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第二章 新たな道
第6話 知らない番号
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八月も半ばになった。大矢さんの家で暮らすようになって、もう少しで一ヶ月だ。このところ大矢さんは忙しいみたいで、帰りが遅いことが多かったのに、今日は七時頃に電話が掛かってきた。
「はい、聖矢です」
「聖矢。今日は、もう仕事が終わったよ。今から帰る」
「はい。気を付けて」
こんなに早く帰ってきてくれるなんて、と胸が高鳴る。大矢さんの帰りが遅いことや夏の暑さのせいで、僕は近頃ちょっと心の調子が悪かった。それなのに、こうして電話をもらっただけで気分が上がって来る。僕はキッチンに行くと、夕飯の支度に取り掛かった。
野菜を切っていると、スマホの着信音が鳴り始めた。大矢さんからはさっき掛かってきたばかりだし誰からだろう、と思いながら画面を見るが、知らない番号だった。
スマホを渡されてから、何回となく言われていることがある。
「知らない番号から掛かってきても、出るなよ」
だから僕は、出なかった。そのまま放っておくと、着信音が止まった。よかった、と思ったが、数分でまた同じ番号から掛かって来る。無視する。また掛かって来る、が何回も繰り返された。
もしかしたら、これは大矢さんに掛けて来てるのだろうか。ふと、そんな考えが浮かんだ。何しろこのスマホは大矢さんが契約したものだ。つまり、大矢さんの電話だ。誰かが大矢さんに掛けるつもりで、この電話に掛けているとは考えられないだろうか。
それが正しいような気がして、次に掛かってきたら出てみようと心に決めて、また野菜を切り始めた。
煮込み始めてすぐに、スマホの着信音が鳴り始めた。火を止めてから確認すると、番号はさっきと同じだった。僕は通話にして、「もしもし」と言おうとして口を開いたが、僕が何も言わない内に、不機嫌そうな女の人の声が聞こえてきた。
「ショウ? 私よ。約束の時間とっくに過ぎてるけど、何してるわけ? もう少し待っても来なかったら、帰るからね」
言うだけ言うと、いきなり通話を切ってしまった。呆気にとられて、しばらくスマホを眺めてしまった。
電話してきたあの女性は誰だろう? 大矢さんのことを、名前の湘太郎から取ったであろう『ショウ』と呼んでいた。それほどまでに、親しいということだろうか。やはり大矢さんに掛けて来ていたのか、と思ったその瞬間、彼女の言っていたことが頭に蘇り、心臓が凍り付いたような気になった。
そんなはずない。そう思おうとしたが、全然ダメだった。鼓動は速くなり、息苦しくなった。
僕は寝室に走って行き、ベッドに上がるとタオルケットを頭まで被って、目をきつく瞑った。何も考えたくない。そう思えば思うほど、さっきの声が頭の中で繰り返し響いてきて、僕を混乱させた。
「はい、聖矢です」
「聖矢。今日は、もう仕事が終わったよ。今から帰る」
「はい。気を付けて」
こんなに早く帰ってきてくれるなんて、と胸が高鳴る。大矢さんの帰りが遅いことや夏の暑さのせいで、僕は近頃ちょっと心の調子が悪かった。それなのに、こうして電話をもらっただけで気分が上がって来る。僕はキッチンに行くと、夕飯の支度に取り掛かった。
野菜を切っていると、スマホの着信音が鳴り始めた。大矢さんからはさっき掛かってきたばかりだし誰からだろう、と思いながら画面を見るが、知らない番号だった。
スマホを渡されてから、何回となく言われていることがある。
「知らない番号から掛かってきても、出るなよ」
だから僕は、出なかった。そのまま放っておくと、着信音が止まった。よかった、と思ったが、数分でまた同じ番号から掛かって来る。無視する。また掛かって来る、が何回も繰り返された。
もしかしたら、これは大矢さんに掛けて来てるのだろうか。ふと、そんな考えが浮かんだ。何しろこのスマホは大矢さんが契約したものだ。つまり、大矢さんの電話だ。誰かが大矢さんに掛けるつもりで、この電話に掛けているとは考えられないだろうか。
それが正しいような気がして、次に掛かってきたら出てみようと心に決めて、また野菜を切り始めた。
煮込み始めてすぐに、スマホの着信音が鳴り始めた。火を止めてから確認すると、番号はさっきと同じだった。僕は通話にして、「もしもし」と言おうとして口を開いたが、僕が何も言わない内に、不機嫌そうな女の人の声が聞こえてきた。
「ショウ? 私よ。約束の時間とっくに過ぎてるけど、何してるわけ? もう少し待っても来なかったら、帰るからね」
言うだけ言うと、いきなり通話を切ってしまった。呆気にとられて、しばらくスマホを眺めてしまった。
電話してきたあの女性は誰だろう? 大矢さんのことを、名前の湘太郎から取ったであろう『ショウ』と呼んでいた。それほどまでに、親しいということだろうか。やはり大矢さんに掛けて来ていたのか、と思ったその瞬間、彼女の言っていたことが頭に蘇り、心臓が凍り付いたような気になった。
そんなはずない。そう思おうとしたが、全然ダメだった。鼓動は速くなり、息苦しくなった。
僕は寝室に走って行き、ベッドに上がるとタオルケットを頭まで被って、目をきつく瞑った。何も考えたくない。そう思えば思うほど、さっきの声が頭の中で繰り返し響いてきて、僕を混乱させた。
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