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初恋編
第10話 電話
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今までやってきた所よりも、大きなライヴハウス。準備していたチケットは、全て売れた。外にはたくさんの人。開場して、その人たちが会場の中を埋めていく。
楽屋で才が溜息をついた。恭一が見ると、
「だってさ。たとえ町田さんが来てくれたとしても、この大きさじゃ彼女を認識できないんじゃないかなって。今日じゃない方が良かったかもね。ごめん。オレのミスだ」
「そんなことないよ。あの時、チケットくれて、ありがとう。来てもらえるかわからないし、全然自信はないけど、これで良かったと思ってる」
恭一は笑顔でそう言うと、
「それより、今日は記念すべき日だから、ぼく、頑張るよ」
「偉いね、キョウちゃん」
才が微笑みとともに言った。
時間となり声を掛けられた四人は、手を重ね頷き合うと、ステージに向かった。客電が落ちると、いっそう会場が湧いた。
スポットライトを浴びながら、確かにこの広さでは彼女を見つけるのは難しいな、と思う恭一だった。
平静を装って、その日のライヴを行なった。出来は上々だったと思う。ただ、結局彼女がいたのかどうか、わからないままだった。軽くへこむ恭一へ、
「ごめん。だから言っただろう。ミスだって」
「それは否定しない。でも、やっぱりありがとう」
反省してしまっているのか、才は普段より無口だ。
会場から出て、話をしながら歩いていると、電話が鳴った。画面を見ると、中学時代に仲の良かった金子からだった。
「久し振りだね。元気かい?」
恭一が訊くと、金子は、
「元気だよ。君も変わらないね。今日のライヴ、良かったよ。会場もすごく盛り上がってた。あの広い所を満員にするなんて、アスピリン、すごいね」
金子に褒められて、照れる。
「ありがとう。ずっと見て来てくれた君にそう言われると、自信を持てるよ。ぼくも、うちのバンド、いい波が来てると思ってる」
「そうだよね。そのうち、君たちプロになるんだろうね。
あ。違う。ぼくは、人助けで電話したんだった。今、ぼくの隣に、君と話をしたいと思ってる人がいるから、代わるね」
(ぼくと、話したい人?)
急に鼓動が速くなってきた。
電話から聞こえてきたのは、やはり町田かよ子の声だった。
「こんばんは。今日、ちゃんと静流と一緒にライヴに行ったのよ。でも、私がどこにいたかなんて、わからなかったでしょう? どうにか矢田部くんと話したいと思ってたら、金子くんが声をかけてくれて。『何かお困りですか』って。すごく丁寧に。私、よほど、困った顔してたのね。道に迷ったと思ったのかしら」
ダメだろうと思っていたのに、来てくれていた。心臓が急に速く打ち出した。来てくれたということは、そういうことだろうか。
「あの……町田さん。来てくれたってことは……」
ぼそぼそと言ったが、彼女は、「なあに、矢田部くん?」と言った。聞こえなかったようだ。もう一度言おうとして口を開いたが、
「私がライヴに行ったって証明してあげる。半券見せるから、これから会ってください」
電話を少し遠ざけて、「会ってくれるって」と三人に向かって言った。
「どうしたらいいかな?」
恭一の言葉に、才が大きく息を吐き出した。そして、肩をすくめると、
「どうしたらって……。そうだな。この前のファミレスに集合するの、どう? ほら。町田さんにそう言いなよ」
恭一は慌てながらも才の提案をかよ子に告げると、
「わかりました。今から行くね」
通話が切れた。緊張が一気に解かれた。
才が恭一の肩をぽんと叩いた。そして、微笑を浮べると、「じゃ、行こう」と言った。恭一は頷き、才たちとともに歩き出した。
楽屋で才が溜息をついた。恭一が見ると、
「だってさ。たとえ町田さんが来てくれたとしても、この大きさじゃ彼女を認識できないんじゃないかなって。今日じゃない方が良かったかもね。ごめん。オレのミスだ」
「そんなことないよ。あの時、チケットくれて、ありがとう。来てもらえるかわからないし、全然自信はないけど、これで良かったと思ってる」
恭一は笑顔でそう言うと、
「それより、今日は記念すべき日だから、ぼく、頑張るよ」
「偉いね、キョウちゃん」
才が微笑みとともに言った。
時間となり声を掛けられた四人は、手を重ね頷き合うと、ステージに向かった。客電が落ちると、いっそう会場が湧いた。
スポットライトを浴びながら、確かにこの広さでは彼女を見つけるのは難しいな、と思う恭一だった。
平静を装って、その日のライヴを行なった。出来は上々だったと思う。ただ、結局彼女がいたのかどうか、わからないままだった。軽くへこむ恭一へ、
「ごめん。だから言っただろう。ミスだって」
「それは否定しない。でも、やっぱりありがとう」
反省してしまっているのか、才は普段より無口だ。
会場から出て、話をしながら歩いていると、電話が鳴った。画面を見ると、中学時代に仲の良かった金子からだった。
「久し振りだね。元気かい?」
恭一が訊くと、金子は、
「元気だよ。君も変わらないね。今日のライヴ、良かったよ。会場もすごく盛り上がってた。あの広い所を満員にするなんて、アスピリン、すごいね」
金子に褒められて、照れる。
「ありがとう。ずっと見て来てくれた君にそう言われると、自信を持てるよ。ぼくも、うちのバンド、いい波が来てると思ってる」
「そうだよね。そのうち、君たちプロになるんだろうね。
あ。違う。ぼくは、人助けで電話したんだった。今、ぼくの隣に、君と話をしたいと思ってる人がいるから、代わるね」
(ぼくと、話したい人?)
急に鼓動が速くなってきた。
電話から聞こえてきたのは、やはり町田かよ子の声だった。
「こんばんは。今日、ちゃんと静流と一緒にライヴに行ったのよ。でも、私がどこにいたかなんて、わからなかったでしょう? どうにか矢田部くんと話したいと思ってたら、金子くんが声をかけてくれて。『何かお困りですか』って。すごく丁寧に。私、よほど、困った顔してたのね。道に迷ったと思ったのかしら」
ダメだろうと思っていたのに、来てくれていた。心臓が急に速く打ち出した。来てくれたということは、そういうことだろうか。
「あの……町田さん。来てくれたってことは……」
ぼそぼそと言ったが、彼女は、「なあに、矢田部くん?」と言った。聞こえなかったようだ。もう一度言おうとして口を開いたが、
「私がライヴに行ったって証明してあげる。半券見せるから、これから会ってください」
電話を少し遠ざけて、「会ってくれるって」と三人に向かって言った。
「どうしたらいいかな?」
恭一の言葉に、才が大きく息を吐き出した。そして、肩をすくめると、
「どうしたらって……。そうだな。この前のファミレスに集合するの、どう? ほら。町田さんにそう言いなよ」
恭一は慌てながらも才の提案をかよ子に告げると、
「わかりました。今から行くね」
通話が切れた。緊張が一気に解かれた。
才が恭一の肩をぽんと叩いた。そして、微笑を浮べると、「じゃ、行こう」と言った。恭一は頷き、才たちとともに歩き出した。
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