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「貴様との婚約を破棄する」
断罪のような宣言に、エクス・ピークマンは足を止めた。今のはメレディス王子の声だ。近衛騎士である自分を置き去りにして何をしているのだろう、と物陰から様子をうかがう。
王宮の庭園にある四阿にいるのは三人。第三王子であるメレディス王子、そしてロングホーン侯爵家のヴィストリア姫、そして、この国の聖女であるドロシー・エーメス様だ。メレディス王子の婚約者でもある。
だが当の王子はヴィストリア姫の腰を左腕で抱き寄せており、姫は姫で王子の胸に顔を埋めており、親密さを必要以上に強調している。かねてより不義の噂が王宮内でささやかれていたし、エクス自身も何度か現場を目の当たりにしたこともあるが、まさか婚約者の前で堂々と見せつけるとは。恥知らずにも程がある。
王子も姫も金髪碧眼の美形だが、向かい合っているドロシーはまるで違っていた。
灰色がかった銀髪をうなじのあたりで切り揃え、金と青の虹彩異色は初代聖女にも見られた証である。金糸の入った白のローブは代々続く聖女の礼服だ。
本来ならゆったりしたデザインの筈なのに、内側から引っ張られてどこもかしこも張り詰めている。瞳も頬の肉で押し上げられて糸のようにしか開かない。この国では、女性は細身の方が美しいとされている。ドロシーの体型はその基準から大きく外れていた。
「理由は聞くまでもあるまい。貴様のような女が聖女というだけで婚約者だと? ふざけるな」
聖女になり立ての頃はそうでもなかったが、今では『酒樽が服を着て歩いている』と陰口を叩かれる有様である。体型だけではない。お付きの者が手入れをしているはずなのに肌は荒れ、髪も艶を失っている。
「貴様は婚約者どころか聖女すらふさわしくない。ただ今を以て聖女の任を解く」
まあ、とヴィストリア姫が嬉しそうに自身の手を王子の背中に回す。
正気だろうか、とエクスは主であるメレディスの考えが理解出来なかった。第三王子に聖女解任の権限などない。
なにより、聖女がいなくなればこの国は終わりだというのに。
ウィンディ王国は広大で肥沃な土地だが、王都の周囲は人の手が及ばぬ荒野や大森林であり、魔物の生息地だった。古来から頻繁に魔物の大群が押し寄せ、甚大な被害をもたらしていた。
それが打開されたのが三百年前である。時の偉大な賢者が王宮の地下に特殊な魔法陣を作り、王都を中心として王国に『結界』を張ったのだ。それにより、魔物の類は王都付近に近づけなくなった。『結界』を張り続けるには、特別な波長を持った魔力を大量に必要とする。そのため、一日に一回は補充しなくてはならなかった。
王国では国内から特別な魔力波長を持った人間を探し出し、『結界』の維持に当たらせた。
男性もいたが肉体的に女性の方が魔力が多い。やがて女性のみの仕事とされた。だが年月が経つにつれて、特別な波長を持つ人間が少なくなっていった。波長が合っても『結界』を維持するだけの魔力を持たず、すぐに魔力欠乏で倒れる有様だった。当時の国王は国民全員に魔力の検査を義務づけた。
同時に『結界』の管理者を『聖女』と呼び、囲い込むために高位貴族並みの地位を与え、王族や有力貴族との婚姻を推し進めていった。
それでも『聖女』は徐々に減っていった。特にここ数十年は短命の者が多い。三年から五年程度で、引退するか命を落とした。当代ではドロシーただ一人だ。
奴隷の両親から生まれ、生まれてすぐに孤児院に預けられた。十歳の時に魔力検査で歴代最高クラスの数値を叩き出し、聖女候補として選ばれた。そして先代の逝去に伴い、エーメスの姓と正式に聖女に任ぜられた。その時、結婚相手に選ばれたのは年齢の近かったメレディスだ。メレディスが十三歳、ドロシーが十五歳の時である。
