懐かしいような気持ちになっていた。そんな自分の感情に戸惑いながらも、僕はとりあえず何も言わずにいた。大矢さんはベンチからすっと立ち上がると、
「とにかく、オレは君を聖矢と呼ぶからな。じゃあ、聖矢。オレの家に行こう。ついておいで」
会ったばかりのこの人を、信じていいのか悪いのか、わからない。でも、もうあれこれ考える力は残っていなかった。
僕は、言われるままにベンチから立ち上がると、大矢さんを少し見上げた。
「ごめん。君があんまりつらそうだったから。余計なことをしたみたいだね」
その言葉を聞いて、僕は胸がドキッとした。今、気遣われたように思ったのは、気のせいだろうか。人と関わる経験値が低いので、よくわからない。ただ、心が一瞬温かくなった。
その男性は、僕に触れないようにベンチの隅っこの方に腰を下ろした。僕がまたむせかえると思っているのか、サンドウィッチを食べている間、何も言って来なかった。ジュースを飲み終わる頃、ようやく、
「君。それ、夕飯か?」
つい驚いて、目を見開いてその人を見てしまったが、ジュースのストローをくわえたまま頷いてみせた。
「家に帰らなくて大丈夫なのか? それとも、これから塾に行くとか?」
僕が首を振ると、その人は、
「じゃあ、家出か?」
言い当てられて、僕は何も言えなかった。
「今夜はどうするつもりだ? 行く当てはあるのか?」
訊かれて、やはり僕は答えられず、ただ、その男性を見ていた。
「それじゃ、交番に行こう。家出少年を放っておけないからな」
交番。その単語を聞いた瞬間、僕は目を見開いて彼を見ると、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、「やだ」と意思表示した。それだけは困る。交番に行けば、家に電話される。電話されたら、僕はまたあの場所に連れて行かれる。そんなこと、もう耐えられない。心臓が、うるさいくらいに速く打っている。
その人は、僕をじっと見てから頷いた。それはどういう意味だろう、と考えていると、
「そうか。嫌なんだな。じゃあ、うちに来るか? 君、名前は? あ、そうか。オレがまず名乗らないといけないな。オレは、大矢湘太郎。君は?」
名乗ろうかどうしようかと考えたものの、結局は答えられず、僕はただ黙って大矢さんを見続けていた。大矢さんは、ハーっと息を吐き出すと、
「じゃあ、仕方ないな。勝手に付けるぞ。そうだな、『星野聖矢』。どうだ? いい名前だろう?」
大矢さんはそう言うと、口元に微笑みを浮かべた。何でその名前にしたのだろう、と思う反面、何だか懐かしいような気持ちになっていた。そんな自分の感情に戸惑いながらも、僕はとりあえず何も言わずにいた。大矢さんはベンチからすっと立ち上がると、
「とにかく、オレは君を聖矢と呼ぶからな。じゃあ、聖矢。オレの家に行こう。ついておいで」
会ったばかりのこの人を、信じていいのか悪いのか、わからない。でも、もうあれこれ考える力は残っていなかった。
僕は、言われるままにベンチから立ち上がると、大矢さんを少し見上げた。
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