鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが～ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい！～

一握りの存在 その2

『皆様！　長らくお待たせしました！　本日のラストイベント。主催者側が厳選に厳選を重ね、普段では滅多にお目にかかれないような奴隷を3人、準備いたしました！』

「もうラストイベントか……」

　王都奴隷オークションでは、毎回最後にラストイベントと称し、他の奴隷とは一線を画すほどの、通常ではお目にかかれないような人物を出品する。ただ、そのような奴隷がいない場合はラストイベントは開催されない。

　今回は3人……、当たり年か。

　司会進行役が話すと同時に、壮大な演出がオークション会場を包む。

「6番と競ってたら最後のラストイベントになったじゃんか。……どんな奴隷が出てくるんだか」

　ラストイベントの商品である奴隷は事前情報が何も公開されない。

　だからこそ、ラストイベントに近づくにつれて楽しさが倍増していくんだよな。

　ため息を零し、無意識に頬杖をつきながらも、内心ワクワクが止まらないアルス。

『まず一人目はこの方！　3年前、東方の地で戦争が勃発し、つい最近になって、その戦争が終結したのをご存じでしょうか？　敗国は取り潰され、王族は皆、軒並み処刑されたとなっていましたが、なんと王妃だけは処刑されていなかったのです！　なぜなら、その王妃はあまりにも美しすぎた！　しかも、戦争の発端はその王妃の奪い合いからだと言うじゃありませんか！　そんな王妃がどんな運命の巡り合わせか、今この場に居ます！　さて、皆様はいくら、王妃に出すのでしょうか！　では、聖金貨1枚からのスタートです！』

　そんな司会進行役の一声から、多くの客がこぞって値段を釣り上げていく。

　その光景をVIP席で見ていたアルスはというと。

「うん。確かに美しいとは思うけど、お金はかけたくないよね」

　淡々とした表情でこんな事を言っていた。

「何だい？　この美しい私がいればいいとかそうゆうことかい？」

　するとミネルヴァは、ニヤニヤしながらアルスに抱き着く。

「違いますって！　うわっ！　酒臭い！　離れてください！」

　ミネルヴァは酒を飲み過ぎて、オークション前の美しい姿から一変して、少し残念な美女へとグレードダウンしていた。

　どんだけ飲んだんだ？　この人。

「アルス様、私にお任せください。ほらっ！　アルス様から離れろ！」

　アルス達がいちゃついている間に、王妃の値段は落札されており、値段は聖金貨7枚だった。

『続きまして……』

　次に登場したのは、豪商の娘で、傾国美女と呼ばれた女性だった。最終的にこの女性は聖金貨5枚と大金貨2枚という、王妃よりも安い値段で落札されていた。


『皆様……、次の奴隷で本日最後となります』

「え……、もうラスト？」

　まだ一度も落札していないのに、次がラストだと信じられないアルス。

「最低でも一人は落札したかったのに……」

　最後の一人がまだ登場していないにも関わらず、すでに諦めムードのアルス。

『皆様はこの世界に、人間の他にも、獣人やドワーフなど、人間種以外の者達が存在することはもちろんご存じでしょう』

　当たり前だ。前世では色々な種族が登場する事がきっかけで大ブレイクしたゲームだったからな。

『その中でも選ばれた者達。一握りの存在である、種を超越したと言われる存在。超越種と呼ばれる者たちを皆さんはご存じでしょうか？』

「超越種？」「………」

　エバンは分からないと言った表情。ミネルヴァは何とも言い難い表情でメインステージへと視線を向ける。

「超越種……」

　アルスは口のなかに溜まった唾を飲み込み、ゆっくり席を立つ。

　超越種。それは、種を超越した者達を総称してそう言われる。ヒューマンや獣人(ビースト)、ドワーフやエルフ等の中でも突然変異で生まれてきたり、獣人やドワーフ、エルフなどでは主に王の一族がその力を代々受け継いでいると言われている。そのため、数が非常に少なく、いたとしても種族の中で大切に育てられるのがほとんどであるため、表舞台に出てくることはほとんどない。

　ここで疑問に思った人もいるだろう。なぜその者達が超越種と言われているのだろうか……、と。その答えは……

「あまりにも強すぎるからだ……」

　そう。あまりにも強すぎるのである。

　その者達は神から愛されてるかの如く、ステータスが軒並み高い者ばかりである為、グレシアスでは、見かけたら絶対仲間にしろと言われていたほどである。

　また、超越種と呼ばれる者達はヒューマンや獣人(ビースト)、ドワーフやエルフなどと呼ばれることは無く。ハ・イ・ヒューマン、ハ・イ・ビースト、ハ・イ・ドワーフ、ハ・イ・エルフなどと敬意と羨望を込めてそう呼ばれる。その為、神に選ばれた特別な者達なのだと言っても過言ではないだろう。

『皆さんがご存じの超越種の中でも、特別に容姿が優れていると言われている、ハイエルフ。入手経路は秘密ですが、ある伝手をたどり、今現在こちらに居ます！』

　ステージが暗転する。

　だが、ステージ上に存在する光。スポットライトを当てられていないのにも光輝く、神々しささえも感じる美少女が立っていた。

　その少女は、触れたら崩れてしまうのではないかと錯覚するほど儚く、神が具現化したのではないかというほど、完成されられた美を兼ね備えていた。その上、小顔で手足は長細く、それでいて程よく筋肉も付いている。また、髪は薄白い金髪で、目の色はコバルトブルー。そして、一番の特徴は尖った耳である。しかし、エルフよりも2倍ほど長い耳は、どこか不気味さも兼ね備えていると言ってもいいだろう。

　その彼女は、VIP席からでも震えているのが分かるほど怯えており、庇護したいという趣味がある人物が見たら卒倒してしまうほど破壊力がある。その趣味がないアルスでも家に匿って世話をしてあげたい衝動が込み上げてくるほどである。

　その衝動を抑え、心の奥底へと飲み込むと、途端にその少女が心配になったアルスだったが、すぐさま鑑定をしたアルスにはそのようなことはどうでも良くなってしまった。

「っっ！？　この子だけは必ず手に入れないと……」

　アルスの鬼気迫る様子に、エバンはもちろん。飲みつぶれていたミネルヴァさえも、冷静さを取り戻す。



　～同時刻のオークション会場～

「超越種……、それに加えあの容姿にこのステータス……、何としても欲しい……」

　その人物はアルスと同じ最上級の鑑定眼鏡を掛けて、VIP席からその様子を確認していた。

「彼女が手に入れば王・国・戦・争・イ・ベ・ン・ト・を乗り越えられたも同然……。必ず手に入れる」
　
　このオークション会場で、彼女の真価を知る者はアルスともう一人のみ……、他にも彼女の容姿に惑わされてた者も大勢いるため、落札の値が吊り上がることになるのは言うまでもないだろう。


　果たして誰が彼女を手に入れられるのか……。注目である。