だが、メレディスは隣国であるミレニアム皇国との政情不安や、ドロシーの体調などを理由にずるずると引き延ばしていた。婚約から十年経っても未だに結婚に踏み切る気配はない。ドロシー以降、聖女候補すらいないというのに。
当初はせっついていた国王王妃両陛下も相次いで病で倒れ、離宮で静養している。国王代理である兄の王太子殿下が代わりに婚姻を促しているが、結婚に踏み切る様子はなかった。
「ふん、その顔は『結界』はどうするつもりだ、と言いたいのだろう。残念だったな。貴様の魔力など必要ない」
勝ち誇った顔でこれを見ろ、とメレディスが取り出したのは金色の腕輪である。
「これは持ち主の魔力を引き上げる。これを使えば貴様でなくても量は充分出せる」
それだけではない、と今度は足下に置いていた薄い石版を持ち上げる。何やら文字が書いてあるようだが、遠くてエクスからはよく見えない。
「貴様しか『結界』を維持出来ないというのなら、魔法陣を新しく作り直せばいいのだ。これまでのものとは違い、大地や空気の中にある魔力からも吸収できる。それに大人数での魔力補給も可能だ。仮に腕輪が壊れたとしても普通の人間が十人もいれば、何とかなる。全てはヴィストリアのおかげだ」
こそこそと隠れて魔術師や賢者を招聘していたのはこのためか、とエクスは腑に落ちた。全てはドロシーとの婚約を破棄するためだ。いくらイヤだと言っても『結界』は維持しなくてはならない。王族としての義務を放棄すれば、資質を疑われる。最悪、メレディスの方が王族の籍を剥奪されてしまう。
ヴィストリアは近隣でも評判の美姫であり、メレディスとは幼馴染みである。強い魔力を持っているらしいが、聖女になれる特別な波長は持っていない。ドロシーとの婚約を破棄し、ヴィストリアと結婚するために、『結界』の仕組みそのものに手を加えようとしているのだ。
ロングホーン侯爵家は代々パトロンとして魔術師を積極的に保護してきた。メレディスと協力して新しい『結界』の魔法陣を作り出したのだろう。
「すでに実験も成功している。この『新結界』があれば聖女など必要ない。……ああ、いや、聖女は必要だな。だがそれは貴様ではない」
芝居がかった仕草で、ヴィストリアの髪を撫でる。
「新しい結界には新しい聖女を。初代『新聖女』それがこのヴィストリアだ。そして、我が妃でもある」
頬を赤らめながらうっとりとした表情で更にメレディスに抱きつく。
勝手にしてくれ、とげんなりしたが、先程からドロシーが何一つ言葉を発しないのが気になっていた。エクスのいる位置はちょうど真後ろなので表情が見えない。
「あーのー」
牛のように間延びした声はドロシーのものだ。
「どうした? 抵抗してもムダだぞ。すでに父上や兄たちの了承も得ている。今後は『新結界』でウィンディ王国を守護するとな」
根回し済みのようだ。手回しのいい。
「こーんーやーくーはーきーとーはー」
声自体は悪くないのだが、わざとやっているのではないかと思うほどのんびりした口調だ。端で聞いているエクスも苛つくほどに。
「どーうーいーうーこーとーでーしょーうーかー」
「今頃そこか!」
メレディスがたまりかねた様子で声を上げた。
「だからお前はイヤなのだ。そのような姿を恥ずかしげもなくさらした上に、のろまで無能とは救えないな。仮にも聖女ならば『結界』だけではなく、ケガ人でも直したらどうだ」
歴代の聖女には治癒の奇跡でケガ人や病人を治した者もいるといわれている。だがドロシーは『結界』の保持が手いっぱいなのか、そうした奇跡を使ったという話は聞かない。そのせいか、聖女ドロシーの名前は貴族や王宮勤めの者だけでなく、平民の間でも軽侮の対象だという。
「そーれーかーらー」
まだドロシーの話は続いている。
「そーちーらーのーごーれーいーじょーうーはーどーなーたーでーすーかー? もーしーかー……」
「もういい!」
メレディスはドロシーを突き飛ばし、強引に話を打ち切った。
「貴様と話していると頭が痛くなる。とにかく、貴様はお役御免……いや、貴様には別の任務についてもらう」
にやり、と端正な顔を崩す。その表情は弱者を苛む喜びに満ちていた。
「貴様にはこれから聖女として辺境への慰問に出てもらう」
『結界』は王都を中心に広がっているが、遠ざかるほど効果は弱くなる。何より三百年の間に王国の版図も広がり、結界の外にも領地は広がっていた。そのため結界の外では魔物の被害が多発し、犠牲者も多く出ている。
幾度も救援願いを出されているのに、王都および『結界』内部に住む王侯貴族は、関係ないとばかりに無視を決め込んでいる。先日も西にあるマッキンレイ辺境伯からの増援願いを退けていた。
「あの口うるさい年寄りも聖女様直々の慰問とあれば文句は言うまい」
「まあ、素晴らしいお考えですこと」
ヴィストリアがうっとしたした顔でほめたたえる。エクスには取り巻きやほかの近衛騎士がよく使うおべっかにしか聞こえなかった。
「……」
ドロシーはまだ四阿の床に転がっていた。立ち上がろうとしているようだが、その動きは緩慢そのものだった。
「まあ、みっともない。あれが聖女だなんて」
「『酒樽聖女』どころか、あれでは『芋虫聖女』だな」
いつの間にか王宮勤めの女官や騎士たちが集まっていた。誰一人助け起こそうとせず、嘲笑を浴びせる。
「目障りだ、さっさと立て!」
「……」
怒鳴られても、床に手を突いて起き上がろうとしているところだった。聞こえている様子はない。
「さっさと立てと言っているのだ!」
メレディスは口角を吊り上げ、足を上げて蹴り飛ばそうとする。
「お待ちください」
さすがにこれ以上は見過ごせない。エクスは物陰から姿を現すとメレディスの前に立ちはだかる。
断罪のような宣言に、エクス・ピークマンは足を止めた。今のはメレディス王子の声だ。近衛騎士である自分を置き去りにして何をしているのだろう、と物陰から様子をうかがう。
王宮の庭園にある四阿にいるのは三人。第三王子であるメレディス王子、そしてロングホーン侯爵家のヴィストリア姫、そして、この国の聖女であるドロシー・エーメス様だ。メレディス王子の婚約者でもある。
だが当の王子はヴィストリア姫の腰を左腕で抱き寄せており、姫は姫で王子の胸に顔を埋めており、親密さを必要以上に強調している。かねてより不義の噂が王宮内でささやかれていたし、エクス自身も何度か現場を目の当たりにしたこともあるが、まさか婚約者の前で堂々と見せつけるとは。恥知らずにも程がある。
王子も姫も金髪碧眼の美形だが、向かい合っているドロシーはまるで違っていた。
灰色がかった銀髪をうなじのあたりで切り揃え、金と青の虹彩異色は初代聖女にも見られた証である。金糸の入った白のローブは代々続く聖女の礼服だ。
本来ならゆったりしたデザインの筈なのに、内側から引っ張られてどこもかしこも張り詰めている。瞳も頬の肉で押し上げられて糸のようにしか開かない。この国では、女性は細身の方が美しいとされている。ドロシーの体型はその基準から大きく外れていた。
「理由は聞くまでもあるまい。貴様のような女が聖女というだけで婚約者だと? ふざけるな」
聖女になり立ての頃はそうでもなかったが、今では『酒樽が服を着て歩いている』と陰口を叩かれる有様である。体型だけではない。お付きの者が手入れをしているはずなのに肌は荒れ、髪も艶を失っている。
「貴様は婚約者どころか聖女すらふさわしくない。ただ今を以て聖女の任を解く」
まあ、とヴィストリア姫が嬉しそうに自身の手を王子の背中に回す。
正気だろうか、とエクスは主であるメレディスの考えが理解出来なかった。第三王子に聖女解任の権限などない。
