最強と謳われた男、幼馴染に敗北す~魔王を倒した俺だったが、恋という感情が理解できないのは何故なのだろうか~

ガクーン

文字の大きさ
上 下
2 / 3

不器用で無自覚

しおりを挟む
「ふっ! ふっ! ふっ!」

 三万五百三十一……三万五百三十二……

 心の中で剣を振った回数を数えていく。

 世界は平和になり、無用となった己の力。前までは身を守る事を目的。そして、魔王を討伐するという思い出我武者羅に素振りをしていた俺であったが、何故か今も義務の様に素振りを行っていた。


 別にこんな面倒な事やらなくてもいいのに……

 淡々と素振りをこなしながら自問自答を繰り返す。

 楽しくなんかないし、昼寝と称して惰眠を貪っていた方が楽で気持ちいい。


 手を一切止める事無く、平和になったその日から考えている事を再度思考する。


 だけど俺は何故……

 何度も己に問いかけた疑問。その度に答えに出会えず、考えるのを放棄した問題。

 アイクは無表情で全身から汗を発しながら回数を数える。


 というか……


「ふっ! ふっ……おい」

 突然、アイクは素振りをする手を止め、茂みへと視線を向ける。


「いるのは分かってる。出てこい」

 不自然な気が漂い、小さな物音がたびたび聞こえてきた場所に視線を向ける。


 それから数秒後。


「やっぱりバレてたか」

 観念した様子で出てくるミンファ。


「最初からバレバレだ」

 三万四千を超えたあたりからいたか。

 ミンファだったから見逃していたが、流石にずっとは気になって素振りもしてられん。


 そんなミンファは一瞬俺の顔を見て、目を逸らす。


 この仕草は……

 小さい頃からの付き合いである俺にとって、非常に見慣れた彼女の仕草。


 いつもは目を逸らさないミンファが俺の目を見ないという事は……何かを隠しているな。

 当の本人は何も気づいていないのか、俺の顔を見て視線を逸らすという行為を無意識に何度も繰り返し、俺との会話を続けていた。


「おい……」

「うん? どうかした?」

 どうかしたって……

 俺は頭を抱えながら。


「話せ」

「え?」

「だから話せと言っているんだ」

「一体何のこと?」

 こいつ……この状況でまだ隠そうと言うのか。


 口下手なアイクと、アイクの言わんとすることを本当に理解していないミンファ。


「だから……俺に隠している事を話せと言ってるんだ」

「っ!」

 顔を真っ赤にし、俯くミンファ。


 しまった……何かやってしまったか?

 傷つけようなんて意図は全くないのだが。

 ミンファを傷つける気は一切ないアイク。

 自分が口下手な事を理解しているアイクは、相手に悪いと思いながらも思った事をぶつけていくタイプなのだ。


 こういう時はどうすれば……

 困ったアイクは仕方なく、ミンファへと近づき。


「っ! アイク!?」

 俯く彼女の頭を豆だらけのゴツゴツの手で優しく撫でる。


「別にお前を傷つけようとした訳じゃないんだが……」

「ううん! 違うの! ただ一緒に買い物に行ってくれないかなと思っただけで!」

 撫でられたミンファは少し硬直したのち、大慌てで頭を上げ、本音を言う。


「……なんだ。そんな事か」

「そ、そんな事かって……」

 ミンファはプルプルと震え、ほっぺたを膨らませる。


「どうせ、日課の素振りがどうとか言って……「いいぞ」……え?」

 またもや固まるミンファ。そして、信じられないと言った様子で目を少し潤ませながら。


「ホントに!? 今言った事、後から嫌だって言っても無効だからね!」

 勢いよくアイクに迫る。


「あ、あぁ……」

 そんなミンファにタジタジのアイク。

 するとミンファはパッと花を咲かせたかのような笑みを浮かべ。


「やった! じゃあ、約束だからね! 場所は……」

 一方的に場所と時間を指定し、何処かへと去っていったのであった。


「……ふぅ」

 ミンファの姿が見えなくなり、一息をつく。

 俺にここまで迫れるのは母とミンファの二人ぐらいだろう。

 アイクは剣を下ろし、ドサッと地面に座り込む。


「……少し休憩したら残りの素振りをこなして、あいつの買い物に付き合わないとな」

 数分、空に浮かぶ雲の動きを観察しながら息を整えたアイクは残りの日課を消化する為、再度剣を振り始めるのであった。


~~~

「ミンファとの待ち合わせ場所は……ここか?」

 待ち合わせ時間よりも20分早く来たアイク。そして、目の前には大きく『愛とファンダラの蜜』の看板が立っていた。


 愛……は分かるが、ファンダラとは何だ? 人名か?

 不思議な店名もあるものだと言った様子で店内へと入って行くアイク。


「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」

 店内は和気あいあいとしており、何故かお客のほとんどが男女連れ。


「ミンファという女性が先に来ていると思うのだが……」

「ちょっとお待ちください」

 そう言ってウェイトレスが店の奥へと入って行く。


 やはり20分前は早すぎたのではないだろうか。それに、この格好も……



~遡るは1時間前~

「ただいま」

「あら、お帰り。今日は早かったね」

 アイクの母がリビングで出迎える。


「ちょっと用事が……」

「っ! それってまさか……ミンファちゃんとじゃないだろうね?」

 鋭い一言。思ってもみなかった発言にアイクはビクッと一瞬停止し。


「やっぱりミンファちゃん関連なんだね。私に話して……」

 母に話すと面倒だ。ここは無視して……


「……部屋に戻る」

 何も語らずその場を離れようとするが……


「ちょっと待ちな」

 母に肩を掴まれ。


「まさか……この格好で出かけようだなんて考えてないだろうね?」

「いや、荷物を置いてこのまま行こうと思っていたんだが……」

 すると母は手を頭に当て。


「ほんとこのバカ息子は……まずはちゃっちゃと風呂に入ってきな! 服はこっちで用意しておくから。あと、待ち合わせは何時だい?」

「あ、あぁ。時間は――」

「っ! もうそんなに時間がないじゃないか! ったく、こんな時間まで素振りなんてして……」

 まだ1時間前じゃないか……

 アイクは時計に目をやり、何故母がそこまで落胆しているかが分からない様子。


「ほらっ! 早くしてきな」

 そうして風呂に入る事を強要されながら、母が用意した服を着て準備を終える。


「さっきより良くなったじゃないかい」

「……そうか?」

 鏡の前で自身の服装を再確認するアイク。


「動きづらそうだしさっきの服装の方が……」

「もうほんとこの子ったら。さっさとミンファちゃんと待ち合わせの場所に行ってきな」

「まだ40分前……「いいから!」」

 こうしてアイクは家を追い出される形で家を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...