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画面越しの君 その3
しおりを挟む~食事会、会場内~
建物内の廊下は赤いカーペットが敷き詰められており、歩くことが憚れる程綺麗であった。
「うわっ、凄い……」
そんなカーペットをものともせず、歩いていく両親に対し、一瞬アルスは足を踏み込むのをためらう。
「アルス。この会場は広いから迷子になると大変です。ちゃんと付いてきなさい」
サラに声をかけられると、カーペットへ慌てて足を踏み出す。
貴族の生活にも慣れてきたと思ったが、こういう所で前世の感覚が戻ってくるよな。
アルスは高級そうなカーペットを土足で上がるという行為に違和感を覚えていたが、そんなことはどうでもいいと気持ちを追い出し、二人の背中に追いつこうと歩くスピードを上げる。
それから長い長いカーペットを進んでいくと、視線の先に豪華な装飾に彩られた扉が映る。
あれが目的地だな。
またもや豪華で重厚そうな扉が顔を見せ、その両脇に甲冑を被った兵士が鎮座する場所へもうすぐで着くという時。
「アルス。準備はいいか」
ガイルが後ろを振り返らず、アルスへ声をかける。
「はい。いつでもいけます」
「ふっ。そうか」
今、お父様が笑った気がする。
アルスの成長を喜んでいるのだろうか。ガイルは小さく笑みを覗かせた様子で扉の前まで歩いていくと。
「アルザニクス家のガイル様とサラ様とアルス様でお間違えないでしょうか」
右に佇んでいた兵士が兜から。
――ギラリ、と目を覗かせ、質問する。
「あぁ、違いない」
ガイルが代表して返事を返すと、両脇の兵が視線を交わし、頷く。
「分かりました。では、今お開けします」
左に佇んでいた兵士が扉の向こう側に向けて声をあげる。
「アルザニクス家。ガイル・ゼン・アルザニクス様、サラ・ゼン・アルザニクス様、アルス・ゼン・アルザニクス様。入場いたします!」
ガチャ……
名乗りをあげたと同時に中から歓声が聞こえ、両開きの扉がゆっくり開き始める。
この扉の向こうには大勢の貴族が……
今更になってアルスの両手が震え、緊張を帯びる。
しっかりするんだ俺。堂々と前を向き、背筋を伸ばして……
「アルス」
「は、はい?」
お父様?
ガイルがアルスに声をかける。
「最初は緊張すると思うが、お前も立派なアルザニクス家の一員。だから自信を持って歩くんだ」
自信……か。久しく聞かなかった言葉だ。
前世では自信などありはしない生活を送ってきた。しかし、転生という機会に恵まれ、親として尊敬できる方の元に生まれる事が出来た。そんな自慢の親に『自信を持て』なんて言われたら、張り切らない子供が一体どこにいるんだ。
「……はい!」
その一言で緊張がピタリと止む。
そうだ……。俺も今やアルザニクス家の一員。それにこのぐらいで緊張していてどうする俺。
これから自身に待ち受けるであろう、数々の試練を思い出し、こんな事ぐらいで負けていられないとアルスは自身に喝をいれ、堂々と前を向く。
扉は既に半分が開かれているが、向こう側は明るすぎて何も見えないな。
アルスにとって未知の世界。
「さぁ、いくぞ」
「えぇ」「……」
サラは返事をし、アルスは無言で頷く。
こうしてガイルは扉の向こう側へ一歩を踏み入れ、慣れた様子で歩いていき、サラも臆することなくガイルに続く。
「ふぅ……」
よし。いこう。
そしてアルスも息を小さく吸い、呼吸を整え、二人に続くのであった。
建物内の廊下は赤いカーペットが敷き詰められており、歩くことが憚れる程綺麗であった。
「うわっ、凄い……」
そんなカーペットをものともせず、歩いていく両親に対し、一瞬アルスは足を踏み込むのをためらう。
「アルス。この会場は広いから迷子になると大変です。ちゃんと付いてきなさい」
サラに声をかけられると、カーペットへ慌てて足を踏み出す。
貴族の生活にも慣れてきたと思ったが、こういう所で前世の感覚が戻ってくるよな。
アルスは高級そうなカーペットを土足で上がるという行為に違和感を覚えていたが、そんなことはどうでもいいと気持ちを追い出し、二人の背中に追いつこうと歩くスピードを上げる。
それから長い長いカーペットを進んでいくと、視線の先に豪華な装飾に彩られた扉が映る。
あれが目的地だな。
またもや豪華で重厚そうな扉が顔を見せ、その両脇に甲冑を被った兵士が鎮座する場所へもうすぐで着くという時。
「アルス。準備はいいか」
ガイルが後ろを振り返らず、アルスへ声をかける。
「はい。いつでもいけます」
「ふっ。そうか」
今、お父様が笑った気がする。
アルスの成長を喜んでいるのだろうか。ガイルは小さく笑みを覗かせた様子で扉の前まで歩いていくと。
「アルザニクス家のガイル様とサラ様とアルス様でお間違えないでしょうか」
右に佇んでいた兵士が兜から。
――ギラリ、と目を覗かせ、質問する。
「あぁ、違いない」
ガイルが代表して返事を返すと、両脇の兵が視線を交わし、頷く。
「分かりました。では、今お開けします」
左に佇んでいた兵士が扉の向こう側に向けて声をあげる。
「アルザニクス家。ガイル・ゼン・アルザニクス様、サラ・ゼン・アルザニクス様、アルス・ゼン・アルザニクス様。入場いたします!」
ガチャ……
名乗りをあげたと同時に中から歓声が聞こえ、両開きの扉がゆっくり開き始める。
この扉の向こうには大勢の貴族が……
今更になってアルスの両手が震え、緊張を帯びる。
しっかりするんだ俺。堂々と前を向き、背筋を伸ばして……
「アルス」
「は、はい?」
お父様?
ガイルがアルスに声をかける。
「最初は緊張すると思うが、お前も立派なアルザニクス家の一員。だから自信を持って歩くんだ」
自信……か。久しく聞かなかった言葉だ。
前世では自信などありはしない生活を送ってきた。しかし、転生という機会に恵まれ、親として尊敬できる方の元に生まれる事が出来た。そんな自慢の親に『自信を持て』なんて言われたら、張り切らない子供が一体どこにいるんだ。
「……はい!」
その一言で緊張がピタリと止む。
そうだ……。俺も今やアルザニクス家の一員。それにこのぐらいで緊張していてどうする俺。
これから自身に待ち受けるであろう、数々の試練を思い出し、こんな事ぐらいで負けていられないとアルスは自身に喝をいれ、堂々と前を向く。
扉は既に半分が開かれているが、向こう側は明るすぎて何も見えないな。
アルスにとって未知の世界。
「さぁ、いくぞ」
「えぇ」「……」
サラは返事をし、アルスは無言で頷く。
こうしてガイルは扉の向こう側へ一歩を踏み入れ、慣れた様子で歩いていき、サラも臆することなくガイルに続く。
「ふぅ……」
よし。いこう。
そしてアルスも息を小さく吸い、呼吸を整え、二人に続くのであった。
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