なにより、聖女がいなくなればこの国は終わりだというのに。
ウィンディ王国は広大で肥沃な土地だが、王都の周囲は人の手が及ばぬ荒野や大森林であり、魔物の生息地だった。古来から頻繁に魔物の大群が押し寄せ、甚大な被害をもたらしていた。
それが打開されたのが三百年前である。時の偉大な賢者が王宮の地下に特殊な魔法陣を作り、王都を中心として王国に『結界』を張ったのだ。それにより、魔物の類は王都付近に近づけなくなった。『結界』を張り続けるには、特別な波長を持った魔力を大量に必要とする。そのため、一日に一回は補充しなくてはならなかった。
王国では国内から特別な魔力波長を持った人間を探し出し、『結界』の維持に当たらせた。
男性もいたが肉体的に女性の方が魔力が多い。やがて女性のみの仕事とされた。だが年月が経つにつれて、特別な波長を持つ人間が少なくなっていった。波長が合っても『結界』を維持するだけの魔力を持たず、すぐに魔力欠乏で倒れる有様だった。当時の国王は国民全員に魔力の検査を義務づけた。
同時に『結界』の管理者を『聖女』と呼び、囲い込むために高位貴族並みの地位を与え、王族や有力貴族との婚姻を推し進めていった。
それでも『聖女』は徐々に減っていった。特にここ数十年は短命の者が多い。三年から五年程度で、引退するか命を落とした。当代ではドロシーただ一人だ。
奴隷の両親から生まれ、生まれてすぐに孤児院に預けられた。十歳の時に魔力検査で歴代最高クラスの数値を叩き出し、聖女候補として選ばれた。そして先代の逝去に伴い、エーメスの姓と正式に聖女に任ぜられた。その時、結婚相手に選ばれたのは年齢の近かったメレディスだ。メレディスが十三歳、ドロシーが十五歳の時である。
だが、メレディスは隣国であるミレニアム皇国との政情不安や、ドロシーの体調などを理由にずるずると引き延ばしていた。婚約から十年経っても未だに結婚に踏み切る気配はない。ドロシー以降、聖女候補すらいないというのに。
当初はせっついていた国王王妃両陛下も相次いで病で倒れ、離宮で静養している。国王代理である兄の王太子殿下が代わりに婚姻を促しているが、結婚に踏み切る様子はなかった。
「ふん、その顔は『結界』はどうするつもりだ、と言いたいのだろう。残念だったな。貴様の魔力など必要ない」
勝ち誇った顔でこれを見ろ、とメレディスが取り出したのは金色の腕輪である。
「これは持ち主の魔力を引き上げる。これを使えば貴様でなくても量は充分出せる」
それだけではない、と今度は足下に置いていた薄い石版を持ち上げる。何やら文字が書いてあるようだが、遠くてエクスからはよく見えない。
「貴様しか『結界』を維持出来ないというのなら、魔法陣を新しく作り直せばいいのだ。これまでのものとは違い、大地や空気の中にある魔力からも吸収できる。それに大人数での魔力補給も可能だ。仮に腕輪が壊れたとしても普通の人間が十人もいれば、何とかなる。全てはヴィストリアのおかげだ」
こそこそと隠れて魔術師や賢者を招聘していたのはこのためか、とエクスは腑に落ちた。全てはドロシーとの婚約を破棄するためだ。いくらイヤだと言っても『結界』は維持しなくてはならない。王族としての義務を放棄すれば、資質を疑われる。最悪、メレディスの方が王族の籍を剥奪されてしまう。
ヴィストリアは近隣でも評判の美姫であり、メレディスとは幼馴染みである。強い魔力を持っているらしいが、聖女になれる特別な波長は持っていない。ドロシーとの婚約を破棄し、ヴィストリアと結婚するために、『結界』の仕組みそのものに手を加えようとしているのだ。
ロングホーン侯爵家は代々パトロンとして魔術師を積極的に保護してきた。メレディスと協力して新しい『結界』の魔法陣を作り出したのだろう。
