ジェンダーレス男子は花を愛でる

aNNa

文字の大きさ
上 下
7 / 11

7✿幼馴染

しおりを挟む

「おーい、紫陽!一緒に帰ろうぜ。」

 脱力感に苛まれながら紫陽がトボトボ帰っていると後ろから雅紀がやって来た。

「あれ?お前部活は?」

「今日は顔合わせだけ♪紫陽も入ればいいのに!サッカー部。あんなに上手いのに勿体ねぇーよ。」

「いや、部活はもういい。」

「そ?まぁお前はテストで1位取らなきゃだもんな~笑」

(いやもうほんと、コイツ空気読めねぇ・・・)

「今回は無理っぽいけどな・・・」

 紫陽は諦めたように溜め息をつきながら力なく答えた。

「マジか?!お前が自信ないの珍しいな~何かあったのか?」

 雅紀はニヤニヤしながら紫陽の反応を窺っている。


「・・・何かって?」

「華園と何かあったのかな~って。」

「・・・お前まさか?!」

 雅紀の問いかけの意図に気付いた紫陽は慌てて立ち止って振り向いた。

「いや、わざとじゃねぇから!たまたま下駄箱行ったら目撃しちまっただけだから!笑」

(あ~もう、最悪だ。。入学してから俺ほんとついてない。)

「あれは、その、アイツに聞きたいことがあったのに聞いていいか躊躇って、誤魔化そうとしたら変な風に・・・」

「花は好きかって?笑」

「あーーもうッ!!忘れろよ!」

 雅紀は腹をかかえて笑いながら紫陽の背中をバシバシ叩いてきた。

「華園か~男だってわかっててもあのレベルの美人さだとうっかり惚れちまっても仕方ないよな~」

「惚れ・・・は??いや、そんなんじゃねーし。」

 珍しく余裕のない紫陽の反応が面白くて雅紀はついつい揶揄いたくなる。

「でも気になるんだろー?お前が人にそこまで興味持つの珍しいじゃん?」

「いや、それはアイツが首席だからであって・・・」

 そこまで言うと紫陽が急に遠くを見て立ち止った。

「紫陽?」

 雅紀も立ち止って紫陽が見ている方向に目をやると、葵が男と手を繋いで楽しそうに笑いながら歩いているのが見えた。

「うわ、、あれ彼氏か??」

 そう口に出した雅紀ははっとして紫陽の顔色を窺う。

(もしかして紫陽ショック受けてるんじゃ・・・)

「あいつ、男が好きなのか?ジェンダーレス男子って言うから恋愛対象は女かと思って・・・って、何?」

 ポカンとした顔をしている雅紀を見て紫陽が首を傾げる。

「あ、いや、びっくりするくらい冷静だったから・・・妬いたりしねぇのかと思ってさ。」

「誰に?」

「あの男に!」

「いや、だから俺は別に華園のことは何とも思ってねぇーし。」

(確かに気にはなっているが、あくまでそれはライバルとしてだしな・・・ん?じゃあアイツこそ彼氏いるのに俺にキスしてきたってことじゃないか!そもそも何で俺がアイツの言動にいちいち振り回されなきゃなんないんだ!?よく考えたら腹立って来た・・・)

「はぁ・・・。帰って勉強する。」

「え?」

「帰って猛勉強して次のテストこそ俺が1位とってやるよ!!クソッ」

 急にそう言って走っていってしまった紫陽の後ろ姿に呆気にとられて立ち尽くす雅紀。

「あはは。あれ無自覚か??それだと失恋して躍起になってるように見えるぜ紫陽・・・」

 続けざまに親友の見た事のない一面が見れて面白くて仕方がない雅紀だった。


____________


「ハァハァ・・ッ、部活辞めて完全に運動不足だな。」

 走り疲れて息切れした紫陽は自販機で水を買い、すぐ側にあったベンチに座り込んだ。

 そこは川沿いの綺麗な遊歩道になっていたが、今は慌しく工事の音が鳴り響いていた。

(ここ塀が出来るんだな。確か前の台風で増水してヤバかったとか雅紀が言ってたような・・・)

 紫陽が水を飲みながらそんな事を考えていると、

「隣、いいかな?ちょっと歩き疲れてしまって・・・ここしかベンチが見当たらなくてね。」

 そう声をかけてきた若い男性は杖をつきながらおぼつかない足取りでゆっくりと歩いて来てた。

「あ、どうぞ。」

「ありがとう。」

 紫陽がベンチの端へ寄ってスペースを開けると、男性は笑顔で礼を言って隣に腰を下ろした。

(ん?あれ、この男・・・)

「えッ!」

「ん?どうかしたのかな?」

「あ、いや・・・・」

 紫陽の隣に座った男性はまさかの、、つい先程葵が手を繋いで歩いていた男だったのだ。

(こんなことってあるか?・・・気まずい。しかも華園ともさほど親しくもないのにさっき華園と居ましたよねとか聞くのは変だろ!?何てごまかせば・・・)

 紫陽が何か言うべきか迷っていると、男性は特に気にしてなさそうで、工事している方を眺めながらゆっくりと呟いた。

「ここの川、前に増水して大変だったの知ってる?やっと塀ができる事になったんだね・・・何年も前から危ないって言われてたのに今更やっとだよ。」

「・・・・」

 含みのあるような物言いに何て答えるべきか紫陽が迷っていると、

「あぁ、急にごめんね。」

 男性はそう申し訳なさそうに笑うと、右膝を撫でるようにして出来かけの塀を悲しそうに見つめている。

 大学生くらいだろうか、、歳はそこまで離れていないように見える。真面目そうで柔らかい雰囲気のまさに『いい人』という感じが滲み出ているような人だった。

「・・・ここで何かあったんですか?あ、言いたくなかったら別にいいんですけど・・・その、気になって。。」

 気まずそうに紫陽がそう問いかけると、少し時間を置いてから男性はゆっくりと話しだした。



「去年の夏。5つ歳下の幼馴染がここで亡くなったんだ。」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

知りたくて

すずかけあおい
BL
央音のすべてを知りたくて手を取ったのに、知れば知るほどわからなくなっていく。二人でいるのに、独りぼっちのようだった。 よくわからない攻めを知りたい受けの話です。 〔攻め〕央音(おと) 〔受け〕貴暁(たかあき)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...