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第二章 新たな道
第8話 初めての外食
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八月二十五日。僕が大矢さんに拾われてから、ちょうど一ヶ月経った。
「聖矢。今日は、オレたちが出会ってから一ヶ月経った大事な日だから、外で食事しないか?」
その日の朝、ベッドから起き上がった大矢さんが言った。僕は、急に心がざわざわしてしまった。
大矢さんを見つめながらも、返事出来ずにいた。大矢さんは、僕の髪をそっと撫でると、
「外食はまだ、ハードルが高いか?」
僕は胸に手を当てて、ざわつきを抑えようとしたが、出来なかった。そして、結局何も言えずに大矢さんを見ていた。
大矢さんが、大きく息を吐き出した。
「聖矢、ごめん。気にしないでいいから。さ、朝ごはん食べよう」
笑顔でそう言うと、ベッドから降りて、部屋を出て行った。僕も急いでベッドから起き上がると、大矢さんを追った。洗面所に立つ大矢さんの背中に抱きつきながら、
「行きます」
迷いを振り切り、宣言した。鏡の中の大矢さんが、驚いたような顔をしながら、「聖矢」と言った。
七時頃に出掛けよう、と言っていたのに、大矢さんの支度はいつまでも終わらない。とっくに準備が終わっている僕は、ソファで丸くなっている。八月も終わりに近くなると、夜はいくらか暑さが和らぐ。はーっと息を吐き出したその時、
「待たせたな。行こうか」
言われて僕は頷き、立ち上がった。何気なく壁の時計を見ると、もう八時を回っていた。僕は首を傾げたが、何も言わずに大矢さんとともに玄関に向かった。
公園の中を歩きながら、大矢さんは、
「遅くなって悪かったな。お腹、空いただろ?」
僕は首を振って、
「それは、大丈夫です。大矢さんが、具合が悪くなったんじゃないかと思って、ちょっと心配してました」
「聖矢、優しいんだな」
暗いのをいいことに、大矢さんは僕の肩を抱き寄せる。それだけで、ドキドキする僕はおかしいと思う。
駅を通り越して反対側に出ると、いつもと全く違う風景があり、驚いた。珍しくて、キョロキョロとしてしまう。
その時、僕たちの前方から、僕と同年代と思われる男女が、数人で楽し気に話しながら歩いてくるのが目に入った。僕はとっさに、大矢さんの影に隠れてしまった。あの人たちのことは何も知らないのに、同年代の楽しそうな人たち、というだけで、心臓が速く打ち始めてしまう。
大矢さんが、そんな僕の様子を見て、「大丈夫だよ」と低く言ってくれる。そう言われても、急に冷静にはなれなかったが、徐々に落ち着きを取り戻してきた。彼らは、僕なんか目にも入れずに騒ぎながら通り過ぎて行った。そして、それを目で見送った大矢さんが、ふっと笑って、
「ほら。だから、大丈夫だって言っただろ」
「はい」
僕たちは、しばらくその辺りを歩いていたが、大矢さんが急に立ち止まった。
「聖矢、ここでいいか?」
大矢さんがそう言ったのは、ファミリーレストランだった。他にも食べ物屋さんはいくらでもあるのに、何故ファミレスなのだろう? そう思わなくもなかったが、僕は、どこかホッとしていた。
大矢さんが連れて行ってくれる所が、僕にそぐわないような高級なお店だったらどうしよう、と思わなくもなかった。そういう畏まった空気の中で食事するのは、僕には無理だ。だから、こういうどこにでもあって、同じ商品を出してくれるファミレスのような所が、今は安心出来る。
大矢さんが、支度に時間が掛かっていたのも、きっとわざとだ、と確信した。僕を気遣って、少しでもピークの時間とずらそうとしてくれたのだろう、と思えた。
「はい。ここでいいです」
僕がそう答えると、大矢さんは僕に微笑んでから、ファミレスのドアを開けた。
「聖矢。今日は、オレたちが出会ってから一ヶ月経った大事な日だから、外で食事しないか?」
その日の朝、ベッドから起き上がった大矢さんが言った。僕は、急に心がざわざわしてしまった。
大矢さんを見つめながらも、返事出来ずにいた。大矢さんは、僕の髪をそっと撫でると、
「外食はまだ、ハードルが高いか?」
僕は胸に手を当てて、ざわつきを抑えようとしたが、出来なかった。そして、結局何も言えずに大矢さんを見ていた。
大矢さんが、大きく息を吐き出した。
「聖矢、ごめん。気にしないでいいから。さ、朝ごはん食べよう」
笑顔でそう言うと、ベッドから降りて、部屋を出て行った。僕も急いでベッドから起き上がると、大矢さんを追った。洗面所に立つ大矢さんの背中に抱きつきながら、
「行きます」
迷いを振り切り、宣言した。鏡の中の大矢さんが、驚いたような顔をしながら、「聖矢」と言った。
七時頃に出掛けよう、と言っていたのに、大矢さんの支度はいつまでも終わらない。とっくに準備が終わっている僕は、ソファで丸くなっている。八月も終わりに近くなると、夜はいくらか暑さが和らぐ。はーっと息を吐き出したその時、
「待たせたな。行こうか」
言われて僕は頷き、立ち上がった。何気なく壁の時計を見ると、もう八時を回っていた。僕は首を傾げたが、何も言わずに大矢さんとともに玄関に向かった。
公園の中を歩きながら、大矢さんは、
「遅くなって悪かったな。お腹、空いただろ?」
僕は首を振って、
「それは、大丈夫です。大矢さんが、具合が悪くなったんじゃないかと思って、ちょっと心配してました」
「聖矢、優しいんだな」
暗いのをいいことに、大矢さんは僕の肩を抱き寄せる。それだけで、ドキドキする僕はおかしいと思う。
駅を通り越して反対側に出ると、いつもと全く違う風景があり、驚いた。珍しくて、キョロキョロとしてしまう。
その時、僕たちの前方から、僕と同年代と思われる男女が、数人で楽し気に話しながら歩いてくるのが目に入った。僕はとっさに、大矢さんの影に隠れてしまった。あの人たちのことは何も知らないのに、同年代の楽しそうな人たち、というだけで、心臓が速く打ち始めてしまう。
大矢さんが、そんな僕の様子を見て、「大丈夫だよ」と低く言ってくれる。そう言われても、急に冷静にはなれなかったが、徐々に落ち着きを取り戻してきた。彼らは、僕なんか目にも入れずに騒ぎながら通り過ぎて行った。そして、それを目で見送った大矢さんが、ふっと笑って、
「ほら。だから、大丈夫だって言っただろ」
「はい」
僕たちは、しばらくその辺りを歩いていたが、大矢さんが急に立ち止まった。
「聖矢、ここでいいか?」
大矢さんがそう言ったのは、ファミリーレストランだった。他にも食べ物屋さんはいくらでもあるのに、何故ファミレスなのだろう? そう思わなくもなかったが、僕は、どこかホッとしていた。
大矢さんが連れて行ってくれる所が、僕にそぐわないような高級なお店だったらどうしよう、と思わなくもなかった。そういう畏まった空気の中で食事するのは、僕には無理だ。だから、こういうどこにでもあって、同じ商品を出してくれるファミレスのような所が、今は安心出来る。
大矢さんが、支度に時間が掛かっていたのも、きっとわざとだ、と確信した。僕を気遣って、少しでもピークの時間とずらそうとしてくれたのだろう、と思えた。
「はい。ここでいいです」
僕がそう答えると、大矢さんは僕に微笑んでから、ファミレスのドアを開けた。
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