12 / 18
第12話 いら立ち
しおりを挟む
部屋に招き入れると、津島をリビングのソファに座らせた。聖矢はリビングまでついてきたものの、またトイレに駆け込んでいた。それを、津島は黙って見送っていた。
案の定、さっきと同じような苦し気な声が聞こえてきた。津島は、真顔のままで何も言わない。大矢は、津島の横にやや乱暴に座ると、目つきをきつくして、
「さっきから、あの調子です。先生と電話で話してからずっと、です。先生。他人のオレが言うことじゃないですけど、先生は、親の責任を果たしてくれたんですか? 何であの子は、声も出さずに泣くんですか? 話す時も、人の顔色を窺うし、自分の意見を言ったらいけないと思ってるみたいです。あの子は、普通に生きてきたんですか? 引き取ったのに、責任を取ってくれなかったんですか? それは、どういうことですか?」
大矢の言葉に津島は、「そうですね」と言った。その時、聖矢が出てきた音が聞こえた。大矢は津島に、「失礼」と声を掛けてから、洗面所に向かった。
「聖矢。大丈夫か?」
大丈夫ではないと知りながら、他に言うべき言葉が見つからない。そんな自分にいら立ち、大矢はつい舌打ちしてしまった。すると、聖矢はびくっとして、体を固めてしまった。大矢は、あわてて、
「ごめん。違うんだ。オレは、自分が嫌になっただけなんだ。おまえにいら立ってる訳じゃない。そんな顔しなくて大丈夫だから」
自分のうかつな行動に、腹が立った。大矢が手を伸ばしても、聖矢は手を出してくれない。大矢が一歩近づくと、一歩下がった。顔には、出会った時と同じような、恐怖の色が見て取れた。
「聖矢。ごめん。オレが悪かった」
言って、大矢は聖矢の腕を無理矢理に引いて、強く抱き締めた。彼は、「離して」と、小さな声で言ったが、離さなかった。その内に、聖矢の力が抜けて来て、頭を大矢の肩にもたせ掛けてきた。
「大矢さん。ごめんなさい」
泣きそうな声であやまってきた。大矢は首を振って、「おまえは何も悪くない」と囁くように言った。
「聖矢。とりあえず、寝室に行こう。おまえは、ちょっと体を休めた方がいいと思う」
聖矢の頭を軽く撫で体を離すと、大矢は聖矢の手を、しっかりと握った。
案の定、さっきと同じような苦し気な声が聞こえてきた。津島は、真顔のままで何も言わない。大矢は、津島の横にやや乱暴に座ると、目つきをきつくして、
「さっきから、あの調子です。先生と電話で話してからずっと、です。先生。他人のオレが言うことじゃないですけど、先生は、親の責任を果たしてくれたんですか? 何であの子は、声も出さずに泣くんですか? 話す時も、人の顔色を窺うし、自分の意見を言ったらいけないと思ってるみたいです。あの子は、普通に生きてきたんですか? 引き取ったのに、責任を取ってくれなかったんですか? それは、どういうことですか?」
大矢の言葉に津島は、「そうですね」と言った。その時、聖矢が出てきた音が聞こえた。大矢は津島に、「失礼」と声を掛けてから、洗面所に向かった。
「聖矢。大丈夫か?」
大丈夫ではないと知りながら、他に言うべき言葉が見つからない。そんな自分にいら立ち、大矢はつい舌打ちしてしまった。すると、聖矢はびくっとして、体を固めてしまった。大矢は、あわてて、
「ごめん。違うんだ。オレは、自分が嫌になっただけなんだ。おまえにいら立ってる訳じゃない。そんな顔しなくて大丈夫だから」
自分のうかつな行動に、腹が立った。大矢が手を伸ばしても、聖矢は手を出してくれない。大矢が一歩近づくと、一歩下がった。顔には、出会った時と同じような、恐怖の色が見て取れた。
「聖矢。ごめん。オレが悪かった」
言って、大矢は聖矢の腕を無理矢理に引いて、強く抱き締めた。彼は、「離して」と、小さな声で言ったが、離さなかった。その内に、聖矢の力が抜けて来て、頭を大矢の肩にもたせ掛けてきた。
「大矢さん。ごめんなさい」
泣きそうな声であやまってきた。大矢は首を振って、「おまえは何も悪くない」と囁くように言った。
「聖矢。とりあえず、寝室に行こう。おまえは、ちょっと体を休めた方がいいと思う」
聖矢の頭を軽く撫で体を離すと、大矢は聖矢の手を、しっかりと握った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
解放
papiko
BL
過去にCommandされ、名前を忘れた白銀の髪を持つ青年。年齢も分からず、前のDomさえ分からない。瞳は暗く影が落ち、黒ずんで何も映さない。
偶々、甘やかしたいタイプのアルベルに拾われ名前を貰った白銀の青年、ロイハルト。
アルベルが何十という数のDomに頼み込んで、ロイハルトをDropから救い出そうとした。
――――そして、アルベル苦渋の決断の末、選ばれたアルベルの唯一無二の親友ヴァイス。
これは、白銀の青年が解放される話。
〘本編完結済み〙
※ダイナミクスの設定を理解してる上で進めています。一応、説明じみたものはあります。
※ダイナミクスのオリジナル要素あります。
※3Pのつもりですが全くやってません。
※番外編、書けたら書こうと思います。
【リクエストがあれば執筆します。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる