勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

文字の大きさ
上 下
207 / 214
第九章

ヤマトの国の入国と正規の使者

しおりを挟む
「ユーリシアさん、ダンゾウのことをよろしくお願いします」
 鋤を持って畑を耕していた深く頭を下げて私に言う。
「ああ、任せておけ。縄で縛りつけてでも戻って来る」
 カンスの背後で、クルトがダイさんからクワを借りて一瞬で畑を耕して種芋を植えた結果、一瞬で収穫できそうなジャガイモ畑が誕生したのだが、いつものよくある話なので割愛する。
 ダイさんは顎が外れるんじゃないかというくらい口を大きく開けて驚いているが、リーゼもシーナも全く気にしていないし。
「ユーリシアさん、話は終わりましたか?」
「終わったよ。飛空機を飛ばす魔法晶石のエネルギーは十分なのかい?」
「はい。魔力は十分入ってます。ヤマトの国内の地図があるので問題ありません。」
「地図があるのか?」
 ヤマトの国は異国の人間の出入りが非常に少ない国で、地図はないはずなんだが。
 特に最近は鎖国と呼ばれる国境封鎖を行い、一部の土地以外は立ち入ることもできない。
 ミミコですら地図を用意できなかったのに。
「昔、父さんと母さんが住んでいたことがあるみたいなんです」
「そういえばハスト村の方々は十年に一度引っ越しをして、世界中を旅なさっていたのですね」
 千二百年以上前の地図か。
 確かにあの頃なら鎖国も行われていない。
「地図を見せていただけますか?」
「これです」
 リーゼが地図を確認する。
「ダンゾウさんの家にあった本の中に書かれていた地名の町や村もいくつかありますね。すると、桃源郷は大体この辺りでしょうか?」
 リーゼがおおよその目星をつける。
「飛空機で行けば直ぐに着くんだが……さすがにマズいよな」
「不法入国になりますからね。上空を通過するだけなら地上から認識されない高度で飛んでいけば問題ありませんが、地上に降りて情報を集めて回るとなると、正規のルートで入国したいです」
「となると、ナサガキの港から入国する必要があるか。小さい島国とはいえ、歩くと距離があるぞ」
「そのあたりは入国してから考えましょう」
 そうだな。
 ダンゾウもナサガキの港から入国した可能性は高い。そこで情報が得られる可能性もある。
 まずは行ってみよう。
「ダイさん、世話になったな。カンス、シーナ。何かあったら通信機を使って連絡をくれ」
 私はそう言って、ハスト村のお手製の通信機をカンスに投げた。
 遠くにいる人と会話できる魔道具だ。
 戦争に導入されたら情報戦で圧倒的に優位になるかなりヤバイ魔道具なのだが、ハスト村の住民が作った魔道具は全部ヤバイ魔道具なので今更だ。有効活用させてもらおう。
 あと、ニーチェの枝で分木を設置しておいたので、アクリがいつでも転移して来られるようにしておいた。

 飛空機に乗ってヤマトの国に向かう。
 ヤマトの国の近海に着水した。
 さすがに空を飛んで接近したら矢を射られかねないからな。
 飛空機は船にもなるらしく、そこから海上を移動すると、島影が見えてきた。
「あそこがヤマトの国ですか。本当に世界の最東端に来たみたいですよね」
「あれを見るまでは私もそう思っていたよ」
 世界の最も西は魔領、世界の最も東はヤマトの国――なんて言われていたが、ヤマトの国からさらに東に行けば別のみたこともない大陸がある。
 私たちはそれを月面から見て知った。
 ハスト村の住民はその別の大陸にも引っ越したことがあるらしいので、きっとその大陸にも住民がいて、私たちとは異なる文化で生活をしている人たちがいるのだろう。
「さて、なんて説明して入港しようか――」
 と私が呟くと、後ろの席にいたファントムの一人が書類を回してきた。
 これは、親書?
 国王の王印付き。
「この印は本物か?」
 私の問いに、ファントムは頷いた。
 そりゃそうだよな。
 王印の偽造は重罪だ。
 いくらファントムでも、いや、ファントムだからこそそんな愚行はしない。
 これで私たちは正式にホムーロス王国の遣いになったから、ナサガキの入港は問題ないだろう。

 ナサガキの港に入港した。
 ホムーロス王国の親書のお陰で問題なく入港はできたが、ナサガキの町から外に出ることは許されなかった。
 ただし、親書がある以上、迎賓館に行く必要がある。
 ここで迎賓館に行かなければ、私たちは親書を持って何をしに来たのだ? と言われるからな。
「ホムーロス王国の姫君、ようこそおいでなさった。この町の管理をしている長名と申します」
「はじめまして、長名殿。急な来訪の応対、感謝いたします。こちらは友好の証として持ってまいりました品です。どうぞお収めください」
 と言って、リーゼはファントムが用意していたホムーロス王国の交易品を渡す。
 特にホムーロス王国の砂糖はヤマトの国では人気らしく喜ばれた。
 表向きに用意していた今後のヤマトの国での交易についてのアレコレを済ませ、あとは観光をするフリをしてこっそりとこの町を出る――つもりだったのだが。
「姫君に見て頂きたいものがございます」
「私にですか?」
「ええ……都の忍連中から渡された書類です」
 そう言って出された書類に私たちは頭痛がした。

 私、クルト、リーゼの三人の手配書だった。
しおりを挟む
感想 701

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。