他人事とは思えない

きのたまご

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月島が仲間になりたそうにこっちを見ている

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黒いTシャツに、ベージュ色のパンツ。

そして手には、紙コップ。中には、こんもりと溢れんばかりに、というかコップの縁からすでに溢れた分をどうにか竹串を刺して留めている鶏の唐揚げを持って、緑川くんがこっちを見ていた。

「緑川くん……」
「よっ。月島も来てたのか」

彼が微笑んで、動く人たちの壁をまるでサッカーのドリブルみたいにするするすり抜けてこっちに駆け寄ってくる。

そして、私を頭からつま先まで眺めて、言った。

「可愛いな、その格好」
「え、あ、あ、ありがとう……」

本当は、浴衣に着替えるのが面倒だから私服で来たかったんだけど。ん、緑川くんに見せられたならまあ、着てきた苦労が報われたかな。

一通り私の浴衣姿を堪能してくれた緑川くんが、今度はその目を左右に振った。

「月島も一人?」
「え、あー……ううん。クラスの友達と来たんだけど、はぐれちゃって」
「マジ? じゃ捜すの手伝うか」
「う、うん。ありがと」

私に手招きして、踵を返してまた人混みに突入する緑川くん。でもちょっと行ったところでまた振り返って、こっちに手を差し伸べた。

「俺も月島の事を見失ったら本末転倒だな。手、繋ごうぜ」
「そう、だね」

ぎゅっと、その手を握り返す。

「……」

それこそ本末転倒だけど、このまま友達が、見つからなかったらいいのに。

別に、女友達が嫌ってわけじゃないんだけど、5人とか6人で遊ぶより、こうして、二人で居る方が楽しいような……。

なんて、友達と友達を比べるヤな奴になってるじゃん、私。

ごめんね。親友なら許してほしい。

人の波が少し落ち着いた場所で、緑川くんに訊いてみる。

「緑川くんも一人で来たの?」
「ああ、家が結構近いんだ。で、毎年のように、美味いものなんかあるかなって遊びに来てる」
「……で、その成果がそれ、と」

繋いだ手とは逆の手に持ってる、唐揚げの紙カップを指す。かなりアンバランスにニワトリさんたちが詰め込まれてるけど。照れくさそうに緑川くんは肩をすくめる。

「詰め放題で張り切った結果だな。これ落とさないうちに、落ち着いて食べられる場所を探してたら月島を見かけてさ」
「なら、冷めないうちに食べたら?」
「……それもそうだな。月島も食う?」
「いいの?」

頷いてくれた緑川くんが足を止めて、近くを見渡した。

「なら、ここから一旦離脱するか。この人の多さだし、中から捜すよりも、ちょっと離れた場所からの方が月島の連れも見つけやすいかもな」
「そだね。行こ行こ」

一石二鳥とばかりに、屋台と屋台の隙間から私たちは大通りを抜けて人混みを離れた。
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