17 / 18
第17話 涙の理由
しおりを挟む
「今朝、オレが泣いてたの、おまえ見ただろう。何か訊かれるかと思ったけど、見なかったことにしてくれるんだな。優しいよな、おまえ」
「それも……聞いたことがない言葉です。僕、優しいんですか? 僕はただ、よけいなこと言ったらいけないと思って……」
「でもさ、本当はちょっと寂しかったな。訊いてほしいって気持ちが、どこかにあるんだろうな。泣き言を聞いてほしいって気持ちが」
「僕でよかったら、聞かせて下さい。どうして、今朝は泣いてたんですか」
聖矢の質問に、うっかりまた涙が流れ出しそうになった。が、必死でこらえて、
「お袋の夢を見たんだ。あの人は、オレが十歳の頃に出て行った。オレの知らない男の所に行っちゃったんだ。親父は、仕事人間で、朝から晩まで働いてた。それも、楽しそうに。お袋は、たぶん、寂しかったんだろうよ。夢の中で、最初オレは、彼女の気持ちに対して、わかるよって、そういう感じだった。だけどさ、いきなり感情が溢れ出してきたんだよ。小さい頃の、オレの哀しさ、寂しさみたいなものが。それで、オレは彼女を詰った。彼女は、「ごめんね」って、何度も言った後、『湘ちゃん。大好きだからね』って、抱き締めてくれたんだ。その温かさ。心が氷解していく感じだった。だから、泣いてたんだ。で、目を覚ましたら、おまえがオレの手を握っていた。それはそうだよな。寝る前、オレたち、手を握り合ったんだから。だけどさ、おまえのその手の温もりが、オレにあんな夢を見させたんだと思う。オレは……」
そこまで言って、さすがにためらった。昨日の夜出会ったばかりの少年に、自分は何を言おうとしているのだろうか。
大矢は首を振って、聖矢から離れた。そうされて、聖矢は戸惑いの表情を浮べて、
「大矢さん?」と言った。
「オレは、馬鹿みたいだ。おまえに、何を言おうとしたんだ。だめだ」
「大矢さん。何て言おうとしたんですか? 僕は、続きが聞きたいです」
真剣な目で見られて、大矢は目をそらすしかなかった。
「大矢さんは、言ってくれましたよね。ここでは、おまえの思う通りにしていいって。言いたいことを言っていいって。言ってくれましたよね。じゃあ、大矢さんが見本になってください。大矢さんは、何を言おうとしたんですか」
「ごめん。これは、たぶん言わない方がいい気がする」
「言ってみてください」
繰り返し言われて、大矢は諦めた。深呼吸をしてから、聖矢のそばに戻り、手を握った。
「それも……聞いたことがない言葉です。僕、優しいんですか? 僕はただ、よけいなこと言ったらいけないと思って……」
「でもさ、本当はちょっと寂しかったな。訊いてほしいって気持ちが、どこかにあるんだろうな。泣き言を聞いてほしいって気持ちが」
「僕でよかったら、聞かせて下さい。どうして、今朝は泣いてたんですか」
聖矢の質問に、うっかりまた涙が流れ出しそうになった。が、必死でこらえて、
「お袋の夢を見たんだ。あの人は、オレが十歳の頃に出て行った。オレの知らない男の所に行っちゃったんだ。親父は、仕事人間で、朝から晩まで働いてた。それも、楽しそうに。お袋は、たぶん、寂しかったんだろうよ。夢の中で、最初オレは、彼女の気持ちに対して、わかるよって、そういう感じだった。だけどさ、いきなり感情が溢れ出してきたんだよ。小さい頃の、オレの哀しさ、寂しさみたいなものが。それで、オレは彼女を詰った。彼女は、「ごめんね」って、何度も言った後、『湘ちゃん。大好きだからね』って、抱き締めてくれたんだ。その温かさ。心が氷解していく感じだった。だから、泣いてたんだ。で、目を覚ましたら、おまえがオレの手を握っていた。それはそうだよな。寝る前、オレたち、手を握り合ったんだから。だけどさ、おまえのその手の温もりが、オレにあんな夢を見させたんだと思う。オレは……」
そこまで言って、さすがにためらった。昨日の夜出会ったばかりの少年に、自分は何を言おうとしているのだろうか。
大矢は首を振って、聖矢から離れた。そうされて、聖矢は戸惑いの表情を浮べて、
「大矢さん?」と言った。
「オレは、馬鹿みたいだ。おまえに、何を言おうとしたんだ。だめだ」
「大矢さん。何て言おうとしたんですか? 僕は、続きが聞きたいです」
真剣な目で見られて、大矢は目をそらすしかなかった。
「大矢さんは、言ってくれましたよね。ここでは、おまえの思う通りにしていいって。言いたいことを言っていいって。言ってくれましたよね。じゃあ、大矢さんが見本になってください。大矢さんは、何を言おうとしたんですか」
「ごめん。これは、たぶん言わない方がいい気がする」
「言ってみてください」
繰り返し言われて、大矢は諦めた。深呼吸をしてから、聖矢のそばに戻り、手を握った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ずっと、一緒に
ヤン
BL
音楽大学に通う吉隅ワタル。バイオリン科の油利木和寿の伴奏をするようになって一年。彼と演奏することで、音楽することの楽しさをより実感していた。と同時に、彼の存在が気になって仕方なくなる。が、彼にはワタルと同じピアノ科に彼女がいて…。

大矢さんと僕
ヤン
BL
それまでの全てが嫌になって家出をしてきた「僕」は、大矢湘太郎という男性と出会い、一緒に暮らすことになった。心に深い傷を負っている「僕」が、大矢や周りの人たちと接していく内に、少しずつ癒されていく物語です。
※拙作『運命の人』の裏表の作品になります。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

君との果てに
喜市
BL
長年、村木に好意を寄せる神田は帰り道、村木の意味深な言動に違和感を覚えた。そのまま分かれ道を過ぎ、家に帰った神田は帰り際に村木が放った言葉が引っかかり、村木の元へ向かう。だが、そこにいた村木は…
愛は重いがバレないようにしたい神田×闇が深めな頑張り屋村木
⚠死ネタありです。苦手な方は回れ右推奨。
※血の表現が入りますご注意ください
読んでいただければ幸いです!

寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる