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第九章

ヤマトの国の入国と正規の使者

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「ユーリシアさん、ダンゾウのことをよろしくお願いします」
 鋤を持って畑を耕していた深く頭を下げて私に言う。
「ああ、任せておけ。縄で縛りつけてでも戻って来る」
 カンスの背後で、クルトがダイさんからクワを借りて一瞬で畑を耕して種芋を植えた結果、一瞬で収穫できそうなジャガイモ畑が誕生したのだが、いつものよくある話なので割愛する。
 ダイさんは顎が外れるんじゃないかというくらい口を大きく開けて驚いているが、リーゼもシーナも全く気にしていないし。
「ユーリシアさん、話は終わりましたか?」
「終わったよ。飛空機を飛ばす魔法晶石のエネルギーは十分なのかい?」
「はい。魔力は十分入ってます。ヤマトの国内の地図があるので問題ありません。」
「地図があるのか?」
 ヤマトの国は異国の人間の出入りが非常に少ない国で、地図はないはずなんだが。
 特に最近は鎖国と呼ばれる国境封鎖を行い、一部の土地以外は立ち入ることもできない。
 ミミコですら地図を用意できなかったのに。
「昔、父さんと母さんが住んでいたことがあるみたいなんです」
「そういえばハスト村の方々は十年に一度引っ越しをして、世界中を旅なさっていたのですね」
 千二百年以上前の地図か。
 確かにあの頃なら鎖国も行われていない。
「地図を見せていただけますか?」
「これです」
 リーゼが地図を確認する。
「ダンゾウさんの家にあった本の中に書かれていた地名の町や村もいくつかありますね。すると、桃源郷は大体この辺りでしょうか?」
 リーゼがおおよその目星をつける。
「飛空機で行けば直ぐに着くんだが……さすがにマズいよな」
「不法入国になりますからね。上空を通過するだけなら地上から認識されない高度で飛んでいけば問題ありませんが、地上に降りて情報を集めて回るとなると、正規のルートで入国したいです」
「となると、ナサガキの港から入国する必要があるか。小さい島国とはいえ、歩くと距離があるぞ」
「そのあたりは入国してから考えましょう」
 そうだな。
 ダンゾウもナサガキの港から入国した可能性は高い。そこで情報が得られる可能性もある。
 まずは行ってみよう。
「ダイさん、世話になったな。カンス、シーナ。何かあったら通信機を使って連絡をくれ」
 私はそう言って、ハスト村のお手製の通信機をカンスに投げた。
 遠くにいる人と会話できる魔道具だ。
 戦争に導入されたら情報戦で圧倒的に優位になるかなりヤバイ魔道具なのだが、ハスト村の住民が作った魔道具は全部ヤバイ魔道具なので今更だ。有効活用させてもらおう。
 あと、ニーチェの枝で分木を設置しておいたので、アクリがいつでも転移して来られるようにしておいた。

 飛空機に乗ってヤマトの国に向かう。
 ヤマトの国の近海に着水した。
 さすがに空を飛んで接近したら矢を射られかねないからな。
 飛空機は船にもなるらしく、そこから海上を移動すると、島影が見えてきた。
「あそこがヤマトの国ですか。本当に世界の最東端に来たみたいですよね」
「あれを見るまでは私もそう思っていたよ」
 世界の最も西は魔領、世界の最も東はヤマトの国――なんて言われていたが、ヤマトの国からさらに東に行けば別のみたこともない大陸がある。
 私たちはそれを月面から見て知った。
 ハスト村の住民はその別の大陸にも引っ越したことがあるらしいので、きっとその大陸にも住民がいて、私たちとは異なる文化で生活をしている人たちがいるのだろう。
「さて、なんて説明して入港しようか――」
 と私が呟くと、後ろの席にいたファントムの一人が書類を回してきた。
 これは、親書?
 国王の王印付き。
「この印は本物か?」
 私の問いに、ファントムは頷いた。
 そりゃそうだよな。
 王印の偽造は重罪だ。
 いくらファントムでも、いや、ファントムだからこそそんな愚行はしない。
 これで私たちは正式にホムーロス王国の遣いになったから、ナサガキの入港は問題ないだろう。

 ナサガキの港に入港した。
 ホムーロス王国の親書のお陰で問題なく入港はできたが、ナサガキの町から外に出ることは許されなかった。
 ただし、親書がある以上、迎賓館に行く必要がある。
 ここで迎賓館に行かなければ、私たちは親書を持って何をしに来たのだ? と言われるからな。
「ホムーロス王国の姫君、ようこそおいでなさった。この町の管理をしている長名と申します」
「はじめまして、長名殿。急な来訪の応対、感謝いたします。こちらは友好の証として持ってまいりました品です。どうぞお収めください」
 と言って、リーゼはファントムが用意していたホムーロス王国の交易品を渡す。
 特にホムーロス王国の砂糖はヤマトの国では人気らしく喜ばれた。
 表向きに用意していた今後のヤマトの国での交易についてのアレコレを済ませ、あとは観光をするフリをしてこっそりとこの町を出る――つもりだったのだが。
「姫君に見て頂きたいものがございます」
「私にですか?」
「ええ……都の忍連中から渡された書類です」
 そう言って出された書類に私たちは頭痛がした。

 私、クルト、リーゼの三人の手配書だった。
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