「すでに実験も成功している。この『新結界』があれば聖女など必要ない。……ああ、いや、聖女は必要だな。だがそれは貴様ではない」
芝居がかった仕草で、ヴィストリアの髪を撫でる。
「新しい結界には新しい聖女を。初代『新聖女』それがこのヴィストリアだ。そして、我が妃でもある」
頬を赤らめながらうっとりとした表情で更にメレディスに抱きつく。
勝手にしてくれ、とげんなりしたが、先程からドロシーが何一つ言葉を発しないのが気になっていた。エクスのいる位置はちょうど真後ろなので表情が見えない。
「あーのー」
牛のように間延びした声はドロシーのものだ。
「どうした? 抵抗してもムダだぞ。すでに父上や兄たちの了承も得ている。今後は『新結界』でウィンディ王国を守護するとな」
根回し済みのようだ。手回しのいい。
「こーんーやーくーはーきーとーはー」
声自体は悪くないのだが、わざとやっているのではないかと思うほどのんびりした口調だ。端で聞いているエクスも苛つくほどに。
「どーうーいーうーこーとーでーしょーうーかー」
「今頃そこか!」
メレディスがたまりかねた様子で声を上げた。
「だからお前はイヤなのだ。そのような姿を恥ずかしげもなくさらした上に、のろまで無能とは救えないな。仮にも聖女ならば『結界』だけではなく、ケガ人でも直したらどうだ」
歴代の聖女には治癒の奇跡でケガ人や病人を治した者もいるといわれている。だがドロシーは『結界』の保持が手いっぱいなのか、そうした奇跡を使ったという話は聞かない。そのせいか、聖女ドロシーの名前は貴族や王宮勤めの者だけでなく、平民の間でも軽侮の対象だという。
「そーれーかーらー」
まだドロシーの話は続いている。
「そーちーらーのーごーれーいーじょーうーはーどーなーたーでーすーかー? もーしーかー……」
「もういい!」
メレディスはドロシーを突き飛ばし、強引に話を打ち切った。
「貴様と話していると頭が痛くなる。とにかく、貴様はお役御免……いや、貴様には別の任務についてもらう」
にやり、と端正な顔を崩す。その表情は弱者を苛む喜びに満ちていた。
「貴様にはこれから聖女として辺境への慰問に出てもらう」
『結界』は王都を中心に広がっているが、遠ざかるほど効果は弱くなる。何より三百年の間に王国の版図も広がり、結界の外にも領地は広がっていた。そのため結界の外では魔物の被害が多発し、犠牲者も多く出ている。
幾度も救援願いを出されているのに、王都および『結界』内部に住む王侯貴族は、関係ないとばかりに無視を決め込んでいる。先日も西にあるマッキンレイ辺境伯からの増援願いを退けていた。
「あの口うるさい年寄りも聖女様直々の慰問とあれば文句は言うまい」
「まあ、素晴らしいお考えですこと」
ヴィストリアがうっとしたした顔でほめたたえる。エクスには取り巻きやほかの近衛騎士がよく使うおべっかにしか聞こえなかった。
「……」
ドロシーはまだ四阿の床に転がっていた。立ち上がろうとしているようだが、その動きは緩慢そのものだった。
「まあ、みっともない。あれが聖女だなんて」
「『酒樽聖女』どころか、あれでは『芋虫聖女』だな」
いつの間にか王宮勤めの女官や騎士たちが集まっていた。誰一人助け起こそうとせず、嘲笑を浴びせる。
「目障りだ、さっさと立て!」
「……」
怒鳴られても、床に手を突いて起き上がろうとしているところだった。聞こえている様子はない。
「さっさと立てと言っているのだ!」
メレディスは口角を吊り上げ、足を上げて蹴り飛ばそうとする。
「お待ちください」
さすがにこれ以上は見過ごせない。エクスは物陰から姿を現すとメレディスの前に立ちはだかる。
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